ディア・サレスティーの軌跡帳


 私の名前はディア・サレスティー。

 スラム国王女にして創造神の加護を持っている。

 今日は、私の使用人であるフィナリアが、前世の記憶を思い出せるように、日記帳を書いているという情報があり、私も書くことにした。

 私が書く内容としては【私と加護】というタイトルにする。



 私、ディア・サレスティーはスラム国の第1長女として生まれた。

 それはつまり次期王女になるということ。

 ちなみにスラム国の男王は既に戦争によりこの世を去り、今は私とお母様、そして使用人1名がお城の中で暮らしている。

 お母さまは病気を患っており、ずっと寝たきりなので、私が生まれたときから実質な王女という肩書を持っていた。

 そうして月日が経ち、私がまだ10歳くらいのころ、奴隷商人を捕まえるため、騎士団と同行していた時、とある女の子に出会った。

 奴隷にされそうになっていたか弱い女の子。

 私は不思議と一緒に居たいと思ってしまった。

 名をフィナリア・アスリーンという。

 これも運命だと思い、フィナリアを半ば強制的に私の使用人として任命する。

 しかし、お母さまからは反対されてしまった。


「こんな薄汚れてる子を使用人ですって? 絶対反対です……コホコホ……」


 布団から私とフィナリアの顔を交互に見て小さな声で呟く。


「お願いお母さま! 私は一緒に居たいの!」

「ディアお嬢様! お母さまはもう病気なのです。いいたいことはわかりますが、これ以上ご無理をさせては……」


 そんなことは見てわかっている。

 しかし、どうしても使用人にさせたいという私の願いもあった。

 それもこれも全てこの使用人のせい。


「そんなの分かってるわよ! お母さまは私の大切なお母さま! それに何よ! あなた使用人のくせにお母さまの世話は何したっていうのよ! 部屋の掃除すらしてないじゃない! 私がお母さまの世話を全部していたのよ! お母さまも知ってたわ!! わざと注意していなかったのよ!」

「……」


 私は知っている。

 この使用人は、ただ金目的で使用人をしているに過ぎないことを。

 つまり私たちなどどうでもいいことを。

 お母さまの世話など何もしていない。

 挙句の果てには、リビングで寝ており、お母様のご飯を作るのは私の時もあった。

 お母さまも知っていたのだが、注意するほどの体力は残っておらず、好きにさせていただけ。

 私は睨みながら使用人の顔を見る。

 だからこそ、フィナリアを半ば強制的に連れてきたのだ。

 フィナリアならば大丈夫だと心から信じているから。


「お願いお母さま! フィナリアの面倒は私が見るわ! しっかりとした使用人に育てますから!」

「……ディア……しっかり育ったのね」

「お母さま!? しっかりしてください! ちょっと使用人! 薬……」


 振り返ると、そこにはもう使用人はいなかった。

 本当にむかついた。

 最後まで仕事放棄して最終的には逃げていく。

 

 

「最後に……ディア王女、あなたに神の加護がありますように……」

「お母さまぁ!!」


 そうして、私のお母さまは私の目の前で息を引き取った。

 私はひたすら泣くことしかできない。

 しばらく泣いていると、フィナリアがタオルを持ってきてくれる。

 

「フィナリア……」

「事情は分かりました。これからは私があなたのお世話をしてもよろしいでしょうか? 必ずあなたのために、自身全てを捧げると誓います」


 フィナリアが片膝をつき私の手を握ってくる。

 ここで我に返った。

 スラム国新王女として、負けるわけにはいかない。


「そうね……ええ、やるわよ! お母さまを後悔させないような……優しくて立派な王女になって見せますわ! やるわよフィナリア! 私と一緒に! スラム国を!」

「はい! ディア王女様!」


 フィナリアの顔が笑顔になった。

 ようやく笑ってくれたので、私もつい笑顔になった。


ーーふふ、やはり思った通りですーー


 頭の中に声が聞こえた気がした。


「だれ!?」

「どうしました? 王女様」


ーーディア・サレスティーに約束通り加護を差し上げましょうーー


 すると突然、私の体が光り輝いた。

 体の中が温かい。

 お母さまのぬくもりに近いだろう。

 そうして私の視界に、【創造神の加護:自動蘇生反撃オートリザレクションカウンター】という文字が浮かび上がるのだった。

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