一難去ってもう一難?
皇帝陛下の前に辿り着いた俺とエステラ様は、片膝を付いて姿勢を落とし、陛下に敬意を示すと陛下は、「表を上げよ」、と顔を上げるように促してきたので、俺とエステラ様はゆっくりと顔を上げる。
「「偉大なる皇帝陛下にご挨拶申し上げます」」
「本日は栄誉ある皇室主催の催しに『態々帝都から離れている地に住む』私達を招いて頂いた挙句、式も挙げていない我々の婚姻を『態々このような場』まで用意して祝って頂ける陛下の御心に対して、私も夫のリカルドも感謝の言葉しかありません」
「ああ、今私にとって家族であり、友でもあり、騎士でもある
そう笑顔で答える皇帝陛下だったが、何かその笑顔がさっきまで見せていた威厳ある表情と違って、社交の場で噂話を浮かれながら話す淑女の表情に重なって見えたからかな?
なんかどうにも「ねぇねぇ、この状況どうゆう事? ちゃんと説明しなさいよ」っとウキウキしながら質問しているように聞こえてくるのは俺の気のせい?
そしてエステラ様もエステラ様で、陛下に負けないぐらい凄く素敵な笑顔で挨拶してたのは良いんだけど、言葉の所何処に嫌みが多大に含まれている挨拶を交わしてたのは、絶対気のせいじゃないと思う。
そしてエステラ様と陛下と会話が始まって早々、俺は蚊帳の外だけど、出来れば俺はこのままこの状況を維持してもらって、俺は傍からただ眺めてる側に徹したいので、このまま会話は二人だけで是非続けてください。
そしてエステラ様、あなたやっぱり社交界苦手じゃないですよね?
これだけ皇帝陛下に堂々仕掛けられる姿を見ていると、むしろあなた社交界楽しめてる方の人間だと思うんだけど?
もしかしてこの人苦手の基準って、ちょっと世間とズレてるのかな??
「しかし強制的に婚姻を結ばせたとはいえ、たった三カ月でそこまで仲睦まじい姿を見せて現れた時は、流石の私も驚いたぞ。
なんせ当初予定していた『例の報告』が何時まで経っても入らないから、何事かと思って呼んでみれば、『ドレスを選ぶ時間より剣を学ぶ時間が欲しい』などと言っていた
相変わらず上機嫌な様子で話す陛下。
でもさ、さっき『例の報告』って陛下が口にした際、陛下が
きっとあの仕草の意図は、俺じゃなくて、
そう自分の中で結論付け、これ以上余計な事は考えない事にしよう。世の中を平穏に生きる上で、例え知ってても知らないフリした方が良い事もある、って言うぐらいだからね!
「陛下、いくら戦う事を主体としている私といえど、フローレス家の現当主として皇室主催の催しに参加するとなれば最低限の衣装は整えてきますよ」
「そうか、そうか。
しかし私が良く知る『エステラ』と、今私の前に居るエステラを比べると、私のイメージと随分違った姿をしていると、貴女が本当に『あの【狂剣】と呼ばれたエステラと同一人物なのか?』、と貴女の声を聴くまで信疑っていたぐらい、今日の貴女は美しく輝いて見えるぞ?」
「お言葉ですが陛下。
どれだけ着飾っていようと、私はあなたに忠誠を誓った騎士、エステラ・フローレスである事に間違いありません!
陛下が褒めて頂いた私の姿に、特に深い理由はございませんのでお気になさらず」
さっきから陛下は、エステラ様の事を探る(というか揶揄ってる?)ような発言に対して、エステラ様はエステラ様は避けるような言動で躱す、というやり取りが続いている。
しかし陛下からも”着飾る事にに興味がない”とか言われちゃうんぐらいだから、よっぽどエステラ様って着飾る事に無関心だったんだろうな。
一体エステラ様は俺のドレスを着る前はどんな格好して社交の場に出ていたのか、少しに気になってしまう。
「それにしても貴女が着ているドレス、コルセットを使っていないのか?、にも関わらずボディラインを美しく見せるとは、実に斬新なドレスかつ非常に凝った作りをしているな。
私も一度袖を通してみたいと思うのだが、一体何処でそんな面白い物を手に入れた?」
「このドレスに関しては、私の夫のリカルドが今日の日の為にと、
そんな一貴族が趣味で作ったような物ですから、このドレスが陛下の袖を通る事など、もっての外だと思います」
おお、さすがは女帝! 俺の拘ってる部分をアッサリ看破するとは、多くの社交の場で多くのドレスを目にしてるだけあって、相当目が肥えてらっしゃる。
出来るだけコルセット着用のラインに近いラインになるように、あえて仕上げたドレスだったんだけど、少し見ただけでこのドレスの特徴を、こうもアッサリ看破するのは流石だね。
そしてエステラ様も律儀に作った人間の事なんて明かさなくても……って、チョットマッテ!、エステラ様!!、今俺の名前堂々と陛下の前で挙げたよね?
ドレス作る際に、「何があっても俺の名前は誰に聞かれても絶対挙げないでください!」 って約束したじゃん!!
俺は内心狼狽えているんだけど、そんな俺の心境など俺の前に話を続ける二人は「知った事ではない!」というか、気にもしていない様子で会話を続ける。
「ほう、我が帝国の社交界で淫名を轟かせていたハズの男が、実はドレス作りが趣味で、なおかつ一人の女の為に心血を注ぎこのドレスを作り上げたと?
非常に興味深い話だ」
そうエステラ様に問い詰める陛下の顔は、威厳ある表情を保とうとしているが、実の所は明らかにエステラ様の話に大いに興味を持ってしまい、好奇心が駆り立てられているのが隠しきれてない一人の女性にしか見えない……
頼みますよ、エステラ様。お願いだからこれ以上陛下の好奇心を駆り立てないでください!
そして陛下がこれ以上俺に興味を持つことがないようにしてください!
「そこに関しては話すと、何時まで経っても今回の催しが開催されなくなってしまう事になりますので、別の機会にでも……っと言いたい所ですが、陛下のお言葉を無視する訳にも行きませんので、簡潔に述べさせて頂きます。
そうですね……『人とは実際に関わらない事には、その人の本質は計り知る事が出来ない』っと言う言葉の本質を、私は陛下が送ってくれたこの男を通して初めて実感し、より深く言葉の意味を知ることが出来ました。
ですからこの婚姻に関しては、どのような思惑があったにしても、心から陛下に感謝しています」
「そうか……フフフ、まぁ可愛い義妹がそう言うのであれば、今の所はこれ以上何も聞かないでおこう。
きょ・う・の・と・こ・ろはだが」
そう言った陛下の表情は、なんかもの凄く良い事を思い付いたと言わんばかりに、あくどい笑みを浮かべているような気がしたので、何かもの凄い悪寒が走った。
そしてそんな表情を見せるという事は、陛下は俺達の事にさっき以上に興味を持ってしまっている!
この状況が何か”マズい”と思った俺は、隣に居るエステラ様の顔にチラリと視線をやると、どうやらエステラ様も俺に近い心境のようで、先程の目が笑ってない表情から一変。
明らかに焦りの見える表情をみせている。
このままお互いこの場に居る事は”絶対マズい”と本能的に悟った俺とエステラ様は、一瞬目を合わせると、特に事前に取り決めていた訳でもないのだが、陛下に二人揃って頭を下げた後、陛下の前からスッと下がる。
そんな俺達を様子を見送る陛下のお顔は、笑顔なんだけど何というか、とてもいい事を思い付いたと言わんばかりの黒い笑みが浮かんでいるように見えるので、出来るだけその視線から早く逃れるルートで俺とエステラ様は陛下の元から退却すると、俺とエステラ様は他の貴族達が集っている広間に紛れ込む。
そして広間に紛れ込んで陛下の視線から外れる事は出来たのだが、どうにも先程のエステラ様と陛下のやり取りを聞いていたこの会場の者達は、益々俺とエステラ様の関係に興味を持ってしまったようで、さっき陛下の元に向かう最中より明らかに興味深々の様子で俺とエステラ様に視線を送っている。
(ちょっと待って!、どうしてこんな事になった!?)
元々ある程度注目される覚悟でこの場に居るんだけどさ、会場に入ってから更に注目を浴びるようになるなんて全く予期してなかったから、そう思わずにいられない。
というか原因は誰に聞かずとも分かり切っているので、俺はこの状況を悪化させた元凶にエステラ様に恨めしい視線を送ってみるが、そんな視線など多くの戦場を駆け抜けている百戦錬磨のエステラ様に通用するハズもなく、エステラ様は何てことなさそうだ……というか、どっちかというな機嫌が良さそうな様子を見せているんだけど、どうゆう事?
ナンカナットクイカナイ……
「ん?、そんな恨めしそうな視線で私を見てくるなんてどうしたのかしら?
もしかして私が、『このドレスを仕立てたのがリカルドだ』って陛下の前で公言したからふてくされているのかしら?」
俺は無言でコクリと頷いた後。
「ついでに言うと、俺との約束を反故にしてますけどね!」
っとハッキリ言ってやった。
「そこに関しては、陛下から聞かれた以上答えない訳にいかないのだから、悪いとは思ってはいるけど仕方がないじゃない。
それにあなたがこのドレスを作った事を公言した事なら問題にならないわ。
あなたは知らないかも知れないけど、あなたが作った物って既に帝都の商人から目を付けられているのよ。
そう考えたら、どうせあなたが女性物を作っているという事はいつか世間に知れ渡るんでしょうから、だったら【狂剣】と呼ばれて世間から畏怖されている私の『専属デザイナー』ってハッキリ公言してやった方が、あなたに『何か作ってくれ』なんて依頼してくる事が減ると思わない?」
そう……なのかな?、そうなるのか??、まぁそれなら大丈夫、大丈夫???
何か腑に落ちないけど、エステラ様がそう言うのであれば、そうなんだろう……たぶん
何とも言えない心境かつ、なんか不安が募る状況だが、確かに俺とエステラ様を好奇の目で周囲は見ても、誰一人話しかけようとしない状況を考えると、案外エステラ様の言う事は正しいのかもしれない。
そう思うといくらか不安が和らいできたので、少し心が落ち着いてきた
「兄さん!、久しぶりだね」
やっと少しは心が落ち着けると思った所に、久しぶりだけど全く聞きたいと思ってない声が聞こえて来たのでその方向に目をやると、やはりそこに居たのは、俺の弟であり俺が今こんな目に遭ってる元凶である男、ニコラス。
あいつが笑顔で俺達の元に寄ってくる姿が目に入った。
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