桜の栞でお名前を

桜桃

第1話

 いつものように始まる一日。

 めんどくさいと思いながらも、ベッドから体を起こし、制服に着替える。


 ぐしゃぐしゃの黒髪、鏡の前で一応整えるけど、まぁ、俺は別に周りに何と思われようとどうでもいいから、適当適当。


 あー、ねっむ。昨日、本を読んでて寝不足なんだよなぁ。


 …………って、あっ。

 着替えた時にか? 桜の栞が落ちた。


 そういや、これ、誰からもらったんだっけ。

 小さい時、なんか、お揃いで…………めんどくせ、いっか。


 寝室から出て、リビングに。

 ご飯はいらない、めんどくさい。


 このまま欠伸をしながら家のドアを開ける。


 外は暗雲。暗いなぁ、これじゃ気分が上がらないのも無理はない。

 そのままめんどくさいが学校へ。


 通学路を歩いているから周りの声がうるさい。

 イヤホンを付けようとすると――……


「おっと」

「きゃ!!」


 曲がり角から女が現れた。

 俺に気づいて転びそうになっていたが、スルー。

 反射神経はいい方なんだよ、簡単に避けるぞ。


 ――――ドテッ


「いってて…………」


 なんだ、こいつ。

 あっ、俺と同じ高校の制服だ。


 黒髪に、薄紅色のメッシュが入っている女。

 同い年くらいか? まぁ、どっちでもいいか。


 スルーして歩こうとすると、後ろから呼び止められた。


「あ、あの!!」


 ……………………はぁ。


「なに?」

「もしかして、桜川高校の生徒さんですか?」

「…………違います」


 そのまま歩く。

 本当は桜川高校の生徒だが、これで素直に頷くと変なことに巻き込まれそうだし、無視が一番。


「え、でも、その制服…………あ、待ってください!」


 これ以上余計な事を言われないように歩き始めるけど――ちっ、隣に来やがった。


「あの、私、桜川高校に転校してきた、桜花鈴(おうかりん)です。貴方の名前は?」


 無視、無視、めんどくさい。


「あ、あの? 聞こえてますか?」


 無視。


「あの、あ…………」


 むsっ――………


「すいません!!!!! 聞こえてますかぁぁぁぁああ!!」

「うるせぇぇぇぇええ!!」

「あっ、聞こえてました!!」


 耳元で大きな声を出しやがったこの女、鼓膜が破れるわ。


「なんなんだよさっきから、うるせぇな!!」

「いえ、さっきから返答がないので、もしかしたら声が聞こえない人なのかなって思いまして。それでしたら手話でお話ししようかなと」

「無視されてんだよ気づけよ!」


 あ、普通にいっちまった。

 怪訝そうな顔を浮かべているな。


「貴方ってもしかして、変な人なんですか?」

「どういう聞き方?」


 こいつの頭はどうなっているんだ、真面目に聞いてきやがって。


「いえ、人を無視する人は変な人なのかなって思って」

「だから、聞き方」


 もう、こいつ嫌だ、めんどくさい。


「はぁ、もう行く」

「あ、待ってください!!」


 …………女が立ちふさがった。


「お名前、教えてください!」

「山田太郎」

「…………本当ですか?」

「本当本当」


 そのままスルーして歩く。

 もう、夏が終わり、秋になるからなのか、地面が枯れ葉で埋もれている。


 虫とかが時々潜んでいるから嫌なんだよなぁ。

 とか、思っていると、またしても後ろから腕を引っ張られた。


「私、迷子なんです。連れて行ってください!!」

「断る」

「手を放しませんよ?」


 女の力で男の俺を止められると本気で思ってんのか?


「はぁ……。他の奴に頼めや」

「貴方以外に人がいません」


 そんなわけ……いねぇ。

 さっきまでいたのに!?


「…………探せ」

「嫌です!!!」


 腕の引っ張り合い、もげるもげる!!!


「案内してください!!」

「断る!!!」

「グヌヌヌヌヌヌ!!!!!!」


 お互いに引っ張っていると、こいつのポケットから何かが落ちた。


「おい、何か落ちたぞ」

「え、あ」


 よし、手を離したな、この隙に……。


「あ、あれ?」


 こいつが落したのって、桜の栞?


「よかった、気付いてくださりありがとうございます! これ、昔、時々一緒にいた人とおそろいなんですよ!」

「おそろい?」

「そうです!! お互い、図書館で本を読んでいる時に、私が渡したんです。一緒の本を読んでいたので、その記念に!」


 …………あぁ、思い出した。

 こいつだったか。たしかに、記憶に薄紅色のメッシュが微かに残ってる……。


「これを目印に探しているんです。図書館で会った時、名前を教えてくれなかったので」


 絡まれたくなくて、その時も無視してたなぁ~。そう言えば。


「また会う事が出来たら、今度こそ名前を聞くんです!!」


 ………………………………もう、こいつには会わないようにしよう。

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桜の栞でお名前を 桜桃 @sakurannbo

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