だってそっちが望んだんじゃん

変汁

臭い


工場の側には小さな川があった。


その工場は川に有害化学物質が垂れ流されているという噂があった。


けど側で暮らす人の6割がその工場の作業員だった為、誰かが行政に密告するという事はなかった。


何故ならそれで工場が停止にでもなれば、失業するかも知れなかったからだ。


最初の記憶はプラスチックが焼ける焦げ臭い匂いだった。


その記憶を持って僕は工場の側で育った。


両親は共働きで2人共その工場で働いていた。


小学生の頃、僕の友達が買って貰ったとプラモデルを自慢して来た。


だからプラモデルを取り上げて地面に叩きつけてやった。


壊れたプラモデルを踏み付けると友達はギャーギャー喚き泣きながら何処かに行ってしまった。


僕は壊れたプラモデルを見ながら、このままじゃ何かガッカリだなと思った。


だから家に戻り着火式ライターで壊れたプラモデルを燃やした。


黒い煙を上げながら溶けるプラモデルを見ていると、

ある記憶が蘇ってきた。


それは僕がこの世界で初めて手にした記憶だった。


記憶とリンクした焦げる臭いは僕を良い気持ちにさせた。


だからもっと燃やしたいと思い、

残りの壊れたプラモデルに次々と火をつけていった。


沢山の焦げ臭い臭いが漂う中、僕はいたる所にライターで火をつけて遊んでいた。その時、友達がママを連れて戻って来た。


友達はママに向かって、買って貰ったプラモデルは僕が壊したんだよと僕を指差した。


友達のママは友達にそこで待っているように言った。

友達は頷いた。母親は僕に近づいて来た。


「親の顔が見てみたいわ」


友達の母親はそういい、辺りを見渡した。


僕と友達しかいない事を確かめると母親は僕の両脇に手を差し込んだ。


よいしょといいながら僕を持ち上げる。


高い高いだと僕は思い両手足をばたつかせはしゃいだ。


そんな僕を見上げた友達のママは、いきなり地面に向かって僕を叩きつけた。


友達の母親は直ぐさま走り出し友達を抱えて逃げて行った。


後頭部を強打した僕は、夕方、倒れいる僕を見つけたパパに起こされるまで気を失っていた。


地面に叩きつけられた衝撃で意識が飛んだようだった。


両の鼻から鼻血が出ていたけど、血は止まりとっくに乾いていた。後頭部には大きなたんこぶが出来ていた。


「どうした!」


パパの言葉に僕は転んだと答えた。


何故、そんな風に答えたのか僕にはわからなかった。


病院で検査をしたけどたんこぶが出来ていた以外に異常は無かった。


ママはは僕を抱きかかえ泣いた。


どうして泣いているのかピンと来なかった。


その事が原因で、僕と遊んでくれる友達はいなくなった。


誰も僕と遊ばない理由を教えてくれなかった。


きっと友達のママが僕を壊せなかったから、遊んだらダメと言いふらしたのだと思った。


僕には友達がいなくなった。だから1人で遊ぶしかなかった。


ある夜、TVを見ていたら水というものは高い所から落ちたらその衝撃はコンクリート並みに硬くなるという話を聞いた。


そうなんだ?と思った。


次の日、工場側の川に行った。


石や空き缶などを川に投げてみた。


見る限りTVで言っていたように、硬くは無さそうだった。


これじゃ壊れないじゃないか?


そう思って直ぐに高さが足りないんだと僕は気づいた。


ある日の夕方僕は橋に行った。


そこから様々な物を投げたけど、地面に投げた時のような跳ね方はしなかった。


水というものはコンクリート並みに硬くなるんじゃなかったの?僕はTVは嘘つきだと思った。


帰り道、横断歩道で待っていると、鳩が目の前を飛んでいった。その鳩は反対車線の車にぶつかり吹っ飛んだ。


それを見た僕は、水より車の方が硬いんだと思った。


翌日から僕は走っている車に向かって色んな物を投げた。


ぬいぐるみや空き缶、サッカーボールなどだ。

投げていると何故かプラスチックが焦げる臭いがした。


その臭いを嗅いでいると、何だか楽しくて、とても面白かった。


何が面白かったかと言えば、物が車にぶつかって飛んで行く所だった。


そんな風に遊んでいたら知らない大人に捕まえられ警察に連れて行かれた。


その人は僕が空き缶をぶつけた車に乗っていた人だった。


パパとママが迎えに来ると、車の人に謝っていた。


どうして謝るのか僕にはわからなかった。


翌日もその又、翌日も僕は橋に行った。


拾った物を沢山投げた。


その数だけ目の前で跳ねて、面白いように飛んだ。


けど、今日はもう投げる物がなくなった。


だから帰ろうと思った時、プラスチックが焦げる臭いがした。


臭いを辿ると、そこには横断歩道があった。


夕方だからか、行き交う車の台数も多かった。


歩道より道路側へ近づくとその臭いは更にキツくなった。


信号が赤だからそれ以上は近寄れなかった。


仕方なく僕は横断歩道の手前で立っていた。


すると会話する2人の人が僕の側に来た。


チラ見すると、そこには前に僕がプラモデルを壊した元友達いた。母親と手を繋ぎが楽しそうに話していた。


2人らかプラスチックが焼ける臭いがした。横断歩道の先で臭うものと同じ臭いだった。


2人がいるその向こうから、大きなトラックがこちらへと向かって来ていた。 


元友達と母親は僕には気づいてないようだった。


だから僕は2人の後ろに周り、トラックが目の前に通りかかった時、2人を突き飛ばした。


いきなり人が飛び出して来たからトラックは急ブレーキを踏んだ。その時、焼き焦げた臭いがした。


僕の元友達はトラックのフロントバンパーに跳ねられ高く跳ね上がり、頭から地面に落ちた。グギっと首が折れ元友達は鼻から血を流して動かなくなった。その子の母親は僕が押したりなかったせいか、トラックに跳ねられても飛び跳ねなかった。


代わりに大きなタイヤに足を巻き込まれタイヤと一緒に道路の上を一周した。その後、トラックの重さで元友達のママの頭が潰れた。目が飛び出て歩道の方へ転がって来る。僕はその目を踏み潰した。


僕の友達をやめたのもそっちだし。そうなるのを望んだのもそっちじゃん。


僕は踏み潰した元友達のママの目玉を道路に向かって蹴飛ばした。遠くから沢山の悲鳴が聞こえた。急ブレーキをかけたトラックに後続車がぶつかり歩道に乗り上げ、歩いていた人を跳ねたようだった。


僕はただ1人、横断歩道の信号が青になるまで、焼け焦げた臭いを嗅ぎながら元友達とその母親の姿を眺めていた。人ってプラモデルのように簡単にバラバラにならないんだと思った。信号が青になるのを待ちながら、次はバラバラになりそうな人を探そうかなと思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

だってそっちが望んだんじゃん 変汁 @henjiru-is-dead

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る