知的クール系脇役無表情美少女を目指しているので頼むから放っておいてくれませんか?

天音雨

第1話

 何の目的もなく生きた。27年間何の目的もなく生きた。朝起きて憂鬱な気持ちで煙草に火をつけて、今日は残業無しで帰れるといいな、嫌な先輩に怒られないといいな、嬉しいことも楽しいことも幸福だと思える出来事なんてとうに諦めてるから、どうか嫌な事だけ起こらないで欲しい。


 鬱だったんだと思う。病院になんて怖くて行けなかったけど完全に鬱だったんだと思う。認められるのが怖くて進められても頑なに拒否してたけど俺は鬱だったんだと思う。


 顔が良い訳でもない、どっちかてーと不細工な俺は表立っては苛められて来なかったけど、影では色々言われてた。キモいよね、アイツ変じゃね?会社止めちまえば良いのに、そーゆー奴らは笑顔で話しかけてくるけど、その仮面の下は丸見えだった。


 優しい言葉には裏がある。初対面で優しい奴ほど気を付けなければいけない。他人なんて一ミリも信用してなかった。なかったんじゃない出来なくさせられた。他責思考に聞こえるかも知れないけど実際そうなんだから仕方がない。


 んでもさ、俺みたいな奴は自分を責めちまうんだよ。アイツが悪いより先に自分が悪いのかな?って思っちまうんだ。馬鹿みたいだろ?でもこの気持ち結構分かる奴いるんじゃないかな?


 死のうと思ったら何でも出来るじゃん、出来ねえよ、出来ねえから死のうと思うんだよ。もっと前向きに生きなよ、馬鹿がそれが出来ねえから辛いんじゃねえか。


 親父もお袋も何にも分かってくれなかった。何を言ってもおかしいのはお前だよみたいに言われた。あの目は会社にいる奴らと一緒だ。人を見下して優越感に浸ってる奴らと同じ目だ。


 ま、いいよ。別にもう。俺死ぬし、ていうか死んだし、お前らのお望み通り消えてやったぞ感謝しろ。


 ドアノブから最後に見た景色は、どうしようも無いほど綺麗な夕焼けだった。


 ***


 否応なく転生。何の確認も無く俺はまたもこのくそったれな世界に産声を上げた。


 たぶんだけど輪廻転生ってやつは存在するんだと思う。皆は記憶を失くしちまうかもしんないけど、嘘くせえと思ってたギフテッドは存在するんだなって思った。


「可愛い女の子ですよ。」


 初めて聞いた声はそれだった。母親でも何でもねえマスクで可愛く見える看護師の声だった。


「おぎゃっ……」


 泣こうとした口を、生理的現象を人間の生存本能を鋼の意思でストップさせる。なんでか?目に映った母親の素晴らしい程に整った顔を見て思ったからだ。これならばイケるって。


 あの憧れの教室の隅でずっと読書をしているような知的クール系脇役無表情美少女に、今から鍛えていけばなれるんじゃないかって。


「あのっ、この子泣かないんですけど!というか無理矢理泣くの止めたんですけど!?」


 長い灰色の髪と青い目をした驚くほど綺麗な母親が泣くのを止めた俺を見て慌てている。馬鹿な俺は考えたのさ、赤ん坊のうちから一切泣かず笑いもしなければ表情筋だって固まるんじゃないかって。


 血の滲むようなひとり笑ってはいけないと泣いてはいけないを繰り返して、長い年月をかけて小学校に上がるまでには何とかそれを手に入れたけど、常にガンぎまりで瞳孔を開いていた俺の目は母親と違って真っ赤に染まってしまった。


巡流めぐる、行ってらっしゃい。」

「うん行ってくる。」


 笑顔で手を振る母親に今日も無表情で手を振り返す。二度目の人生の目的?そうだな、まあ取り敢えずは何の夢も希望も持てなかった俺だけど、唯一の安らぎだった大好きなアニメに出てきたような知的クール系脇役無表情美少女を目指す事かな。


 馬鹿じゃね?って思うかも知れないけど、それでも屍だった前世よりはまだ遥かにマシな考えなんじゃないかな。暗い部屋で膝を抱えてずっと同じアニメを一人で見ていたあの頃よりは…

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知的クール系脇役無表情美少女を目指しているので頼むから放っておいてくれませんか? 天音雨 @amaneame5

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