もう、好きでもないし、嫌いでもない

CHOPI

もう、好きでもないし、嫌いでもない

「いいなー、私もそんなに人を好きになってみたい」

「でも結局、なんにもないから。友達、ってだけ」

 たまたま入ったカフェの隣の席から聞こえてきたそんな会話。ふと気になってばれないように視線だけで様子を伺うと、まだまだ幼さの残る顔とちょっとあか抜けない制服。中学生、だろうか。

 会話の内容を要約すると、片方の子が一途な片想いの話で盛り上がっているようだった。聞こえてくる内容に思わず目を細める。その二人の初々しさが可愛く、いつしか自分から遠く離れた内容だったこともあって懐かしく思う。この二人もそのうち今日みたいな日を懐かしんで笑う日が来るんだろうか。今の私みたいに。


「お待たせ」

 待ち合わせに少し――……、いや、かなり遅れて来た彼が、特段悪びれもせずにやってきた。その態度にこっそりため息をつく。……疲れた。潮時、なのかもしれない。なんて唐突に思った。

「別に。待ってないよ」

「そ?」

「うん、行こう」

 そう言ってカフェから出る。お互いの仕事が忙しく、なかなかタイミングが合わずにズルズル引きずった結果、今日は3ヶ月ぶりに会うことになったわけだけど。……だけど別にこの3ヶ月辛かったかと聞かれたら、もうそんな感情も湧かないくらいには疲れていた。やっぱりもう、無理なんだと思う。

 前は自然と揃っていた歩幅も、今日は全く合わずにいる。目の前を進む彼は時折こちらを振り返るけど、やっぱり隣というよりは少し先を歩いて行ってしまう。でも、引き留める気にもなれなかった。


「ね。もう私たち、別れようか」

「……。」

 彼は肯定しなかった。だけど否定もしなかったから、こちら都合で勝手にその無言を肯定と受け取る。

「……じゃあね」

 重たい沈黙が嫌になって彼に背を向けた。少し歩いて、心のどこかで追いかけて来てくれることを少しだけでも期待していた自分に気が付いて、バカみたいだなと浅はかな自分を嗤う。その時は少し寂しいと感じたけれど、それすら家に着く頃にはもうどうでもいい、その気持ちが上回っていた。

 自室に戻って座椅子に座って、スマホを見る。特に何も連絡は来ていなかった。……そう、所詮、そんな程度。


 昼間のカフェの、隣の子たちの会話を何故か思い出した。あの頃の純粋な気持ちのまま大人になりたかったな、なんて思った。

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