第6話(完結)「アマビエと神社姫のデート?~アマビエ♂の日常完結~」

 今日は、疫病退散妖怪連合えきびょうたいさんようかいれんごうの休日。

 アマビエが洗面所で歯を磨いていると、神社姫が嬉しそうに聞いて来た。



「……ねぇん、アマビエ。水族館のチケット二枚、取れたんだけど、行かないん?」


「今日は修行してえんだけど……」


「もう、修行ならいつもしてるでしょ?水族館は今日しか行けないんだからん」



 神社姫は、チケットを差し出しながら、毎度のアマビエの素っ気ない態度に、ちょっぴり寂しさを覚えつつ、可愛らしい仕草と甘えるような声で彼にお願いしている。



「……うん、まぁ。チケットを無駄にしない為にも仕方ねえから、付き合ってやるよ」



 しかし、煮え切らない態度をしていたアマビエは、神社姫に微笑を浮かべると、彼女からチケットを受け取った。



「嬉しい、アマビエっ! ありがとぉん。行ってくれるのねぇん」

 神社姫は、頬を染めて嬉しそうにアマビエに抱き着いた。



「うわっ、ひっつくなっ!」


 アマビエは神社姫に抱き着かれ赤面し、あたふたしている。

 そんなこんなで、アマビエと神社姫は人間に変化して水族館に出かけることになった。





 🐍





 アマビエは人間だった頃の淡い青髪の美青年姿で、黒のジャケットにグレーのスラックスのラフな格好をしている。神社姫は、紫がかった青髪のロングヘアでフリルがあしらわれた白のオフショルダーのトップスと赤のミニスカートを履いていた。



 玄関で揃って、アマビエと神社姫を見送る、アマビコとくだん、ヨゲンノトリは赤ちゃんのくだんを覗いて、心なしか、にやにやと笑っているように見えた。



「アマビエ、頑張れ! 今日はおとこを見せて来いよ」


「クアアッ! アニキ~、神社姫! 楽しんで来るんだクアアッ」


「アマビエしゃん、神社姫しゃん、いってらっしゃいでちゅ~」



 くだんは、アマビコの腕に抱かれながら眠そうな顔で小さな手を二人に振る。

 アマビコとヨゲンノトリは、アマビエと神社姫を見守りながら、なぜかグッと親指を立てていた。



「アマビコ、疫病との戦いじゃあるまいし、水族館で男を見せる必要があるのか?」



 アマビエは出かける前に、アマビコとヨゲンノトリの二人の様子に少し呆れながら、気になることを言って来たアマビコに問い掛けた。



「はぁ……相変わらず鈍感だな。お前は、もうそんなことは良いから今日は楽しんで来い」



 神社姫の女心おんなごころを全く、理解していないブラザーをアマビコは、ちらりと一瞥して、呆れ顔で溜め息を吐いた。手をひらひらと振って早く出かけるようにとうながす。



「――うっ、何だ? 今日のアマビコはいつもと違って、扱いが雑だし辛辣だな? まあ、良いか。行ってくる」



 アマビエは、そんなアマビコの反応を見て、少し戸惑いながらもスマホで電車のダイヤを確認している。


 そんなアマビエを横目で見ながら神社姫は、くすくすと笑う。。



「アマビコ、ヨゲンノトリ、くだん、いってきますん」


 アマビコと神社姫は、仲間に見送られ、近場の水族館「マーメイド水族館」へと出かけて行った。





 🐟





 ここはレトロな水族館「マーメイド水族館」、アマビエと神社姫は客が並んでいる列に並んで改札でチケットを出すとエントランスから、レジャーゾーンへと水族館の中に入って行った。



「ねぇん、あたしは、まずイルカショーが見たいわぁん」


「そうか? しかし、その前に飯食わないか、もう昼だし腹減ったよ」


「もう、しょうがないわねぇん。でもっ、超美形のあなたと一緒にご飯食べられるって幸せぇん」



「ああ~、はいはい。さっさと食いに行くぞッ」



 フランクフルト、ポップコーン等の屋台が出ている賑やかな道を通り、

 アマビエと神社姫がレストランに入ろうとすると、すれ違った親子連れに後ろから禍々まがまがしい疫病の群れが付いて行くのが見えた。



 それを鋭く凝視するアマビエ、彼は「神社姫、わりい! 疫病が現れた、食事は一旦、中止だ」と語気荒く伝えた。



「なんですってぇん! あたしも行くわ、アマビエ。もう疫病、許さないんだからん」



 神社姫は怒り顔でアマビエと一緒に、疫病の群れを追いかけた。






 疫病たちに追いついたアマビエと神社姫は、まず家族連れに気づかれないように神社姫の超音波で疫病をこちらに誘導した。



 誘導された疫病たちは、神社姫にひとけのない水族館の外れまでおびき寄せられた。



「もう、せっかくのデートなのに怒ってるんだから! 覚悟なさいん」


 神社姫はいきり立ち、正体を現した。

 彼女は、自身のヘビの下半身で疫病たちを次々と素早く締め上げる。



 アマビエも応戦しようとしたが、あまりの神社姫の怒り心頭さに冷や汗をかきながら見守っていた。



「ほらほら、お邪魔虫! さっさと消えるのよ」


『キキィイイイイッ!』


「すげえ……こわっ」




 疫病たちは抵抗する間もなく神社姫に消滅させられた。

 戦いが終わって神社姫は人の姿に変身すると、涙をぽろぽろと流した。



「えっ? お前、なんで泣いてるんだよ」

 アマビエが神社姫の肩に手を置いてたずねる。


「だって……今日はせっかくのアマビエとのデートだったのに、ぶち壊されたからん」



 アマビエはその言葉を聴いて苦笑しながらも、フッと微笑んだ。


「大丈夫だ、まだ時間があるし、これからやり直しゃいい。俺たちは予言よげんじゅうだ、こんなことは日常茶飯事にある。だがな、俺たちは人間の為だけに戦ってるんじゃねえ、俺たち自身の平和な日常を守る為に戦っているんだぜ?」




 神社姫はうつむいて「そうね」とうなずく。

 アマビエは言葉を続ける「俺は、お前達、メンバーの平和の為にも戦っているんだ」


「ねえん、アマビエ……?」


「ん、なんだよ、神社姫」


「アマビエは……あたしの為には」と言いかけて神社姫は口をつぐんで歩き出した。


 その時、アマビエの脳裏にアマビコの声が響く。



 ――アマビエ、おとこになれ――



 アマビエは神社姫の後に付いて行く、彼女の寂しそうな横顔を見て頬を染め、アマビエは神社姫にスッと近づくと、神社姫の腕をいきなりグイッと軽く引っ張った。



「きゃんっ、アマビエ?」



 神社姫が驚いてアマビエの方に顔を向けると、アマビエは神社姫の唇にチュッと短いキスを落とした。



 その瞬間、驚きすぎて口をパクパクしながら、顔を真っ赤にして彼を見上げる神社姫にアマビエも頬を真っ赤に染めて口を尖らせた。



「オレはっ……お前のことが一番、大切だからこれからも守ってやる!」


「つっ……アマビエ~~!」


 神社姫はポロポロと嬉し涙を流しアマビエに抱き着いた。

 アマビエと神社姫は水族館デートへと寄り添いながら戻って行った。




 疫病えきびょう退散たいさん妖怪ようかい、予言獣、アマビエ、神社姫、ヨゲンノトリ、アマビコ、くだん、彼らの戦いと日常はこの物語が完結しても続いて行く、疫病が存在する限り、そして彼らの守る存在がいる限り。




 ――我らは“疫病えきびょう退散たいさん妖怪ようかい連合れんごう!”――





🐟『人間形態のアマビエ&神社姫』挿絵🐍

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/822139840892615697





 おわり





 去年の9月から連載していた『アマビエ♂の日常』は完結しました。

 

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