無実の罪で王国から追放されたレベル1の元勇者がスライムの中で最強のスライムの子分になって復讐しに行く話

たからよもぎ

第一章 第1話 悲報―Lv.1の元勇者追放される

ミストグラマー軍事総司令官は、今から約二世紀前に起きた第一次世界独立戦争だいいちじせかいどくりつせんそうと呼ばれる大規模な世界戦争において、他の国が経済状況の悪化や兵力の不足によって次々と滅びの道を歩む中、独自の戦法によって国際的勝利を収めた。

その後、再び起きた第二次世界独立戦争だいにじせかいどくりつせんそうでも、他の勢力を寄せ付けない圧倒的な戦力で完全勝利を収め、世にその強さを知らしめた。

そのふたつの世界戦争以来、世界に数多あまたある列強の中で世界の絶対王者として、現在この世に君臨している国が


ここ、“オストング・ロール王国”である。


そして、オストング・ロール王国のミストグラマー軍事総司令官が世界独立戦争時、実際に考案し,実行を指示した戦法というのが、後に“特殊能力者スキルマスター戦力化計画”と呼ばれるものであった。

国が大成した当初から、この王国で命を授かるすべての人間は、特殊能力スキルと呼ばれる特異な能力を持って生まれるようになっていた。その能力は、物を手で触れずに動かす,手から多種多様な武器を生み出すなど、人によってまさに十人十色な能力が見られていた。世界的に見ても、この上なく珍しいこの現象には、各国の学者が興味を持ち研究をしている。

これまでも、友好な関係を築いている隣国の優秀な学者と協力して調査を重ねたが、結局はそのメカニズムを明らかにすることはできていない。

そんな特殊ともいえる王国で、いまひとつ大きな事件が起ころうとしていた。



                 ◇◆



「お前は王国の名を汚し、さらに裏切りの罪を犯した。」


凍えるような冷たい声が、静まり返った玉座の間にむなしく響いた。

勇者ミドル=ユリケストは、膝をついて頭を下げていたが、顔を上げることができなかった。

一体なぜ、こんなことになってしまったのだろうか。魔王を倒し、王国を救った英雄として賞賛しょうさんされるはずだったのに。いまでは、魔王と手を組んで王国と国民を脅威きょういにさらした極悪人として、国王に今後の自分の運命を握られている。

ミドルは、無駄だと頭の中で分かっていながら、必死に最後の弁明の言葉を述べた。


「国王!俺は裏切り行為などしていません!本当なんです!」

「証拠は揃っている。お前が我が国を裏切ったことは明白だ。」

ミドルの願いも虚しく、国王は冷淡に言い放った。さらに、続いてミドルに対する処罰が言い渡された。

「以上の罪により、反逆者ミドル=ユリケストを国外追放の刑に処す。」


死刑を意味するその言葉に悔しさと怒りが湧き上がり、ミドルは思わず声を荒げながら抗議の言葉を並べた。

「ちょっと待ってくれ!そんなのあんまりだ!俺は…俺はただ、王国のために魔王と闘っただけだ!」


しかし、国王と周囲の射るような厳しい目線がこれ以上の弁解を許さなかった。その中にはかつて、ともに魔王を倒した三人の仲間もいた。そんな彼らでさえ、ミドルと目を合わせようとはしなかった。

「っっッ…!!」


悔しさに顔を歪ませていると、かつての仲間の一人である回復術士のサラ=アルギバードが小さくつぶやいた。

「グズグズ言ってないで、さっさとこの国から出ていってくれないかしら。」

それは、温厚おんこうな性格でいつも優しかったサラからは想像もつかない言葉だった。顔を見ると、明らかな軽蔑けいべつの表情を浮かべているのがわかった。


その瞬間に、ミドルは思い知らされた。自分が裏切られたということを。魔王討伐を一緒にやり遂げた仲間,信じていた王国によって。

その後、ミドルはモンスターが多く蔓延はびこり、いまではモンスターの巣窟そうくつとなっているディモーラ樹海に追放された。



                 ◇◆



無実の罪にもかかわらず、国王によってディモーラ樹海に国外追放されたミドルは、荒れ果てた樹海の中を、行く当てもないまま彷徨っていた。樹海の中は、鬱蒼うっそうと生い茂る木々が永遠に続いていた。


喉も渇き、食べ物もなく疲れ切ったミドルは、木の根本に崩れ落ちた。そこには、もう魔王を倒した勇者としての風格や余裕は存在していなかった。

それもそのはず、王国から追放されたミドルは、魔王討伐の冒険で手にした、いままでのレベルや経験値がすべて奪われていた。

そのため、王国を守る勇者として魔王の討伐を果たしたときとは違い、いまではレベル1の勇者に成り代わっていた。


ミドルは、木の根元にぐったりと腰掛けながら、葉の隙間からうっすらと見える空を眺めていた。もう空が薄暗くなってきている。夜が近いということがわかった。


ディモーラ樹海では、夜になるとモンスターたちが活発的になる。樹海に迷い込み、野宿をしている旅人を襲うためだ。このままでは、ミドルもモンスターに襲われ、モンスターのご飯として、モンスターによって美味しくいただかれることになるだろう。

「俺は、こんなところで…」

死を覚悟したミドルは、樹海に追放される前のことを思い出す。

国王の国外追放を告げる声,サラの軽蔑の眼差し,信頼していた仲間の裏切り,それらすべてを思い出し、強く歯を食いしばった。


しばらくして時間が夜に変わり、森が完全に闇に包まれたとき、木と木の隙間に水色に輝く物体が見えるのがわかった。真っ黒な闇の中で、ひときわ目立っているその物体は、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらこちらに向かって来ているようだった。数々のモンスターとの戦いを重ねてきた元勇者ミドルには、それが何であるのかすぐに分かった。


この世で最も、始めのレベル上げに適しているモンスター、スライムだ。


だが、そんな”激弱モンスター”スライムに対しても、いまのミドルには太刀打ちするための体力と気力は持ち合わせていなかった。

「スライムか…こんな雑魚モンスターに襲われるとは、俺も落ちたもんだな」

ミドルは、自分の無力さを嘲笑あざわらうかのように小さく笑みを浮かべた。


そんな事を考えているうちに、いよいよスライムが、目の前にやってきた。ミドルはそれをただ見つめていた。

そのとき、スライムが不意に人間の言葉で喋り始めた。


「お前、もしかして勇者なのだ?」


驚きのあまり、ミドルは目を丸くした。スライムが人間の言葉をかいして人間と話をするなどという話は、一度も聞いたことがない。

すると、スライムが言葉を続けた。

「さがしたのだ。王国から追放されたのだ?ずっとみてたのだ。」

「どういうことだ?」

意味がわからず、思わず聞き返す。

「無実の罪だってことも知ってたのだ。」

「!?」

ミドルが驚きの表情を浮かべていると、スライムが再び口を開いた。

「まあいいのだ。とりあえずおれについてくるのだ。おれのお城につれてってやるのだ。くわしいことはそこで話すのだ。」

「は?城??」


                 ◇◆



謎のスライムについていくことになったミドルは今、大きな洞窟の前に立っていた。一抹の不安を感じ、疑問を問う。

「もしかしてだけど…、この洞窟がお前の城とか言わないよな?」

「そうなのだ。ここがおれのお城なのだ!」

なんか自信満々に言ってるけど、ここが城は無理があるだろ…。洞窟だぞ、洞窟。

なにか食べ物にありつけるかもという望みが絶たれ、一気に空腹が襲う。


「………ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅう………」


気を抜いた瞬間、ミドルのお腹から空腹を知らせる大きな音がなった。

「・・・・・・ミドル、もしかしておなかすいてるのだ?」

スライムが、ミドルの顔を覗き込みながら言った。

「あぁ、ここに追放されてからなんにも食べてないからな。」

「それはたいへんなのだ!いそいでなにか食べないといけないのだ!はやくついてくるのだ!」

スライムが慌てて言って、ぴょんぴょんとはねながら洞窟の奥の方へと入っていった。


俺は一体なにを食べさせられるというのだろう。洞窟を自分のお城だというようなやつだ。ろくなものじゃないだろう。

これから訪れるであろう恐怖に怯えながら、スライムの後ろをついていく。



洞窟の中をしばらくいくと、スライムが急に立ち止まった。

「ん、どうした?行かないのか?」

「ちょっと静かにするのだ、なにか入り込んだみたいなのだ」

ついさっきまでの雰囲気とは違い、いまのスライムは言葉を漏らすのもはばかられるような威圧感を身にまとっていた。


ミドルが思わず口をつぐむと、ふと闇の奥でなにかが動いた気がした。ミドルは、闇の中に潜んでいるそれが、一体何なのか見ようと目を凝らした。

すると突然、そのなにかが闇の中から飛び出した。元勇者であり、数々の戦いを乗り越えてきたミドルには、それがなにかすぐに分かった。


スライムの水色の光にぼんやりと照らされたそれは、長年このディモーラ樹海の支配者として君臨している一匹狼のモンスター。

ディモーラ樹海のヴァルモスウルフだ。見上げるほどの大きさで、肌がピリピリするほどの圧がある。ミドル自身も、国王に腕試しとして討伐を命じられ、一度討伐に成功したこともあった。しかし、その強さは、スライムやゴブリンとは別格だ。


ミドルは足が動かず、逃げることも戦うこともできなかった。

こんな強力なモンスターをレベル1の自分が倒せるわけがない。ましてや、スライムが倒すなんてもってのほかだ。瞬時にその考えに至り、俺はここで死ぬのか―そう思ったときだった。


「ミドル!よけるのだ!!!」


スライムが、洞窟全体にひびき渡るほどの大きな声で叫んだ。ほとんど反射的にしゃがむと、頭のすぐ上でドンッと鈍い音がしてヴァルモスウルフが弾き飛ばされた。


その方向を見ると、スライム―ではなく、一匹の牙が生えた大きな水色の魚のような生物がヴァルモスウルフの喉元に噛みついていた。その生物は、ヴァルモスウルフに噛みつくのをやめると、地面をまるで水の中を泳ぐように移動し、強烈なタックルを決めた。

その一撃を受け、ヴァルモスウルフはこちらを威嚇いかくしながらも逃げるように去っていった。


たった今、目の前で起こったことが信じられず呆然と立ち尽くしていると、その生物の形が徐々じょじょに崩れ始めた。それがまとまり、そこに現れたのは、紛れもなくさっきまで一緒に行動していたスライムだった。

「お…お前、今のって…」

「ふむ…さっそくバレてしまったのだ。おそかれはやかれ話さなければならないとは思っていたのだが。まさかこんなにはやくバレるとはおもっていなかったのだ。」

スライムは難しそうな顔で考え込んでいた。

「しょうがないのだ、もう話すしかないのだ。」

そう言って顔を上げると、スライムははっきりとした口調で言った。


「おれの名前はザグ。スライムの王なのだ。」

「スライムの王?」

「そうなのだ。スライムの中で一番強いのだ。」

ザグはえっへんとふんぞり返りながら言った。

「一番強いって…もしかしてさっきのことか?」

「そのとおりなのだ。」

「一体何であんな能力を…」

まずは、その部分である。スライムにあんな能力があると聞いたことはない。


「それはかんたんなことなのだ。ミドルが追放された王国でうまれたにんげんは、もれなく能力、王国でいうところの特殊能力スキルをもってるのだ?」

「あぁそうだ。…まさか!?」

「おれはあの王国のなかでうまれたのだ。」

王国内で生まれたモンスターに特殊能力スキルが宿ることがある、と聞いたことがあったが、まさか本当にそんなモンスターがいるとは…。


「おれの能力は地球という名の異世界の海といわれるおおきな湖にすむ生きものになれる能力なのだ。ちなみに、さっきのはサメとよばれる凶暴な生きものなのだ。」

「そんなの、完全にチート能力じゃねえか…」

「そうなのだ。でも、これけっこう疲れるのだ。とりあえず、くわしいことはおれのへやで話してやるのだ。ついてくるのだ。」

スライムの王ザグについていくと、下に向かう螺旋階段らせんかいだんのようになった場所にたどり着いた。その階段を降りると、真っ白でとてつもなく広い空間に出た。その空間は、長い廊下のようになっており、中央に赤色のカーペットが敷かれている。さらに、その脇にはズラーっと何十匹ものスライムが立っていた。

「ここは…一体…」

衝撃を受けていると、ザグが振り返って大きな声で言った。


「ようこそ、おれの国へ!歓迎するのだ!」


ザグがカーペットの上を歩き始めると、スライムたちが整列し、一斉に礼をした。


「 「 「 「 「ザグ国王、おかえりなさいませ!」 」 」 」 」


若干じゃっかんの気まずさを感じながらその間をザグと一緒に通ると、突き当りにあった3メートルぐらいあるんじゃないかというドアの前にたどりついた。ザグの子分らしきスライムがその重そうなドアを押し開けると、ザグが中へ入るように言った。


部屋の中は、右側に向かい合うようにソファーが置かれており、ドアからまっすぐ進んだところには大きな机と大きな椅子が置かれていた。左側には小さなキッチンみたいな場所もある。

「ミドル、とりあえずそこのソファーにすわるのだ。」

ミドルはザグに言われたとおりにソファーに座り、すっかり疲れ切った足を伸ばした。


しばらくして後ろからほんのりと紅茶の香りがしたとき、ふとザグが沈黙を破った。

「ミドルは魔王を倒したのだ?」

その問いを聞き、ミドルは魔王を倒し、レベルや経験値が一気に流れ込み、体が一気に熱くなったときのことを思い出した。ミドルは、当時とは違い、いまではレベル1になってしまった自分を嘲笑ちょうしょうするように答えた。

「あぁ、倒したぞ。まあ、結局はその時の仲間にも裏切られちまったけどな。」

そう言うと、ミドルは紅茶を持って来てくれているザグ(飛び跳ねながら移動するせいでけっこうこぼれている)を見ながら、続けてずっと気になっていたことを問いかける。

「ていうか、ザグはなんで俺の名前を知ってるんだ?俺、言ってないよな?」

その疑問を聞いたザグは、淹れてくれた紅茶をミドルの前に置きながら、答えた。

「ずっとみてたって最初にいったのだ。」

「じゃあお前、魔王討伐するときも、王国で俺が追放されるときもずっとついてきてたのか!?」

「そのとおりなのだ!」

ザグは鼻を鳴らしながら自慢気に答えた。

このスライムはなんでこんなに得意げなんだろう。やってることただのストーカーなんだけどな…。


ザグが自分でブレンドしているのだろうか、ふんわりとバラの香りがする紅茶を飲みながら、さらに質問を重ねる。

「ところで、城にはどうやって入ってきてたんだ?あそこは、王国内でも警備が一番厳重なはずだぞ。」

その質問を聞くと、ザグは友達といたずらをしている子供のような顔で、ニコーっと笑って答えた。

「おれがなれる魚のなかには、メダカっていうものすごくちいさい魚もいるのだ。それに、おれが特殊能力スキルを使っているあいだは、どんなところでも泳げるのだ。それがたとえお城の壁のなかだったとしてもなのだ。」

なるほどと、ミドルは納得した。ザグはずっと、地面や城の壁の中から俺を見張っていたのか。ザグがヴァルモスウルフを撃退したときのことを思い出した。

「それに、おれはこんなふうにぶんれつすることもできるのだ」

そう言うと、ザグが、左右に向かっておもちを伸ばしたみたいに伸びた。すぐに完全に伸び切ったのか、真ん中に亀裂が入った。もともとより一回りくらい小さいような気もするが、本当にザグが分裂して二匹になった。


「なるほどな。質問ばっかりで悪いが、まだわからないことがある。そこまでして俺を見張っていたのはなぜだ?」

ミドルは、ふたりのザグが一匹になるところを見届けてから口を開いた。

ザグは、それを聞くとすぐに答えを出した。

「それはだな、ミドルがじぶんの特殊能力スキルにきづいていないからなのだ。しかも、ミドルの特殊能力スキルはおれの特殊能力スキルと共鳴しているのだ。」

ミドルは、答えとしてはすこしズレているような気もするその言葉を聞くと、少し思考を巡らせた。


そして、しばらくして静かに口を開いた。

「残念だが、俺には特殊能力スキルがない。大体の人間が5歳、遅くても7歳までには体が急激に熱くなるなどの能力の発現症状が見られる。だが、俺だけは7歳を過ぎても発現症状が見られなかった。」

その事実は、ミドルにとってあまり人には言いたくないコンプレックスでもあった。


しかし、そんなミドルの心情の変化は特に気にすることなく、ザグは先ほどと全く変わらない態度で言った。

「それはちがうのだ。ミドルのは発現症状は、母親のおなかのなかでおきていたのだ。」

「なっッ!?そ、そんなこと…」



その言葉に動揺を隠せないでいると、突然部屋のドアがゆっくりと開いた。すると、そこからたくさんのスライムたちが入ってきた。彼らは、たくさんの料理を乗せたテーブルを運んでいる。


スライムたちは、それとふたつの椅子を置くと、そそくさと出ていってしまった。

「よるごはんなのだ。おなかへってたのだ?はやく食べるのだ。」


ザグに促され、運ばれてきた椅子に座った。そして、フォークを手に取り、手始めに手前にあった魚の煮付けのような料理を口にする。その瞬間、ミドルは目を見開いた。

その様子を見つめていたザグが、ほとんど答えに確信を持って聞いてきた。

「この国の料理はどうなのだ。おいしいのだ?」

「あぁ、びっくりしたけどめちゃくちゃうまい。」

「えへへ、よかったのだ。」

ミドルがすっかり感心して言うと、ザグが照れくさそうに言った。


その後もミドルはザグと一緒に、鶏の照焼きみたいなものやチャーハン的なものを食べ進めていった。どれも信じられないほど美味しかった。

さらに、全て食べ終わったタイミングで示し合わせたかのように、スライムたちによってティラミスのようなデザートが運ばれてきた。それを食べながら、夜ご飯が運ばれてくる前にザグと話していた話の続きを話し始める。

「母さんのお腹の中で発現症状が起きていたってどういうことなんだ?仮にそれが事実だったとして、なんでそれをザグが知っているんだ?」

そう問うと、ザグがたった一言ではっきりと答えた。

「それが共鳴なのだ。」

「共鳴??」

「共鳴というのはだな…」


ザグの話はこうだった。

ザグとミドルは、宿っている特殊能力スキルが似ていて、それがどういうわけか、ザグが能力を使ったときのみミドルの情報が脳内に流れ込んでくるのだという。ザグがミドルの能力,発現症状の時期などを知ったのもそのときらしい。その現象のことをザグは共鳴と言っているが、共鳴がどのようにしてなぜ起こるのかザグ自身もよくわかっていないという。


「……うーん、そんなことが…。ところで、おれの特殊能力スキルって何なんだ?」

ザグの話が本当なら、俺にも特殊能力スキルがあるはずだ。それに、ザグの能力と似ているというのだから、かなり強力な特殊能力スキルなのではないだろうか。

あごに手を当てて聞く。すると、ザグがここぞとばかりに答えた。

「ミドルは、地球のりくにすんでいる生きものにからだの一部を変えられるのだ。」

「身体の一部を…?」

「そうなのだ。」


確かに、ザグの特殊能力スキルとミドルの特殊能力スキルは、地球という異世界の生物が関係しているという点では似ていると言えるのかもしれない。もしかしたら、共鳴が起こる理由となにか関係があるのかもしれない。


                  ◇◆


デザートを食べたあと、ザグは大浴場や寝るための布団を用意してくれた。

体を温かいお湯(なんかちょっと生臭かったが…)でやし、眠りにつくための準備を整えていると、ザグがふと問うてきた。

「ミドルは王国にふくしゅうするつもりなのだ?」

その問いに対し、ミドルは勢いよく振り向いた。

図星だった。自分に特殊能力スキルがあると聞いたときから、王国への復讐の糸口になると思っていたのだ。


「もしかして、共鳴使ったのか?」

ミドルが聞き返すと、ザグは言った。

「おれはおふろに入るときはいつも魚になって泳いでるのだ。」

「しっかり遊んでんじゃねえか。てか、風呂がちょっと生臭かったのお前のせいかよ!」

「しゅうかんなのだ。ミドルの情報を知るためなのだ。」

「ザグのそういうとこちょっと怖えよ。」

そう突っ込むと、ザグが笑いながら話を本来の路線に戻した。

「とにかく、そのつもりならおれもミドルに協力するのだ。」


ミドルは、どうするべきなのかわからなかった。

確かに、ザグの特殊能力スキルが味方に付けば相当強力なのだろう。しかし、もし失敗した場合、ミドルは今度こそ死刑になるのだ。いや、問題なのは自分の命はではない。ザグの命が問題なのだ。ザグには強力な力があってものすごく優しいが、それ以前にモンスターなのである。モンスターは王国内では駆除の対象。死刑は免れない。


「おれの命なら心配しなくてもいいのだ。おれが助けたい、手伝いたいと思ったから助けるのだ。」

いまのミドルには、その言葉がありがたかった。

「分かった。それじゃあ頼む。ザグ。」



「分かったのだ。おれのしもべとして迎え入れてやるのだ。」



ザグの言葉に苦笑しながらも、ミドルは自分の粘性のある主人に対して膝をつき、頭を下げた。



「よろしくお願いいたします。ザグ国王。」




こうして、ミドルはスライムの王ザグと奇妙な主従関係を結び、自分を追放した王国への復讐の物語を始めることとなった。








                                第2話へ続く

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