episode[7]
アルトゥーラが封印されている地下遺跡を目指す道中、襲ってくる盗賊達を倒し、ついでだからと盗賊達の拠点へと足を踏み入れた玲奈たち三人。
盗賊達は遺跡を活用して拠点としていたらしく、地下どうし繋がっているのではと考えた玲奈達は地下へと続く入口を探していると、聴覚強化を持つリアンが奇妙な音が遺跡から聞こえるという。その原因を探るうちに見つけた地下へと続いている階段。
意を決して降りる三人。いくつもの石畳の階段を下るにつれ、リアンの強化された耳には人の声のような奇妙な音も段々とハッキリと聞こえてきた。
彼女はその声に対して、
「えっ、は?え?」
余計に困惑していた。
ただしそこにあるのは恐怖といった感情ではなく、聞こえてきた声、言葉に対する困惑であった。
人の声、しかも女性であるのは間違いない。間違いないのだが、聞こえてくる言葉は、やだ。誰か。助けて。出して。暗い。怖い。へるぷみー。もうどっきりだいせいこうでいいから。かんばんもったすたっふかもん。ここから出してよー・・・等。
「助けを求めているのか、ふざけているのか。よくわかりません」
声の主は恐らく助けを求めているのだろう。だが言葉の中に混じるよく分からない単語がリアンにはふざけているように聞こえたようで、余計に困惑しているようだ。
リアンからそれを聞き、玲奈もシベリアも同じ気持ちになる。だが、声の主が発しているというよく分からない単語を玲奈は正しく理解出来た。いや、異世界から来た玲奈だから理解出来たと言ってもいい。
「Help me。ドッキリ大成功でいいから。看板持ったスタッフCome on。か。確かにふざけているな」
英語、それからこの状況をドッキリだと思っているのか。スタッフを呼ぶ発言。ふざけているように感じるが階段の先にいるのは恐らく玲奈と同じ異世界から来た人間だろう。転生者かどうかは分からないが、玲奈と同じように気がついたら━━━という事だろう。
声の主のふざけた言動が耳に残るが助けを求めているのは事実なのだろう。
玲奈はもしかしたら異世界人かもしれない。よく分からない単語の数々も異世界人には通じる単語だと二人には教えた。二人とも最初は半信半疑だったが、玲奈が言うのであれば、実際に見て確認すればいいのではと、一応の納得はしてくれたようだ。
この地下の階段は思っていた以上に長く、そして深く続いていた。
時折三人はその場で休息を挟みながらも暗い中を慎重に下っていくと終着と思われる場所には大きな扉があった。
扉の左右の壁には緑色に光る明かりが煌々と煌めいていた。
扉に着いた時には玲奈やシベリアの耳にも少女のような高い声がうっすらと聞こえている。内容は確かにリアンが言うように確かにふざけているようにも感じたが。
「さてこの先に声の主がいると思うのだけど、一応決めておこうか」
「助けるか、助けないかですね。私としては言動はともかく、人格等に問題がないのであれば助けるのもいいかと思います」
「私もお姉様と同じです。助けてあげられるなら助けてあげたいです」
「そうだね。私もせっかくだし、助けてもいいと思う」
二人の意志を確認し、最悪そのままにすると決め、玲奈は重い扉を動かした。鈍く重い音を立てながらゆっくりと扉を動かしていく。
中にいるであろう異世界人の少女も扉が立てる音で扉の前に誰かがいるのか分かったようだ。
扉の合間からのぞく明かりに照らされた玲奈の顔を見て少女は言った。
「あっ!もしかしてスタッフさんですか?!来るのが遅すぎますよ〜!もう!」と。
「すまない、間違えたようだ」
「え?!あ、待ってー!間違ってない!お願い!閉めないでーー!」
すぐさま扉を閉じた玲奈は深くそれは深くため息を吐いてこめかみを抑えた。
シベリアとリアンは玲奈が扉を閉めた事を責めることなくまあ、あれはしょうがないかな?という顔をし、閉められた扉を見つめている。
「ごめんなさい。出来心だったんです。言ってみたかったんです。」
「ようやく人が来て嬉しくてつい言っちゃったんです」そう泣き出しながら言うが、玲奈もそれにしてもふざけすぎじゃないか?とは思ったが続く「だって気がついたら身動き出来なくて、閉じ込められてて、声も届かないし、暗いし怖いし、しかも裸だし・・・気持ちを持っていないとどうにかなっちゃいそうだったんだもん」とグズグズ泣きながら言われればなんだか居心地が悪い。
ため息の後、再び扉を開いた玲奈。玲奈が開けた瞬間に少女がいる空間の照明のような物が点灯し、暗くてよく見えなかった少女の全身と空間内が露わになる。
円形に広く造られた空間。その中央には透明な正八面体上の立方体があり、その中心付近には金髪の少女が泣いており、彼女は上半身と二の腕だけが露出し、下半身などのそれ以外の部分を立方体の中に閉じ込められていた。
「これはまるで封印だな。幽閉、監禁とも言い変えてもいいかも知れないが、アルトゥーラ以外にも封印されている存在が森の中にいるなんてラガマ老も知らないんじゃないのか」
ラガマならついでとばかりに玲奈に教えていてもおかしくはない。孫娘であるシベリアやリアンですら知らない様子を見るにラガマ自身もこの遺跡や地下階段、そして封印されている少女についても知らないのだろう。
「その件については村に戻った後にでも聞けばいいな。さてとキミ、名前は?」
「グスッ、、、私は陽向沙耶って言います。あなたは外国の方なんですか?それにさっき、森って言ってましたけど、ここは日本じゃないんですか?」
「?ああ、そうか。そうだね、まずは先にこれを教えておくべきだったな。いいかい?まずキミが今いる場所は日本という名ではないよ。ニールベル大森林という森の地下さ。
それからキミの認識でいうとここはキミが本来いた世界とは異なる別の世界になる。そう、言うなれば異世界にキミはいる」
「ふえ?異世界?本当に?」
「ああ、本当だとも。その証拠、になるのかは分からないが、私の耳を見てくれれば分かると思う。少し形が違うだろう?」
「ほんとだ。耳が尖ってる。えーと、てことはあなたはエルフ?とか、竜人族とかそういう感じの人ってことなの?」
「エルフだね。正確にはハイ・エルフだが、それはいい。あと、言い忘れていたね。私の名はイレイナ。沙耶、と言ったね、キミはどうやら私と同じ転生者のようだ。」
「転生者?それに同じって?」
「私もキミと同じの日本からの転生者なんだ。私の本当の名前は柚月玲奈という。転生者については私も詳しくは知らないし、どういう条件でそうなるのかも分からない。それに本来の転生とはかなり意味合いが違う。
転生者というのはこの世界の実在する人物に異世界の人間の人格と記憶が乗っ取るように入れ替わる人物のことを指している」
「えーと?つまり、私はここに閉じ込められていた人に乗り移っちゃったってこと?」
「そうなるね。それから私にはこの身体の元の持ち主の記憶もあるのだが、キミにも元の身体の持ち主の記憶はあったりするのだろうか?」
「ふえ?うわっ、なにこれ?!気持ち悪い〜〜〜二つの記憶が頭の中にあってこんがらがる〜〜〜」
沙耶と名乗った少女は玲奈に指摘されて初めて元の身体の持ち主の記憶を感じたようだ。
自分であるようで自分ではない他者の記憶と自分の記憶が混雑し、混ざっていくようなこの気分が悪くなる感覚に沙耶は苦しんでいる様子だ。
同じような経験をした玲奈にも沙耶の気持ちがよく分かるが沙耶は苦しむにつれ、どんどん顔が悲しくなり、玲奈との会話をする中で収まっていた涙が再び溢れてきた。
「う、ううっ、、、可哀想。可哀想だよ、こんなの・・・」
どうやら元の身体の持ち主の記憶を読み取り、この空間に閉じ込められる経緯を知ったらしい。しきりにこんな仕打ちあんまりだよ。可哀想だよ。酷いよ。悲しかったよね。寂しかったよね、辛かったよねと、元の持ち主に同情すらしているようだ。
聞けば沙耶の身体の持ち主の名前はフランシェスカというらしい。
彼女は遙か昔にこの大森林に住んでいた吸血鬼族の女王だというのだ。
しかし彼女は配下であったはずの吸血鬼達の裏切りにあったという。
だが、フランシェスカは魔力がある限りその身は何度でも再生するという不死に近い特性を有していた。だから吸血鬼達は彼女を殺すことが出来ず、城の地下に幽閉したらしい。
「フランちゃんをこの中に閉じ込めた吸血鬼が言っていたんだけど、今私、というかフランちゃんを閉じ込めるのに使ったのは特別な水晶みたいなの。魔力を吸収する特性?があるみたいでフランシェスカちゃんの魔力を空に出来なくても、力で壊されることはないからって」
魔水晶。フランシェスカを幽閉するのに使った水晶はアルトゥーラの封印に使われたものと同じものである可能性が高い。━━━というかまたか。魔水晶は封印、幽閉に適しているのか?
まあ、アルトゥーラとフランシェスカ、どちらが先かは分からない。だがフランシェスカを地下に閉じ込めた吸血鬼はさぞ満足したことだろう。今まで近づく者は誰もおらず、水晶を砕こうにも魔法は吸収されるし、物理的に壊そうにもそもそもの魔水晶の硬度が高く、生半可な武器では壊すことが難しい。
水晶から彼女を解き放つことが出来る者など恐らく閉じ込めた吸血鬼以外には存在しなかったのだろうから。
「イレイナ。貴女なら彼女を出せるのではありませんか?」
「誰?!え、ケモ耳生えてる!それに尻尾も!・・・あ、もしかして獣人さんですか?!」
扉の前で今の会話を聞いていたシベリアが玲奈にそう話しかける。沙耶は現れたシベリアとリアンに驚いている様子だが、それは彼女達の耳と尻尾を見て彼女達が獣人であることと、好奇心から来る驚きだろう。
「私はシベリアといいます。そして隣にいるのは私の妹でリアンといいます。初めまして異世界人さん。」
リアンは姉の言葉に軽く頭を下げる。沙耶は「狼と猫なのに姉妹?あ、私はフランシェスカちゃんの身体を持った転生者?の陽向沙耶です。」
「シベリア、私の初対面の時と違わないかい?」
シベリアと沙耶のやり取りに玲奈は面白くさなそうな顔をし、シベリアに文句を言ったが、彼女は「仕方ないとはいえ、リアンを脅した貴女にはあの時の対応がちょうどいいと思いました。なので今後も改める必要はないですね」そうキッパリ言い切った。
まだまだ根に持っているらしい。
「私も異世界人なのだけどね。もっと優しくしてくれてもいいんじゃないのかい?それにもういいだろう?根に持つのはやめてくれ」
「あら、優しいという言葉が似合わない貴女に優しさを与えたくはないですし、あの件は生涯私の中から消えませんからね」
沙耶とリアンを置いて言い合いを始めた二人にリアンと沙耶は顔を見合せ、リアンは二人の間に困った顔をしながら割って入る。
「イレイナ様もお姉様もそれくらいにしてください!」
イレイナ様はお姉様の反応が面白いからとふざけすぎです!
お姉様もイレイナ様の言葉に一々反応しないでください!
ここには沙耶様もいるんですからね?そうリアンのお叱りを受けてしまった二人は揃ってリアンに謝罪し、シベリアはコホンと一回咳払いした。
「それでイレイナ。沙耶・・・いえ、フランシェスカさんを閉じ込めるこの水晶、貴女ならどうにか出来るのでは無いですか?」
その言葉に沙耶は「えっ、イレイナちゃんできるの?!」と驚いた顔をし、リアンは玲奈なら出来ると信じて疑っていない期待に満ちた顔をする。
「出来るが出来ないかで言えばできるとは思う。ただ、」
やったことがない。
イレイナも記憶の中では『水晶の支配者』の権能についてはよく分かっていない様子だった。それ見るに彼女はあまりこのユニークスキルを使わなかったのではと考える。
他の水晶に干渉という言葉が正しいのか分からないが干渉するのも初めてのことだ。アルトゥーラを封印しているという魔水晶が初めて干渉する相手の予定だったが、ここでできるというのを確認しておくのもいい。
「沙耶、さん?今からキミを閉じ込める水晶に干渉してキミを自由にしようと思うのだが、一つ聞いてもいいかい?」
「なに、イレイナちゃん?」
「キミは今後についてだ。私達は今、この森にある地下遺跡に用事があるのだけど、用事が済むまでは私達についてきてもらう形になるのだが、代わりにキミを保護しよう。用事が終わったら、私も世話になっているシベリアとリアンの村へとキミを連れていき、数日間保護してもらう。シベリア、リアンもそれでいいかい?」
「構いません。」
「私も異論ありません」
「沙耶さんもそれでもいいかい?少しの間だけキミの自由を縛ることになるが・・・」
「大丈夫!どうせ行くところもないし!やっと自由になれるんだったら、少しの間の不自由だって平気!だって動けるんだもん!」
沙耶は目を輝かせながら玲奈の提案を承諾した。
彼女にとってこの暗かった空間で身動き出来ない時間はとてつもなく苦痛だったのだろう。
玲奈は鋭く真剣な顔つきになると手を水晶に重ねた。
「さて『水晶の支配者』よ、キミの真価を見せてくれ」
手から感覚として水晶の支配者が発動したのを感じる。やはり他の水晶、魔水晶への干渉自体は可能のようだ。
玲奈は初手で躓かなくて顔には出さないが安堵した。
「くっっ、思ったよりも魔力を使う。だけど、魔力を吸収される様子がないのは嬉しいね」
しあし、水晶の支配者から発した権能が沙耶を閉じ込める水晶全体を大きく包みこもうとするのを感じるのだが、その面積が大きくなるに比例して玲奈の魔力もどんどんと減っていく。
沙耶を閉じ込める水晶はそれほど大きくはない。せいぜい三メートルくらいだろう。
アルトゥーラの大きさ事を考えると、龍というくらいだ。封印しているであろう水晶の大きさは倍以上のはずだ。
最初がアルトゥーラでなくてよかった。玲奈は心からそう思った。
玲奈は額から汗を流しつつも魔水晶に干渉し始めてから数十分後、玲奈は喜色の笑みを浮かべていた。
「━━━掌握した!水晶よ、崩壊しろ!」
玲奈が沙耶を閉じ込めている水晶に命じると、水晶は幾つもの亀裂を発生させ、先端の方から崩れ始めた。
「あはは!凄い!凄い!イレイナちゃん、本当に出来たんだ!私がどうやっても出来なかったのにマジ女神様!」
崩壊と同時に魔力を吸収される感覚もなくなり、自分が自由になると感じたのだろう、沙耶の興奮は最高潮に達しているようだ。
しきりに興奮した様子で叫んでいる。
「私、ふっかぁーーつ!!!」
大森林内に存在する地下空間、その中に存在する空間内にビシッと天高く拳を突き上げるポーズをした沙耶の、魂からの叫びが空間内にこだました。
その叫び声を耳にした玲奈は思った。
━━━なんなんだこの子は、と。
ふざけたり叫んだり、泣いたり笑ったり叫んだりと感情の振り幅がおかしいんじゃないのか。 声には出さないでいるが玲奈はそう思っていた。
それは玲奈と一緒にいた二人の同行者、シベリアとリアンも同意見だったようだ。
「イレイナ。貴女が責任もって保護するんですよ」
「シベリアうるさい。分かってるよ。私が面倒見るよ」
「イレイナ様、凄いです!」
「ありがとうリアン。キミは姉とは違うね。でも出来れば顔を見て言って欲しいんだけど」
三人のやり取りが聞こえていない様子の沙耶は玲奈の方へと、久しぶりの地面におぼつかない足取りに苦労しながらてとてとと近づくとガバッと抱きついた。
「ありがとう!助けてくれて!」
笑顔で抱きつく沙耶はさきほどから何も着ていない。
一糸まとわぬ姿のままポーズをし、いきなり玲奈に抱きついたのだ。
パーソナルスペースがバグっているのか。
それとも今の自分の今の格好を忘れているのだろうか。
「ほんと、なんなんだこの子は」
抱きつかれたまま小さく呟いた玲奈の声に聞こえていたシベリアとリアンは心の中で同意した。
Demon-king Praying《魔王のように振る舞おう》 空を3る @soramiru
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