スメラ・ラビールの軌跡帳


 私の名前はスメラ・ラビール。

 ラース王国のラビール王家に生まれた次女である。

 今、何故か日本という国に転移をさせられ、この過去帳を書いている。

 ディアもフィナリアも書くということなので私も書こうと思う。

 私が書く内容は【大好きな女の子】これにする。

 

 

 私は10歳のころ小さな学園に通っていた。

 学園とは、たくさんの種族がいて、魔法や勉学を学ぶところである。

 しかし、私には昔から欠点があった。

 それは……


「さっきから、うるさいんだけど」

「あ!? お前俺に向かってなんて口きいてんだこらあ!」

「いた!」


 そう、口調が悪いので毎回男子から殴られるのだ。

 口調に関しては私の性格なので仕方がない。

 なので、私の周りには敵しかおらず孤独になっている。

 たった1人を除いて。


「あなたたち何をしてますの!!」

「やべ! ディア王女だ!」


 ディア王女……スラム国の王女……私の国とは敵対国だったはずだが……


「まったく!」

「ねぇ、なんで助けるの?」


 私は昔から1人だったので、私にかまう理由がない。

 

「困った人がいたら助けるのは当たり前よ! 私はディア・サレスティーよ! 覚えておきなさい!」

「はぁ……スメラ・ラビール」


 敵国の王女に、なぜ普通に名乗ってるのかわからない。


「スメラね! いいわ! これから一緒にがんばりましょう! 良いわね!? 何かつらいことがあればすぐに言うのよ!!」


 そうして私とディア王女の、学園付き合いが始まった。


 ディア王女は、はっきり言ってうざい。

 学園で1人になりたいときも遊びに誘ってくるし、私が断ろうとしても笑顔の圧力で結局反抗できない。

 だけど、私について、何か陰で言われているときはディア王女が怒り、鎮めていた。

 後半からは、ディア王女と遊ぶのが楽しくなっていた。

 そうして学園卒業の日。


「スメラ! 私のこと忘れないでよ!」

「はいはい、忘れるわけないでしょ。あんなにうるさいのだから」

「はぁ!? 誰がうるさいのよ!」


 このまま離れてしまうのは嫌な気持ちになってしまう。

 昔の私ならば絶対にありえない話なんだが……

 ディア王女と出会ってから、私も変わった気がする。


「また会いなさいよ! ディア!」

「あんたが忘れなければ必ず会うわ! スメラ!」


 そうして私たちは軽くハグをして別れた。

 敵国なんて関係ない。

 私は胸に手を当てながら歩いていくのだった。


「ただいま帰りました。お兄様」

「帰ったか」


 私が城に入ると、急に3人が背後に現れ私を拘束する。

 何が起きているのかわからない。


「ちょっと! お兄様!?」

「ついに完成した……これが……」


 私は何やら魔法陣のところまで連れていかれる。


「ちょっと!離しなさいよ!」

「出でよ! 異界のものよ」


 兄がそう叫んだ時、私の頭に、ものすごい激痛が走る。

 

「ううあああ!!」

「いいぞいいぞ! スメラ! 我が愛しき妹よ! 俺の力になってくれ!」


 そうして急に頭の激痛が収まる。

 なに? いったい何が……

 すると、私の意に反して私の体が勝手に動くのが見える。

 え? なんで……


「おお! 成功だ! 悪魔よ! これからお前には周りの国を滅ぼしてもらう! スメラは魔力使いは優秀だ」


 ダメ! お兄様何を考えてるのよ!?


 しかし、その思いは届かず、私じゃない私が、杖を持ち歩いていく。

 そうして他国の破壊が始まった。


 ダメ! もうやめて! なんで……


 私の目に映るのはただ勝手に人を私の杖で焼いている映像のみ。


 あああ!! お願い止まって!! いやよ! なんで……


 しかし、その悪魔は私を笑うかのように次々と国を破壊していく。


「いいぞ! じゃあ次は【スラム国】だな」


 ダメ!! その国だけは!! お願いだから! お兄様!!


「スメラもあの王女にはうっとうしいだろう。自分で処分できるのさぞうれしいだろうなぁ」


 お兄様何を言って……

 ダメ! お願いだから……

 しかし私じゃない私はゆっくりと歩いていく。

 

 そうして転移魔法で転移し、現れたのはスラム国の街並み……

 

 ダメーー!!! イヤアア!!

 

 しかし悪魔は次々と私の体で街を破壊していく。

 聞こえるのは悲鳴と破壊される音……

 

「スメラ!」


 遠くで声がきこえる。


 ディア王女! 来たらダメ!! 今の……今の私は……


 するとディア王女のお腹に白い線が撃ち抜かれた。


 イヤアア!! もう! もうやめて!!

 私から離れなさい! 悪魔!


 その言葉に私じゃない私は、さらにディア王女に追撃している。


 ダメダメダメ!! どうして!!? もうやめて!!


 しかしそこには……完全に完治しているディア王女ともう1人の姿があった。


「スメラ!」


 ダメ! 来たらダメ!! ディア王女! 来たら……

 

 次々と魔法がディア王女に打ち込まれる。

 しかしディア王女は倒れない。

 そしてもう至近距離になり……ゆっくり私を抱きしめた。


「つらい時は私に言いなさいって言ったじゃないの」


 ディア王女! 離れて! 今の私は……


 ディア王女にどんどん魔法が撃ち込まれている。

 頭を撫でてくるたびに、どんどん怒りが巻き起こってくる。


 よくも……よくも……よくも! 私の大切な人を!!


「グアアア!!」



 急に視界が回ったようにうずく。

 絶対に許すものか……

 この悪魔め!! さっさと私から出ていけ!


 そうして私は疲労感に苛まれ、その場で倒れてしまった。


「う……ん」


 目が覚めるとそこは知らない天井が見えた。


 ここは……


 私は、慌てて起きると手を握ったり開いたりする。


「起きたのね! スメラ!」

「起きましたか、スメラ嬢様」


 ディア王女ともう1人が歩いてくる。


「あなたは……?」

「初めまして、ディア王女の使用人兼護衛人のフィナリア・アスリーンです」


 私はこの国に手を出したのだ。

 とんだ裁判でも受けるつもりである。


「私をどうしようと……」


 言い終わる前にディア王女が抱き着いてきた。


 なぜ? 私は何回もあなたを殺そうとしたのに。


「生きててよかったわ!」

「しかし、ディア王女……私はあなたを……」

「スメラ嬢ディア王女は創造神の加護により、死にません」


 フィナリアとかいう使用人の話だと死んでも勝手に蘇生するらしい。

 だから何回も魔法を受けても立っていたわけだ。

 

「ディア王女、フィナリアさん。すみません……私最後にまだ、やることが残ってますから」


 と立ち上がる。

 2人は何かを察したのか頷いた。

 そうして、ラース国の入り口まで転移する。


 よくも……お兄様いや、もうお兄様じゃない。


 頭で、悪魔に操られていた時のディア王女の様子が思い浮かぶ。

 私は無言で杖を突きだした。

 

「さようならお兄様……そしてラース国【爆轟神攻砲カタストロフィインパクト】」


 上空に巨大な魔力の球体が出現する。

 球体は大きすぎるがゆえに、ゆっくりと落ちてきているように見える

 周りは非常に明るくなり、木の葉も浮き上がっていく。

 もうこの魔法は止められない。


「お兄様……」


 私がそう呟くと、球体が地面に到着し、青白い光とともにすべての街、城が消え穴をあけながら地面にめり込んでいった。

 そうして、爆発し、周り一帯を全て吹き飛ばす。

 もちろん私のいる位置も爆風に巻き込まれ、そのまま吹き飛ばされる。

 ラース国があった場所には大きな穴が開き、全てが消え去り、海の水が流れ込んできている。


「大丈夫ですか?」


 飛ばされている途中、誰かに受け止められた気がした。

 なんとフィナリアだった。

 

 なぜこんな上空に……?


「ディア王女から命じられました」


 そうして地面に降りる。


 ディア王女が? 何のために……


「スメラ! フィナリア!」


 奥からディア王女が走ってくる。

 

「スメラここで言うわ! あなた私の護衛になりなさい!」

「え? でも私はあなたのことを……」

「私は死んでいないわ! それに……私はあなたのことが友達として、親友として好きなのよ! だから!」


 なんでこんなところでいうかなぁ……

 私だってずっと前からそうなのに……


「あ~! こんなところで言わなくていいわよ! ええ、私だってディア王女のことは好きよ! こんな私を1人守ってくれて! それで、しかも命を狙われたのに……私は裏切ったのに……私のことを護衛に……」

「王女であるこの私がこんなにも言ってるのに断る気!?」


 なんでだろう、涙があふれてくる。


「バカ王女! 優しいだけの馬鹿よあなたは!!」


 私は思わず叫んでしまった。

 実際はすごく嬉しいこんな気持ちは初めてである。


「何回もバカバカって!! フィナリア! スメラを担いで連れてきなさい! 強制よ! あと! スメラは周りからなんて言われようとも、今のままを続けなさい!」

「かしこまりましたディア王女」

「うるさいわね! わかってるわよ! ってきゃ!」


 フィナリアが私の腰を掴みそのまま上に担いだのだ。

 ディア王女は笑いながら私の顔を見ている。

 決して馬鹿にしている笑い方ではない、優しさが出ている笑い方である。

 こうして私とディア王女・フィナリアは一緒に暮らすことになるのだった。


 おしまい。

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異世界王女と使用人、毒舌令嬢を連れて日本に転移する。ただ、よく分からないので動画投稿やライブ配信で生活したいと思います。(3人の軌跡) 蜂鳥タイト @hatidori_taito

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