第3話 喧嘩の街
「ユウマ、少々大変だがやってもらいたい仕事があるんだ」
アスラさんからの仕事の依頼、机には資料がずらりと並んでいる。説明すると指示棒を取り出し街の写真を指す。
「廃墟の街、ここに能力者が潜伏している疑いがある」
愛知県の山間部、盆地にあるこの街はかつて巨大なショッピングモールを中心に新興住宅街として計画が進められていた。他にも遊園地、マンション、オフィスビルが建てられ順風満帆なスタートを切るかと思われていた。しかし交通の利便性が悪すぎた、街に入る手段は電車かトンネル道の二つだけ。初期がピークで次第に衰退。近くにライバル店が出店したのがトドメとなり町内からショッピングモールが撤退、近場で買い物すらまともにできなくなり住民達も出ていった。そして最後は建物だけ残り誰もいなくなる。
「今ここに悪ガキ達が集まっていてな」
夜や週末になると愛知の町や東海地方近辺から喧嘩がしたい奴らが街に入っていく。そしてその頂点に立つ男がどうやら能力者のようだ。
「なら国家権力でも何でも使って彼らを一網打尽にしてしまっては?」
「ワケがあってな」
強引に押さえつけ能力者の男を探すのはもちろんできる。しかしこの喧嘩の街が出来て以来暴行事件が激減しているそう。ストレス発散場としてはかなり優秀なわけか。不思議なことに当然怪我人は出るが大きな事件は起きていないという。彼らは喧嘩がしたいだけ、利害が一致しているからかな。悪人が集まっているというわけではない。最近では国も裏から協力体制だとか。国としては残しておきたいという方針。近くに住んでいる人もいないから立地も非常に良い。
「侵入して能力者を確保してもらいたい」
「わかりました」
「困ったことがあったらすでに潜入している協力者に相談してくれ」
「はい」
「俺好みの仕事なんだが他に仕事が入ってな」
一通り説明を受け仕事受けることを決める。アスラさんはバトル好き、とても残念そうにしている。調査された喧嘩の街の情報を詳しく聞き作戦に備える。三連休を利用して偵察する。前日木曜夜に車で移動、俺は中でぐっすりと眠る。そして当日の金曜朝、組織の施設から出て自転車を借り出発。
「この山か」
山登りから、そこまで傾斜がきつくないのは救いだな。日頃訓練してるからこれくらいならほぼ疲れない。移動の途中、参加者と思わしき人物達を見かける。街に向かっている人達は誰もかれもが鋭利なナイフのような雰囲気を醸し出している。帰っていく人は顔や体にあざがあったり怪我をしていることがあるが逆にすっきりとした顔。まあわかる、言葉だけでは制御できないものってあるよね。皆噂を聞きこの街に来ているのかな。大きなトンネルが見えてきた、情報では街に通じるトンネル、その前に街の住人らしき人物が二人。
「ようこそ、喧嘩の街へ」
「プレイヤーかな、それとも見学者?」
彼らは受付役、入る前にルールを教えてくれる。
「見学です」
「見学者はこの反射タスキを身に着けて入ってくれ」
まずは見学、実際に喧嘩の街と内部を自身の目で拝見。明るい色のタスキを受け取り身に着けてトンネルへ入っていく。本来の灯りはついていないがところどころに照明が置いてあるから懐中電灯がなくても歩いていける。トンネルを抜けると廃墟が見えてきた。廃墟と言っても最近打ち捨てられた街だ、きれいな街並みが残っている。入り口付近で早速殴り合いの喧嘩をしている人達を発見。周りをギャラリーが囲んでいる。喧嘩のルールは武器以外何でもあり、不意打ちは禁止、正々堂々の一対一のバトル。暗黙のルールはあり必要以上に痛めつけたり殺したりはしないようにしている。喧嘩というよりも競技に近いかな。ルールなし素手の殴り合いってだけでも競技からはかけ離れているか。ゲーム的な要素があり、自分の名前入りのバッジをかけて戦う。もちろん偽名OK。気に入った相手を見つけたらお互いバッジを地面に投げあい喧嘩開始、勝ったら相手のバッジを奪える。負けた場合はバッジを渡し、それまで勝って奪った分は運営の人に返却する。街内部の受付、もしくはトンネル入り口に戻ればまたやり直せる。バッジを持っていないと喧嘩に参加できない。
「おらっ!」
「うぐっ」
良い攻撃がはいったな、カウンター気味のパンチを食らい、倒れる男。そのまま意識を失う。勝った男は二つのバッジを拾いその場を去る。
「もろにはいったな、先生のところに連れて行こう」
倒れた男を担架に乗せ運んでいく。彼らは街のボランティア、トンネル前の門番や医者の先生もそう。実は国の関係者が運営を取り仕切っている。多くのボランティアに国の息がかかっており、医者に関しては直接国から派遣された人。免許は持っていない裏医師としてここに来ている。それにしても意外と人がいる、他では生の喧嘩なんて見られないからな。遠征して来ている物好きもいるとか。喧嘩はどんな場所でもおこなわれる。家屋の中、工場の中、店の中。様々なシチュエーションを楽しむことができる。地形を利用したりして戦うのは面白そうだな。
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