最終話&エピローグ

「先生、まず始めになんですけれど。俺達は別に、恋人関係という訳ではないですからね。」

「はあ?尾緒神お前、急になんてことを言い始めるんだよ。」

 赤堂さんが何言ってんだこいつという顔で此方を見る。

 俺は『なぜ篠崎先生が俺と赤堂さんの関係が友達だと勘違いをしたのか。』という謎に一度躓いてしまっている。その際、自分の思考を停止させているものを崩す為に、篠崎先生が誤解したのはそもそも“友達”関係ではないという可能性を考えてみていた。篠崎先生は元々別の関係性を誤解していた。しかしそれを隠しているかもしれない生徒に直接そうだと断言するようなことは避けたくて“友達”という表現に逃げたのではないか、という仮説を立てた。そしてそれに当てはまりそうな関係が恋人だった。

 篠崎先生は俺の言葉を聞いて一度目を丸くした。近からずも遠からずという感じか。

「これは俺の妄想でしかありません。ですが、間違ってもないんじゃないですか篠崎先生。」

 担任するクラスの生徒から新設の部活動を作りたいと相談された。部活動を作るのには部員が最低でも五人必要であるのだが、その生徒は友達がいないから誰を誘えばいいのか分からないと言った。その時、クラスメイトの人間でもなく同性の人間でもない人間の名前を篠崎先生は挙げた。その理由は“体育でペアになったことがある誰か”とか“昔仲がよかった友達”ではない。そんな問題に対して、もし仮に篠崎先生が俺と赤堂さんとの関係を恋人ではないかと疑っているのなら、と考えてみると、俺はなんとなく納得出来てしまった。つまるところ、彼氏に頼めよということだ。篠崎先生はそう考えたのかもしれない。だとすれば、問題を『なぜ篠崎先生は俺と赤堂さんの関係を恋人だと疑ったのか。』とも考え直すことが出来る。

 恋人関係なら本人達が隠したがっていることもあり得るだろうし、篠崎先生も無闇に踏み込むような野暮なことは自重しようと考えるかもしれない。だから、二人が直接一緒にいる様子を見なくともそうだと思えるような出来事があれば誤解は生じてしまうのではないだろうか。例えば、あるタイミングで偶然俺達二人の姿だけがないとか。勿論、その場合二人が恋人だという確証は得られない。だから“疑っていたのではないか”だ。

 それが例え、俺達が別々の理由で一人になりたかっただけだとしても、誰も感知出来ない場所に二人同時に消えたのなら、甘い想像をしてしまう人間もいるのかもしれない。そんな仮説を俺は立てた。


「尾緒神、悪いが俺はお前達が恋人関係ではないことは分かっているぞ。」

「それは今の話なのではないのですか。今、職員室に来た俺達を見て違うのだと確信した。それまでは、確証はなくても“もしかしたら”程度のことは考えていた。そうじゃないですか?だってそれを否定するのなら、先生は『恋人関係ではないことは分かっているぞ』ではなく、『恋人関係ではないことは分かって』と答えるべきですよね。」

 勿論、現在進行形の話ではあるのだから否定のしようはある。だが篠崎先生はそれをしなかった。

 彼は眉を寄せて困ってしまったような顔をする。そして視線を俺から逸らして

「まあ、そんな気がなかったと言われると、あったのかもしれないな。」

 それに驚いたのは赤堂さんだった。

「そ、そうなんですか?でもどうして?」

 そして彼女は首を傾げる。


「俺は、勘違いの原因は『屋上』ではないかと考察します。」

「屋上?あっ。屋上階段。」

 赤堂さんは何かに気が付いたような声を出す。それはさながら、赤堂さんに初めて図書室の案を出された時の俺のような反応であった。でもそうか、屋上階段が赤堂さんにとっての一人になれる場所だったか。屋上そのものに立ち入らない辺り、彼女は意外といいこちゃんなのかもしれない。でも、この情報は使える。俺は頭の中の考察に、今の情報を付け足し、整理する。信憑性が少しはますはずだ。

「こんなこと、あまり職員室で言うことでもないですが。」

 でも必要なことだからと俺は口にする。

「俺はよく、屋上で読書をしています。」

 朝の学校、裏山があるお陰か大然高校には気持ちのいい風がふく。俺はそれが好きで、よく朝早くから学校に来て屋上で本を読んでいる。屋上には危ないのであまり行かないように、と学校からは言われている。しかし、禁止されている訳ではない。行っても問題はない。けれど多くの生徒は、学校の配慮を気にしてか屋上にはそれほど近づかない。だから俺にとって屋上は、一人で本を読むのにはこの上なく上質な場所だった。大然高校の中でお気に入りの場所はどこかと聞かれれば、屋上と答えてしまいそうなくらいには。

「そして三号館の屋上は、ここから見えます。」

 校舎は一号館、二号館、三号館とあるものの、特殊な形をしていて職員室と三号館の間には中庭があって二号館がない。三号館の屋上は、ここからある程度見えるのだ。

「先生、俺が屋上に行っていることを知っていましたね。」

「否定はしない。」

「そしてさっき赤堂さんが自分で漏らしていましたが、彼女も屋上に。いや、そこに近い場所に行っていた。だから篠崎先生は、俺達が二人、屋上で何かをしていると誤解した。」

 職員室から三号館の屋上は見える。しかし職員室は三階で屋上は三号館の四階の上にある。だから、職員室から三号館の屋上の全貌が見える訳ではない。ここからでは死角になってしまうような場所で、俺達が恋人らしいことをしていると篠崎先生が妄想してもおかしくはないのではないだろうか。俺はそう、自分の考えを修正する。元々はもっとざっくりと恋人関係と結びつける気でいた。例えば、屋上以外の場所に赤堂さんがいないのかを探した結果いなかった。だから先生は赤堂さんが屋上にいると推測した。そして、屋上に俺がよく通っていることは知っていた。その辺りから繋げる気だった。


「時間はおそらく、朝のホームルームが始まる前ですよね。」

 赤堂さんも篠崎先生も、静かに俺の考察を聞いている。それが少し気まずかった。俺が言っていることはただの妄想だ。変な目で見られていてもおかしくはない。それでも、続けるしかないのだけど。

「これも、俺の妄想でしかないのですが。」

 おそらく、赤堂さんは俺と同じで朝早くから学校に来ている。そうでないとこの話は繋がらない。なぜなら、俺が屋上に行くのは決まって朝の時間だけだからだ。

 篠崎先生は、元々赤堂さんのことを担任として気に掛けていたのではないだろうか。俺のように小癪な策を講じていたのならともかく、赤堂さんが篠崎先生から友達のいる生徒とは思われていない可能性は高い。それは、部活動を新設する時に素直に「友達がいないから誰を誘っていいか分からない」と担任に相談してしまうことからもほぼ明らかなのではないだろうか。まあ根拠は昔の自分がそうだったから程度のものだが。他にもそれらしい理由を挙げるのなら、初めて会った時の彼女の様子からでもそうではないかと想像出来る。赤堂さんは死んだ目をしていて雰囲気が暗かった。それで決めつけてしまうのもなんだが、でもそんな生徒を見て友達と楽しく学校生活を送っているなとはまず思わないだろう。あっても、俺のように一人で静かに過ごすのが好きなのかなと思う程度だろう。ただの一人好きならともかく、彼女は死んだ目をしていた。端から見た誰かが心配してしまいそうな目を。

 そんな状態の赤堂さんを、篠崎先生は気に掛けていたのではないだろうか。何か悩みごとがあるのなら相談に乗ってあげたいと思っていたのではないだろうか。もしかすると、NO部を新しく設立することになったきっかけもそうした事情が背景にあるのかもしれない。


 篠崎先生は、職員室からでも自分のクラスの様子を見守っていたのではないだろうか。考えて見れば当然のことであったのだが、この職員室から見て同じ三階である一年一組、二組、三組、四組の教室内の様子はここからでも割と鮮明に見える。二号館が間にないからか、丁度視線を向けられていても気づかない程度の距離が一号館と三号館の間にはあるのだ。そしてそれは、コーヒー機にコーヒーを淹れにいく時に何気に視界に入る背景でもある。勿論、コーヒー機に行くだけで四クラス全ての教室をまじまじと覗いたりしないだろう。けれど、それが自分の受け持つクラスの教室なら話は別だ。誰が教室にいて、どんなことをしているのかくらい、担任ならちょっと気になって見てしまうことくらいあるのではないだろうか。

 今日中庭を歩いて職員室を見上げた時、窓際で古典の先生がコーヒーを飲んでいた。職員室内において窓際に教員の机があることはない。そこは大抵通路になっている。そしてそんなところにコーヒーを持ち寄った古典の先生を俺は少しだけ不思議に感じていた。職員室に入って座席表を見たとき、あの古典の先生の席は俺が先生を見た窓辺の近くにはなかったからだ。だから篠崎先生の机にまで入っていくまでに確認してみれば、古典の先生が居た場所にはコーヒーメーカーが置かれてあった。つまりあの先生は、コーヒーを淹れたついでに下校中の生徒を眺めていたことになる。そしてその考え方はおそらく、篠崎先生の行動にも当てはめられる。職員室ここに来た時、篠崎先生もコーヒーを飲んでいた。


 つまり俺の考えはこうだ。朝、学校に来た先生は朝のコーヒーを淹れる為にあの窓際に近づくことが多かった。その時、赤堂さんが大抵朝早くから教室に来ていることを知ったのではないだろうか。そして赤堂さんは朝学校に来た後、決まってどこかへと向かっていた。篠崎先生はそれを見て、朝彼女がどこに向かっているのかが気になった。その後に先生がどうやって調査をしたのかまでは分からないが、結果的に先生は赤堂さんが屋上に行っているのではないかという結論に行き着いた。その時、朝コーヒーを淹れる際に、屋上で本を読もうとしている俺を見かけていたことを思い出した。そしてこう考えた訳だ。『彼女は尾緒神くんに会う為に朝早くから学校に来ている』と。そう篠崎先生は考察したのではないだろうか。何故なら、それ以外にどうして赤堂さんが朝早くから学校に来ているのかを知らなかったから。安易な結論が、一番都合良かったのだろう。

 まあ、早朝の屋上で本を読みたいからという理由で来ている俺とは違って、どうして赤堂さんが早い時間から学校に来ているのかまでは謎だ。彼女が朝早くに学校に来て、何処かに行っている。その確証もなかった。だから俺はこの推理を深めるために彼女に話を聞きたかった。でも、それは出来なかった。何故ならこれは考察対決だから。不用意に相手に情報を開示したりはしない。だから、まだ負ける可能性がある。至極不安だ。

 学校は、屋上には出来るだけ行かないことを推奨している。そのことから、生徒の模範である教師は自殺やいじめなどの緊急性のある場合以外では屋上には近づき難い。尚且つ、もし俺と赤堂さんが朝の学校で二人だけの愛を育んでいるとするのなら、先生は赤堂さんを気に掛けていたからという理由だけで愛の巣に踏み込むのは忍びなかったのではないだろうか。だから先生は誤解した。俺と赤堂さんが、もしかしたら恋人関係ではないのかと。そうではなくても、赤堂さんは尾緒神に恋しているのかも、くらいのことは思っていたはずだ。そして本人達は隠しているようだから直接聞くことは出来ず、もしくは変に冷やかしだと思われることを避けたかった篠崎先生は、赤堂さんに相談された時にも「尾緒神はお前の友達なのだから、彼には頼めないのか」なんて言葉を言ってしまったのではないだろうか。「彼氏に頼めよ。」なんて言葉は使えずに。


「以上が、俺の考察です。どうだったでしょうか。」

 そんな内容のことを、俺は篠崎先生と赤堂さんの前で披露した。妄想が多分に含まれているのは分かっている。でも俺の中で、この考察が一番しっくりと来た。


「凄いな。まるでどこかでずっと見られていたかのようだ。」

 感嘆としながら篠崎先生はコーヒーを一口だけ飲んで自分の机の上に置いた。俺はその先生の反応に取り敢えず落ち着く為の一息を漏らす。俺の考えは伝えた。後は結果を待つだけだ。

 視線を感じたので、横目で赤堂さんの方を見て見ると、ぶすっとふてくされた顔で此方を睨んでいた。

「な、なに。こわい。」

「いや、妙に説得力があったなって思って。」

「そうかな。赤堂さんの図書室も中々説得力があると思うけど。」

「でも、私のは使い回しだろ?もしこれで私が勝ったとしても、なんだか負けた感じがするというか。」

 口を膨らませながら赤堂さんが腕を組む。

「そんなことより、」

「そんなことって」

「その人造人型決戦兵器は格好いいよな。」

 俺は赤堂さんの持つ雑誌に指を向けながらそう言う。どうして今になってその話題を持ち出したのかは自分でも分からなかった。ただなんとなく、それを口にした。

「え!分かるのか、お前。この機体の格好良さが。」

「なんかちょっと気持ち悪いところが絶妙にいいよな。」

「そうなんだよ!本編は見たことあるか?」

「まあ、一応。」

「まじか!じゃあさじゃあさ!」

 赤堂さんがなんかぐいぐいと近づいて来たと思うと、篠崎先生がコホンと一つ咳払いをする。

「お前ら、勝負の結果はもういいのか?」

「あ。そうだった。」

 それまで元気だった赤堂さんが緊張感を取り戻す。俺はなんとなしにその隣に並んで先生からの結果報告を受ける。


「勝者は―――」


***   ***   ***


「しっつれいしまーす!あ、尾緒神ぃ、おっはよう!」

 昼休み。一年五組の教室の扉が元気よく開かれて、元気な少女が飛び跳ねながら入室してくる。手には雑誌、人造人型決戦兵器の特集が組まれた号のものとお弁当箱が握られている。

「今日もお昼、一緒に食べようぜ!お前とこれの話がしたかったんだ!」

 牛乳パックを飲みながら、今日も今日とてライトノベルを読んでいた俺の腕の間にその雑誌が叩き付けられる。俺の目の前の活字は一瞬にして見えなくなった。


 俺が少し陰鬱としながら顔を上げると、そこには目を輝かせる赤堂さんがいる。

「赤堂さん、俺はこのライトノベルが読みたいんだけど。」

「ええ~。その本、今朝も読んでただろ?お昼は私に付き合ってくれてもいいじゃないか。そうじゃないとこれ、書いて貰うぞ?」

 そういって赤堂さんはをチラ付かせる。勧誘するぞという脅しである。

「……。分かったから、それは勘弁してくれ。」

「やったー!」

 両手を空高くに伸ばしながら赤堂さんは喜ぶ。そして何処からか椅子を持ってくると、俺の対面に座り、特集号を広げながらお弁当も一緒に広げた。


 あの日。俺と赤堂さんが『篠崎先生が何故俺と赤堂さんとが友人関係かと勘違いしたのか』というお題で考察対決をした日。篠崎先生は俺達に『両者引き分け』という結果を言い渡した。その結果から、赤堂さんは過度に俺に部活動勧誘をしないこと。そして俺は赤堂さんの友達になってあげることを提案された。友達と言っても、ずっと一緒にいるようなそれではない。偶に話をする程度の友達でもいいと篠崎先生は言っていた。

 俺は、もし俺が負けるようであれば「図書室で調べていたこと」を使って強引にコトを収めようとしていたのだが、その計画を持ち出すほどの必要はなかった。

 正直に言ってしまえば、俺は俺が部活動に入部したり、無理に勧誘され続けることにさえならなければ後はどうだってよかったのである。この件に親が関わっていないことも、途中から分かっていた。だから俺は、篠崎先生のその折衷案を引き受けた。

 そしたら、何故か毎日のように赤堂さんがこの教室に遊びに来るようになってしまったのだ。朝の屋上読書にも、彼女は顔を見せるようになった。その時は流石に此方の気持ちを汲んでくれているのか、無理矢理話し掛けて来たりはしない。彼女は彼女で、彼女が読みたい雑誌を広げて朝の時間を勝手に過ごしている。


 俺と赤堂さんとの友達関係は、そうして始まったのだ。奇妙なものだ、俺と赤堂さんの間に友達関係はないという考察をしたら最後には友達になってしまっていた。いや、正確には『ならされた』かもしれないが。でも俺は、意外とその関係を気に入っていた。というよりも面白がっていた。人生こんなこともあるのかと。もしかすると俺は、普通は体験出来ないようなことを体験した貴重な機会に恵まれたのかもしれないと。そう前向きに考えるようにしていた。


「おーい。おーい。聞いているのか、尾緒神?」

「ああ、ごめん。」

「ったく。何をぼうっとしているんだよ。」

 赤堂さんは腕を組みながら不機嫌そうに口を膨らませた。

「ちょっと、この前のことを思い出していてな。」

「それって、私とお前の推理対決のことか?」

「え。まあ、そうだけど。」

 あれを推理と呼んでしまうと、お粗末なもの過ぎてなんだか色々な人に申し訳なってくる。実際、正解は違ったみたいだしな。詳しいことは知らないけど。

「そうだ。推理と言えばなんだけどさ、篠崎先生から『放課後の屋上少女』の話を聞いてな!」

 赤堂さんの煌めいた瞳が俺を捉える。俺は片肘を突きながら手の平に顎を置く。牛乳パックのストローをかじりながら彼女に言葉を返す。

「はぁ。放課後の屋上少女?」

 そんなことを聞いて思い出すのも、やはり同じ日で。あの日、篠崎先生の机に行くまでの間に俺はコーヒーメーカーの場所や、そこから屋上がどう見えるのかを確認したのだけれど。その時にも居たな、屋上に知らない少女が。その時には、もしかしたら古典の先生は裏山ではなく、あの少女を見ていたのかもと思ったものだ。ただ、俺達の件と関係があった訳ではなかったのでそのまま無視をしていた。

「ああ。なんでも、その少女は夕方の紅い時間にしか屋上にいないみたいでな。」

 それはただ、暗くなったから家に帰っただけではないだろうか。

「もし彼女と屋上で会ったらな、変な謎かけをされるらしいんだ。」

「謎かけ?」

「ああ。どんな問題が出されるのか、ちょっと気にならないか。」

 正直に言わせて貰えば、あまり気にはならない。

「誰もまだ少女からの謎かけに答えられた人はいないみたいでさ。」

「へぇ。」

「だから、でその謎に挑戦してみないか?」

「はぁ?なんでだよ。」

「あんな対決したくらいだしさ、私達には解けると思うんだ!その謎が。」

「そうか?そもそも、俺達の考察はどっちも外れてるって言われただろ?」

「ふふふ。甘いな、尾緒神。私達は『引き分け』と言われただけで推理が間違っているとは言われていないのだよ。」

「まあそうだけど、でもどっちも勝っていないってことはどっちも外れていたんじゃないのか。」

「まあ、そうとも言えるかもしれないな。じゃあ!そのリベンジマッチをしようじゃないか!今度こそ私達は正しく謎を解明する。今度は私とお前の二人がかりだ。もっと簡単に真相を解明出来るかもしれないぞ!」

「ふーん。」

「なんだよ、乗り気じゃないな。」

 だって実際乗り気じゃないし。

「大丈夫だよ、絶対楽しいから!というか、つまらなくても私が面白くする!」

 そんなことが出来るのかどうかは分からないけど、こいつならやってしまうかもとは思わされる。それほどの迫力を赤堂さんは持っていた。


「なーなー。一緒に解こうってばー。」

 制服の片袖を掴んでぐいぐいと揺さぶられる。

「分かった。分かったから、揺さぶるのは止めてくれ。」

 これは否定してもいつまでも誘われてしまうやつだ。赤堂さんとはまだ友達関係になって日も浅いが、こういうところでは譲ってくれないことは大体分かり始めていた。だったら、引き受けた上でとっとと終わらせてしまった方が早い。それに彼女と友達になってしまった以上は、彼女の提案の何もかもを無下にして接するのもおかしな話だろう。友達として、時には相手の意見も聞かないといけない。そんな気がする。


「本当か!やった。」

 赤堂さんは小さくガッツポーズを決めた。

「はぁ。どうして今回はこんなにも強引なんだ。」

「ふふん。私は、またお前と謎解きをしたいんだ。それに」


「今回の件も、なんだか面白そうじゃないか?」

 そう言って、赤堂さんは屈託なく笑った。


 俺もその笑顔に笑顔で返す。大丈夫かな。これ、結局NO部の活動内容と同じことをやらされないかな。


 そんな思いを胸に、俺は次の面倒事へと歩を進める。


 俺は、俺が平穏だと思える学校生活が送れれば。それでいい。

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