Ð
イタチ
Ð
[
akenaiasa
]
「それで、いくらくらいなら、借りられるの」
女は、必死な顔をして、窓口の向こうで、アクセサリーを揺らしている
そのブランド物を、買わなければいいのに
そんなことを思いながら、高そうな化粧の匂いに、嫌気がさす
「ですから、あなたは、今月いっぱいの限度額を」
刑務所の面会室みたいな、透明なアクリルガラスに、丸いハチの巣のような穴が開いている
「うっせぇんだよ」
私は、電話を、足元で、押さえながら、シャッターを、閉めてやろうと思った
「間に合わねえんだよ、足りねえんだよ」
私は、事足りる
そんなことを、思いながら、事務所のほうに、電話をすることにした
これでは、他の客が、入ってこれない
それでも入ってくるような人間は、いらないが
事務所の人間が来るのは、何分後であろうか
私は、叩くことに飽きた動物園の動物が
床に転がって、小学生のように、ほしいものを、ねだっている
その様子を、笑いながら、見ていた
この瞬間が最も好きなのだ
「愛がほしい」
この世で、どこにでもあるようで、どこにもなさそうなもの
私は、相手に、愛を、あげられているのであろうか
あげないから、相手もくれないのであろうか
それでも、金があれば、相手が、喜ぶことも多い
私は、だから、必要なのだ
足りない足りない足りない足りない
体を切り売りにしても、時間を、分散させても、圧倒的に
私の欲しい愛は、手に入らない
誰が持って隠しているのだろう
私は、金を払わないと、それが手に入らない
私は、それを、どうやって、手に入れていたのだろうか
手に入れたことはあるのだろうか
彼は、何を求めているのだろう
頭の悪い自分には、全くわからない
本当に、何か欲しいのであろうか
それでも、焦っているのはわかる、何か、憔悴しているような
何かを求めているのはわかる
でも、それは、私ではない
私であれば、そこにいる
しかし、その先を、彼は求めている
それは、物なのか、別の何かなのかは、私には、分からない
でも、彼がほしい、彼が、幸せな時が、私の幸せなのだから
それでも、何かが足りない
何が足りないのか、私にはわからないでいる
でも、足りないの
時計を見て、私は、服を着替える必要があることを、思い出す
最近ご飯を、いつ食べただろうか
金策に駆け回っているうちに、そんな時間などないことを知る
もう、仕事場に向かわないと
軽くシャワーを浴びると
玄関を出た、眩暈にも似た日光が、沈み始めている
私は、時計を見た
全てが、早すぎる
遅すぎる
自分の感覚が、消失していく
それでも、進まなければならない
私に残されているのは
それしかない
私は、私は、進まなくてはいけない
それしか方法がわからない
幸せは、ただ、そこにいる
それ以外、私にはわからない
「俺、もう死ぬわ」
やはり、私には、足りなかったのだ
彼を、管理、愛を、いや、飼育できなかったのだ
彼が何を、求めていたのだろうか
「ねえ」
手を振り払われた
抱きしめても無駄だというのか
知ってたけど
「うるせえんだよ」
私と同じような言動を、言う彼の事が好きだ
いや、違う人のほうが良かったのかもしれない
でも、私は、合ってしまったし
そして、一緒にいたんだ
この関係を、続けることが、良くなかったのであろうか
私は、正解を知らない
でも、彼は、何かを知っている
でも、プレゼントも、家も、食事も、彼に何も与えても意味がない
何がほしいのだろう
何を与えれば、満足してくれるのか
どうすれば、笑顔になるのか
毎日が普通では駄目なのだろうか
生きているだけじゃ、許されないのであろうか
何がほしいの
言ってみてよ
彼は、口を閉ざすように、暴れながら
「くそが」と繰り返していた
「足りない足りない足りない足りない」
歩いて言っても
誰も助けてはくれない
誰もお金を出してもくれなければ
解決方法を、教えてくれるわけでもない
でも、彼は言う
初めていう
それが何なのかも知らないし
本当に必要なものかもわからない
ただ私は、それを、それを・・・いや何度目だっただろうか
初めてだった気がしないでもない
「ねえ、本当に、それは必要」
私は、彼に言う
「ああ、必要と言えば必要だけど、やっぱり必要なんだ」
私は、表を歩く
幸せは、家にいる
幸せに、金を食わせないと
私は一人だ
私を、みていない
私は不要か
だったら、居なくなれば
私は、彼に、必要とされているのか
私が必要なのだろうか
お金が必要なのか
私は彼が好きなのか
彼を、喜ばせたいのか
私は、彼の何なのか
私は、存在するのか
存在など、どこにも無いのではないのか
私は、初めから
Ð イタチ @zzed9
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