松ぼっくり

串サカナ

第1話 松ぼっくり

松ぼっくりは食べれるのだろうか焼いて食べても揚げて食べてもおいしいかもしれないでも今まで誰も食べたことはないよね、松ぼっくり食べてみたいな。人間も内蔵全てそぎ落として丸焼きにして醤油をつけて食べたいな。

おやすみと言ってからもう三時間は経っている悲しくもありうれしくもあるこの感情は何なんだろう眠れないけど夢はみる、眠れないけど目は閉じるかわいそうなネズミかわいそうな人間。間違ったことは一つもしてないのに死にたくなることってあるよね?でもこれからは一人ではないよ私がいるから、結局松ぼっくりは食べれるのかな大切に保管してるけど食べることあるのかな食べてみたいのにどうやって食べればいいのか分からないしそもそも松ぼっくりって何?何かわからないけど食べてみたい。そんなことを考えているうちに知らない家の前に来てしまった、そしたら後ろから血だらけの包丁を持ちながら全速力で私の後ろを通ろうとしたが、私の背後で足を止めた彼は、私の目を見て、ずっと見て包丁を振り上げて自分に刺した、何度も何度も私の体が返り血で真っ赤になるまで、刺し続けた。


目が覚めた私はいつものように学校の支度を始めた。一階に行けば朝食がある、「おはよう」と言ってきたのはお母さん、今日の朝ご飯は何?と聞くと「いつものやつよ」と答えたお母さん、リビングに行くと食卓には松ぼっくりが置いてあった。

「いってきます」「いってらっしゃい」このラリーに一体意味があるのだろうか。学校に着くと私はまずすることがある。椅子に座り、机に向かってペンを走らせる机に落書きをするもちろん私の机ではない、クラスメイトのゆいちゃんの机、ゆいちゃんはいじめられているでもゆいちゃんは誰にいじめられているか分からないみたいアホね。そして七時半過ぎにゆいちゃんが教室に入ってきたそこで私の迫真の演技「どうしたの?なにこれ!誰がやったのよこの机、私許さない、犯人見つけてめった刺しにしてやる」こんな感じで演技しておけば私が犯人だなんて誰も思わないでしょう、こんな日々が続き一週間が経ったところ急にゆいちゃんが休みだした、担任の先生は体調不良だと言っていた、それからゆいちゃんが休んで三日四日経った頃私は先生が言っていた体調不調は嘘ではないのかと考えるようになった流石に三日四日も風邪は続かないだろうと思う、そこで私はゆいちゃんの家にお見舞いに行くことにした。ゆいちゃんの家は私の家からかなり離れている私の家から歩いて十五分ぐらいのところにある、ゆいちゃんの家に着くと玄関の前に立ちピンポンを押したお母さんがでてきた「こんにちは」お母さんにはクラスの友達ですと言ったゆいちゃんはかなり落ち込んでいて二階の部屋にいるから呼んでくるねと言われ、待っていたら二階の階段から足音が聞こえた、リビングのドアが開き私は振り返った、そこにはゆいちゃん?かどうか分からないほどの薄っぺらいなにかだった、すぐさま私はそれは何ですかとお母さんに聞いた、これはあなたの友達のゆいちゃんだよ、私は驚いた。この人はなにを言っているのだろうと思って、聞いていると「これはゆいの皮、私が剝がしたの、昨日剥がしたばかりだから新鮮よ。今夜一緒に食べない?ゆいの皮、しゃぶしゃぶにするのがいいわね。」私は恐怖のあまり動けなかった、リビングの机にコンロが置かれ、水を入れた土鍋をお母さんは

コンロの上に置き火をつけた、「どうしたの?何ボーとしてるの?あなたも手伝って」、何をしたらいいのか分からず、何気なく立ち上がり、無意識のまま玄関の方へ逃げようとしたが、後ろから何かに引っ張られる感覚になり、その場で尻もちをついたそして、耳元で「お前も皮になりたいか?嫌なら手伝えよ、このいじめっ子が」。

食事の準備ができた頃、時計の針は止まっていた、何時かよくわからないまま、「さあ、しゃぶしゃぶするわよ」無言、無音のまま食事が終了した、ゆいちゃんの皮は全てなくなった、こんなことを言ってはいけないかもしれないが、以外にもゆいちゃんの皮はおいしかった。


「なんで、ゆいがこうなってるか分かる?あんたのせいよ、あんたがゆいをいじめてたから、ゆいが気づいてないと思ってたわけ、ゆいはあなたが戦犯だって分かってたのよ、最初っから。」あの迫真の演技は逆にやりすぎたのかもしれない。


「いつもゆいは泣いてたわよ、友達だと思ってた人が、犯人だって、そして不登校になったわ、だから私はその苦しみから解放してあげたいと思ったのよ」


「だからゆいちゃんの皮を剝がしたの?」


「そうよ、ゆいは喜んでいたわ、この苦しみから解放される。そして包丁でゆいの心臓をドーン、と突き刺したわ。最高に気持ちよかった。」

私は、伺っていた。いつこの場から逃げようか、それだけを考えていた。だがその時はなかなか訪れない。私の正面に座っているゆいちゃんのお母さんは一度たりとも目を離さない、少し目を離したと思えば、また目を戻し私を監視するようにこちらを睨んでいる。食事を終え皿を片付ける時、お母さんは私に背を向けた。その瞬間私は玄関の方へ走り出した。


私は、いつも通り会社に出社した。

いつもより社内は騒がしく、私のことで話題になっているのではないかと心配になったが、そうではなかったようだ。怒鳴る声、抵抗する声が聞こえてくる。怒鳴りは、他部署の山田さんの声だろう。何を言い合っているのか聞くために、私は他部署の部屋の壁に耳を当てた。微かに聞こえた言葉からは侵入者が入り、周りが騒然としているようだった。しばらくして警察が来てその場は収集が付いたが、異様な空気が流れている。それから風の噂で営業部の安藤努と名乗る男が現れて、周りの人たちが安藤努と名乗る男を取り押さえて、警察を呼びあれだけの騒ぎに発展したらしい。しかし、その男から発せられる声は安藤努そっくりだったそうだ。顔を見るまでは安藤努本人にしか思わなかったが、実際に顔見ると全くの別人で声だけが似ているただの侵入者へと変わった。だが、そこには大きな穴が生まれた。会社のセキュリティーの弱さについてだった。全く知らない顔の人物が侵入しても、出席を取るまで誰も気づかない状態があったことが、会社の欠落したセキュリティと周りを見ていない社員の関心の無さが際立っていた。

それよりも私はここにいても良いのだろか、今は誰にもばれていないが、いつかはばれてしまう、これは時間の問題だと思うが、私自身何か手立てがないか探している最中でもあった。結衣は死んだが、死体は綺麗に浚えたので誰かが、捜索願を出さない限り、ばれることはないと思うが、あの時逃げようとした結衣の友達のなんていう名前だったか忘れたけど、とにかくあの子が唯一の目撃者だった。だけどあの時逃げなければ、死なないで済んだのに、あそこで逃げるから、変なことするからいけないの。あの子の親は今頃探しているだろうけど、もう警察には連絡したのだろうか?どちらにせよこのままではいけない。何か手立てはないのか。そういえばさっき声は安藤努で顔が違う誰かになった男が会社に侵入したと言っていた事を思い出し、私はこれだと確信した。しかし、どうすれば顔を変更できるのか、仮面を被るにしても、すぐにばれてしまう。ましては、整形するにしてもすぐには完成できない。今すぐにでも顔を変えたい。だがそんなにすぐに変わるモノでもなく時間と労力を費やすことになるのかもしれない。それなら私の中にある違和感に飛び込んでみようかと思う。さっきの侵入者の件は少し妙なことが多い気がする。もし安藤努本人で顔だけ整形などで変えたのであれば、その場でそう言うはずである。しかし、実際に安藤努が取った行動はその場で抵抗していただけで、顔がどうだとかは触れていなかった。安藤努も何か事情があり顔を変えたが、その事について自分からは触れず顔が変わった事も知らないような。そんな風に聞こえたので、私と同じような事情があるのかもしれない。安藤努の事をもう少し詳しく調べたい所だが、私自身も下手に動くことが出来ないので、噂話をしていた同僚の子たちに聞くことにした。というのも私はこの後安藤努の家に行こうと思うのだ。そのために私は安藤努の家を特定する必要がある。うまいぐらいに聞きだせたのだが、大体の位置しか知ることが出来なかったが、最寄り駅と社宅のマンションであることが分かったので、後はマンションの場所と部屋の位置を知る必要がある。マンションの位置は大体の目星がついている。この駅の近くの社宅は一つしかないのでとても助かる。このマンションは四階建てなので、一階から五部屋あり、それが上に四つ並んでいる、すこし小さめな作りのマンションで良かった。あまり大きな作りだと探すのが大変になる。部屋数は全部で二十部屋あり一階から「安藤」と書いてある表札を探し周った。一階には無かったので、二階に上がるための階段を上り端の部屋から表札を見ようとした、瞬間後ろのエレベータが開く音がした。私は慌てて階段近くの柱に身を隠した。そこに居たのは、小柄な四十代ぐらいの男性で二階の二〇四の部屋に入って行った。その部屋の玄関には安藤と書いてある表札があった。そこから私は二〇四号室を張り込むことにした。今日侵入した声だけが安藤努の男は捕まっているので、二〇四号室に入っていた男は安藤努本人だろう。しかし、確証が持てない。顔が良く見えなかったので明日、改めて張り込むことにする。

翌朝。私は、朝早くに起き安藤努の家に向かった。外はまだ少し暗く、日が昇る前に家を出た。テレビの天気予想では、午後から雨模様だと言うので、傘を持ち外に出た。会社には少しの間休みますという連絡をしたので、安藤努の尾行には集中できる。昨日、特定した二〇四号室を見張るため、隣に位置するマンションの屋上から望遠鏡を使い、二〇四号室の様子を窺うことにした。今日の目標は、見えなかった顔を見る事である。もし、今二〇四号室にいるのが、安藤努本人なら納得だがもし会社に侵入した男だったらいや会社に侵入した男を私は見ていないので、安藤努かどうかしか判断ができない。二〇四号室から出てくる人物が知らない顔だったらそれはどう判断すれば良いのだろうか。もし、違う顔が現れたら私の考えていたことが当たるのかもしれない。ここで前々から考えていた私のこの侵入事件の考察を述べようと思う。まず、会社に侵入した男は、安藤努として出社した。しかし周りからの反応は別人のように接している。終いには警察に捕らえられてしまう。だが侵入した男からは安藤努と同じ声がするわけで、顔を見なければ安藤努本人と変わりは無い。警察に捕まっている侵入者は余程の事が無ければすぐには出られないだろう。捕まって一日も経たないうちに釈放されるのは、何らかの事情が無ければありえない事ではないのだろうか。今二〇四号室にいる人物が知らない顔で声が安藤努と同じなのであれば、の話である。もしそれが起こるのなら、私は彼に話かける必要がある。つまり事実確認である。顔が違って声だけが安藤努なのであれば、私が求めていたものが手に入るかもしれない。

日が昇り、朝の八時が過ぎた頃二〇四号室から出てきたのは、知らない顔だった。私は急いで二〇四号室の部屋に向かった。何故私は、この屋上から見ていたのだろか今になって後悔している。屋上から一階に降りるのに三分かかりそこから安藤努の部屋に向かう途中路肩を歩いている、屋上から見た知らない顔の人の姿があった。私は、彼の声を聞くために話しかけた。

「あの、安藤努さんですか?」

「はい、そうですけど。なんですか?」声は安藤努の声で顔だけが違っている。

「その失礼かと思いますが、顔が変わったというか雰囲気が変わったというか。」

「あー、顔ですか。そうなんです変えるつもりはなかったんですけど。何か不思議なことがおきまして。」

「不思議な事?」

「そうなんです。前に営業の仕事で外回りをしていたら地面に埋まっているカガミを見つけたんです。」

「鏡ですか?」

「そうです。カガミです」と言って安藤努は鞄から手の平サイズの松ぼっくりを取り出した。

「何ですかそれ、なんでそんなものが鞄から出てくるのですか?」

「何って、唯の手カガミですよ。確かに持ち歩いている人はあまり見かけませんけど、ほら僕、顔が変わってから気になるようになって。また急に顔が変わるといけないから常に顔をチェックできるようにしているんです。」

私は、固唾を呑んだ。この感覚はとても久しぶりに感じた気がする。

「あの、その松ぼっくり私にくれませんか?」

「松ぼっくり?何言ってるんですかこれは手カガミですよ。大丈夫ですか?」

「早く、それを私に渡してください。体がそれを欲しているんです。」私は少し意識が朦朧としながら言った。

「どうしたんですか?欲してるって。これは唯の手カガミですよ。渡してもいいですけど何するつもりですか?」

「何するって。決まってるじゃないですか。口に入れて食べるんですよ。」私はフラフラしながら安藤努の方へ近づいた。

「食べるって、これ食べれる物じゃないですよ。これ以上近づくなら警察呼びますよ。」安藤努は声を荒げて言った。

私は、飛びかかろうとして離れて行く安藤努を追いかけた。が、追いつくより先に私の意識が遠のいていくのを感じた。

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松ぼっくり 串サカナ @kkawa3128

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