最強のスキル《Number》を手に入れたので、異世界で楽しく暮らそうと思う。

クロスケ@作品執筆中

第1話

 人間は数字に弱い。

 これは誰もが知る事実だ。

 SNSのフォロワー数、いいねの数、動画チャンネルの登録者数、占いやランキングの結果に一喜一憂する者も多い。


 そして同時に、人は数字に群がる習性を持つ。

 アプリのダウンロード数、動画の再生数。

 その数字が大きければ大きいほどに「これは凄いものに違いない!」と勝手に思い込み、その者自身も歯車の一部となる。


 考える事を放棄して他者に依存する事を決めたのだ、人間は。

 例え依存する相手が見ず知らずの、何処の誰だかも全く分からない相手だったとしても。


「貴方の要望はわかりました。では、貴方に《Number》と言うスキルを与えましょう。願わくば、この力が貴方の役に立つ事を祈っています」

「ありがとうこざいます、女神様」


 こうして珍しく人助けをした結果、事故で死んでしまった俺の人生が呆気なく終了し、異世界での新たな人生が幕を開ける事になった。


「なるほど、ここが異世界か」


 まばゆい光に包まれ、視界が遮られた次の瞬間。気が付けば俺は薄暗い森の中に立っていた。良くある定番のお約束からのスタート、悪くないチョイスだ。


「まずはステータスを全てカンストしておこう。その方が何かあった時にも直ぐに対応出来るもんな!」


 ステータスやアイテム画面、この世界の常識などの大体の事は事前に女神から教わっている。

 二本指で上から下にずらすようにしてステータス画面を視界に表示させると、そこに表示されている数字を片っ端から上限値へと変えていく。


 Lv.1→999

 HP.18→99999

 MP.11→99999

 ATK 7→9999

 DEF 5→9999

 SPD 7→9999


「……なんか凄く罪悪感があるな、これ。しかも何か興醒め感がハンパない」


 だがしかし、今は自分の命が最優先事項。興醒めだろうが何だろうが、それを感じるのは生きてこそだ。

 それにステータスを下げるにしても他の冒険者と呼ばれる人種や魔物達の強さを確認してからでも遅くない。


「さぁ、森を出よう」


 女神のお陰で既に全ての場所がマッピング済みの状態で表示されている。これなら迷う事はない。

 マップを見ながら森を出た時には、既に空は夕暮れに染まっていた。


「よし、抜けた……って、少し急がないと野宿になりそうだな」


 マップでは西に五キロほど行った所に大きな街が確認できた。

 森を移動していて思ったが、脚力もステータスが上がった事でだいぶ強化されているみたいだ。これなら街にもあっという間に辿り着ける事だろう。


「しかし街に着けたとは言え、いい加減に腹が減ったな。どうやって食い物を調達するかな」


 金はまったく持っていない。

 かくなる上は盗みでも働くか、このステータスなら絶対に逃げ切れる自信がある。

 顔さえ隠しておけば、いくらでも盗み放題だ。宿は最悪、諦めればいい。


「いや、待てよ……スキルを使えば、あるいは──」


 あらゆる数字を自由に操作できる《Number》を新たな使い道に気付き、さっそく実験して見る事にした。なに、失敗したら全力で逃げれば良い。


 果物が売られている露店に目を付け、商品の前に立て掛けられた木札に視線を落とす。

 そして木札に軽く指で触れて意識を集中させ、そこに置かれたリンゴのような赤い果物を一つだけ取った。


「貰って行くぞ」

「なんだい、一つだけで良いのかい? タダなんだからもっと持っていけば良いじゃないか!」


 見事、実験は大成功。

 店主に渡された紙袋いっぱいに入れられた果物をアイテムボックスへと収納すると、木札に書かれた数字を元の金額に戻した。

 そして宿屋の空いている馬房に無断で侵入し、貰った果物を頬張りつつ、そのまま夜を明かすのだった。

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