残念かつ…………な弟
飄々とした様子で俺達の前に現れたニコラスだが、コイツよく平然と俺達の前に姿を現わせたな!
ニコラスが過去に俺やエステラ様に仕出かした事を考えたら、普通の感性を持つ人間なら声を掛ける事さえ躊躇しそうな気がするけどね。
元々残念な男だと思っていたけど、久しぶりに見たら以前に増して残念な感が増して見えて来たのは、気の所為だと思いたい……
「ニコラス……久しぶり」
「アハハハ、まさか社交の場で兄さんに合う事になるなんて思ってもいなかったよ。
それにしてもパーティに来てるなら、先に声を掛けてくれてもいいじゃん。
相変わらず俺には素っ気ないよねー」
ん?、ちょっと待て??、お前俺達今さっき陛下の元からここに降りて来たの知ってて、俺達にソレを言うのか?
「ニコラス……念の為に聞くけど、俺がお前に挨拶するのと陛下に挨拶するの、どっちが優先すべき事か分かるよな?」
俺は色々言いたい気持ちを抑えて、出来るだけ穏便に今の状況をニコラスに伝えようと言葉を選んだ。
「そりゃもちろん陛下に挨拶するのが先だろうけど、俺達兄弟なんだから真っ先に俺に挨拶しに来ないとダメじゃん!」
俺はニコラスの返事を聞いて言葉を失う。
この世界には優先順位ってのがあって、余程の事がない限り優先順位が高い事から物事を進めて行くのが基本なんだよね?
ソレを疎かにすると、人間関係どころか仕事の進め方だって上手くいかないって事に、お前まだ気が付いていないのか?
過去に大層やらかしているのというのに、今だに何も学んでいない弟に、俺は心底呆れて物も言えない。
「陛下に先に挨拶しなきゃいけないのが分かってるなら、いくら兄弟とはいえ優先順位をはき違えてると思われるような発言は、周囲に不要な誤解を招きかねないから慎むべきだと思うんだけど、ニコラスはどう思う?」
「どう思うって……おいおい、兄さんが俺に説教?、急にどうしたってんだよ?
今まで屋敷で一緒に暮らして時は、そんな事一切言わなかったクセに?
もしかして、辺境伯家に行ってから自分が偉くなったと思ってる訳? あのさ、元平民だったクセに、ちょっと良いトコの婿になったからって、偉そうにするもんじゃないよ」
(あのな……爵位だけで言えば、俺はもうとっくにお前より
「お前の発言は周囲に”皇帝陛下に反意を持っている”、と勘違いされかれない発言だから少し黙れ」
と伝えたつもりだったが、結局この馬鹿には何も伝わっていなかったみたいだ……
そもそもこの帝国において辺境伯ってのは、侯爵より上の公爵と同等かそれ以上の爵位なのは、帝国民なら当たり前のように知っている事であり、現に俺は書類上はフローレス辺境伯当主の夫であるフローレス辺境伯夫君なので、こんな事考えてるのも馬鹿らしくなってくるけど、実際の所俺は本当にニコラスより偉い立場の人間になってるんだって!
あいつの不要な発言は、「そんな当たり前の事さえ知らないのではないのか?」、と周囲に疑われても可笑しくない……というか、自分が無知で阿呆だと周囲に知らしめている発言だという事に、ニコラスは気が付いていないんだろうね。
「あのね、分かってるだろうけど一応言っとくよ。
今の私は
よっていくら兄弟と言えど、公の場では立場を弁えた発言をされた方が良いと思いますよ?
ニコラス・ナルバエス侯爵子息殿!」
あんまりこんな事言いたくないんだけど、爵位上俺はニコラスより目上の人間である以上、目下の者から侮辱された事をただ黙ってる訳にも行かないので、渋々ニコラスに今の現状を出来るだけオブラートに包んだ言葉で現状を伝えてみる(正直言って話が伝わる事を期待している訳じゃないけど)
「いやいや、元平民のクセにちょっと良い爵位に付いたからって、またまた偉そうに上から目線で説教ですか?
そもそも兄さんが今の地位に居るのも誰のおかげか分かってんの?
ほら言ってみなよ?
誰のお陰で、誰の代わりに、『その狂暴女』の元に行って、兄さんがフローレス辺境伯夫君になれたのかをさ!」
ニコラスはエステラ様を指差しながら喚いているが、おいおい……なんか必死にマウント取ろうとしてるつもりかもしれないが、それって行動や発言に筋通っている状態で言わないと、益々自分が阿呆だって事を周囲に知らしめるだけだぞ……オマケにせっかく父親が
というかそんな事より、今俺の心配の種は隣にいるエステラ様に全力で向けられている。
なんせエステラ様の表情が、ニコラスの馬鹿丸出しの発言を聞けば聞くほど、どんどん険しくなっている所まではまだ良かったんだけどさ。
ついさっきのニコラスが発した言葉をエステラ様が聞いた途端、エステラ様もいい加減我慢の限界に達してしまったんだろうね。
まさに”ビギィ!”っという擬音が聞こえてもおかしくないぐらい、エステラ様の目に力が籠ったのを俺は見てしまった。
おまけその手は、ドレスの下に隠してある護身用の短刀を何時でも抜ける位置に移動している。
その二つを踏まえただけでも、今のエステラ様の心境がどうなっているのか良く分かる。ハッキリ言って今のエステラ様は、人を容赦なく殺る事が出来るスイッチが入ってしまっている状態なんだよね。
正直さ、この状況は【非常にマズい】と俺の過去の経験がさっきから訴え続けているんだよね!
(ちょっ、エステラ様、こんな公の場でスプラッターな流血沙汰だけは勘弁してくださいよ!!)
という思いを込めて、俺はチラチラとエステラ様に”ステイ”のサインを送ってみるが、もう既に
だがそんな状態になっても、まだエステラ様がニコラスに手を出していないのは、ここが公の場だから完全にスイッチを入れないように理性を働かせているからなんだと思う。
どうしてこんなことを言えるのかと言うと、実は俺がフローレス家で生活している三カ月の中で、一度だけなんだけど、フローレス家は隣国が差し向けた暗殺集団から襲撃された事があったんだよね。
もちろんその時俺は、フローレス家で唯一の非戦闘員だったため、使用人の皆様に警護されつつ屋敷内を逃げ回っていたんだけど、その際警護の隙を付いた暗殺者に俺は狙われ、危うく命を落としかけた事があったんだけど、その際俺の命を救ってくれたのはエステラ様だった。
そしてその際見てしまったエステラ様の表情は、目こそ相手の事を狂おしい物を見るような強烈な目つきで捉えているが、目以外の表情は何の感情も感じさせない無表情であり、その表情を保ったまま己の手に持った剣で敵を次々と仕留めていった。
そんなエステラ様の姿は、敵を仕留める度に顔が返り血で染まっていくのだが、その顔が血で染まって行く度に、狂気を感じさせるように思え、どうしてエステラ様に【狂剣】なんて物騒な異名が付いてしまったのか、を納得せざる負えない光景であり、その光景を直に見た物に大いに畏怖を与える姿だと感じた。
だが、そんなエステラ様の姿を見ても俺は不思議と、「この人の元から今すぐ乖離すべき」、という感情は一切湧いてこず、エステラ様がこの表情見せるという事は、”ある種の覚悟を決め、相手の命を奪う事を一切躊躇しない状態になった時だけなんだ”、と俺の中で結論付けれたのは、この三か月間エステラ様と生活を共にした中で、そう思える確かな物が俺の中にあったからなんだと思う。
我ながらたった実質三カ月ちょっという短い期間の付き合いで、エステラ様の人なりを完全に把握できているとは思っていないよ。
だけど、その短期間で馬鹿みたいに笑いあったり、お互いに意見を交換したりして有意義な時間を過ごしたりした時もあれば、言い合いから小競り合い、仕舞には喧嘩まで発展してみたりと、割と色んな表情のエステラ様を見る機会があったから、エステラ様が【狂剣】という異名を持っていようとも、【狂人】では決してない!、と言い切れる自信はある。
まずエステラ様は、俺に
それに襲撃事件が起きた次の日の事なんだけど、エステラ様に会ったら何故かエステラ様は、どこか気まずそうに俺と接していた。
そんな彼女らしくない態度が気になり過ぎて、俺は思い切ってどうしてそんな態度をとっているのかその理由をエステラ様に尋ねてみたんだけど、その際エステラ様は、「貴男にあの戦う私の姿を見られたと思ったら、何故かその後どう対応していいか分からなかった……」、と言った後、言葉に詰まる様子を見せていたんだけどさ、コレって、「自分の知られなくなかったり、見られたくない一面を親しい誰かに見られた時に見せる反応だ」、て思えたんだよね。
誰だって見せたくない自分の一部分を知られたら、「嫌われたり幻滅されないか?」、と不安になるのは、人として至極当然、当たり前の事だ!
それに暗殺集団を退けた後俺に見せたエステラ様の表情は、なんとも言えないほど悲しい表情を見せていた。
だからなんだろうね、きっと本来のエステラ様は、他の人と同じように親しい人に嫌われたくないし、不用意に人の命を奪う事を好まない普通の感性を持った人間なんだと俺は思いたい。
だからなのかね? ニコラスがエステラ様の事を『その狂暴女』と評した際、自分でも驚くぐらい怒りの感情が沸々と湧いてきてるんだよね……
社交界を淫らに荒らし回った侯爵子息は、婿入り先で意外と愛されている 本黒 求 @th753
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