第10話 クリスマスのキッチンでは
レストランの一年で一番華やかで力を入れているイベントがクリスマスです。クリスマスの2か月前からどこのレストランでもクリスマス準備に取り掛かります。
クリスマス当日のディナーの予約受付が開始され、クリスマスの飾りつけ、メニューの試作スタッフのシフトの調整と大量のお酒と食材の発注確認にホテルのスタッフはみんな、ピリピリしています。
一番苦労するのはクリスマス当日のスタッフ確保です。クリスマスは国民の休日なので誰もが長期休暇を狙っています。しかし大体は家族がいるスタッフが優先されるので独身者は遠慮します。
このころのスタッフ同士のおもな会話は誰がクリスマス当日に出勤するかです。休みをもらったスタッフは羨望のまなざしで見られ、クリスマス当日の早朝出勤や深夜勤務に抜擢されたスタッフには同情の目が向けられます。
クリスマス当日は完全時間制予約ですべての料理が事前注文になります。なのでメニューの品数をあらかじめ把握することができ、分刻みのスケジュールが作成されます。
そして料金は一人150ポンド程度です。この料金でも毎年予約でいっぱいです。
1,カナッペとシャンパン
2,前菜(3種類から選べる)
3,ローストディナー(ヨークシャープディング、ローストポテト、ゆで野菜)
*七面鳥、ビーフ、ポーク、フィッシュ、ベジタリアンから選べる
4,クリスマスケーキ
5,デザート(4種類から選べる)
6,ミンスパイとコーヒー、か紅茶
とこんな感じになります。
一人がこれだけの品数になるのでそれをサービスするスタッフ、料理するキッチンスタッフはきちんと計画されたスケジュール通りに事が運ばないと上司からとびっきりの怒号が飛ばされます。
一応、建前ではクリスマスは神聖な日なので上司はスタッフに怒ったりしてはいけないという決まりはあるのですが大体毎年、そのような余裕はありません。真冬のキッチンを走り回る汗だくのスタッフの姿がそこにあります。
最近では神聖なクリスマスの日にスタッフが大変なストレスを抱えるということが道徳的によくないという理由でクリスマスの日を休みにするというレストランも多くなりました。
レストランの求人でもそのことを前面に押し出して募集をかけたりします。
そしてクリスマスに営業することを決めた経営者が一番恐れていることがクリスマス直前にスタッフに辞められることです。そのためクリスマスに営業をするレストランはスタッフのご機嫌を取るためにお金をかけてスタッフクリスマスパーティーを開きます。
クリスマス前の平日のお昼にお店を閉めてスタッフ全員を重役スタッフがもてなしたクリスマスパーティーです。もちろんローストターキーのディナーとデザートにはクリスマスプディング、そしてワインを飲み放題にしてマネージャークラスのスタッフが各テーブルに注ぎに回ります。スタッフはこの時、やさしくされた喜びを糧にクリスマスまで頑張るのです。
なのでクリスマスにレストランを訪れる時は従業員ををねぎらってあげてください。涙が出るほど喜ぶと思います。
キッチンで働くということ はじめ次郎 @JHajime
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
とりとめあり2最新/山野 終太郎
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 2話
雑記ノート/涼格朱銀
★18 エッセイ・ノンフィクション 連載中 234話
烏有文集(うゆうぶんしゅう)2024年版/そうげん
★11 エッセイ・ノンフィクション 完結済 366話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます