第3話 サユリちゃん

私には月1ペースで一緒に遊びに出かけるサユリちゃんという友人がいる。


サユリちゃんは私より年齢が一つ上の社会人になってから仲良くなった友人だ。穏やかで優しくて菩薩のような子なのだが気を使いすぎたり大人しすぎるところがあって恋愛はうまくいってないらしい。こういう子が奥さんだったらいいのにな選手権では入賞しそうなほどいい子なのにな。


2人でご飯を食べに行った帰り道、散歩をしているとちっちゃい虫の大群がいた。


「サユリちゃん、気をつけて。そこちっちゃい虫の大群がいる。」

「ほんまや。危ない危ない。」

「あっ!あっちにも!あそこにも!うわ、いっぱいや!ちっちゃい虫の大群だらけやぁ!」


道の至る所にちっちゃい虫の大群を発見して私は何だか楽しくなって笑ってしまっていた。サユリちゃんも「ほんまやぁ~!」と言いながら笑ってくれている。2人でケラケラ笑いながらちっちゃい虫の大群を避けて走った。傍から見たら馬鹿みたいなことでもサユリちゃんは一緒に笑ってくれる。サユリちゃんといるとちっちゃなことで笑い合う瞬間が多くて楽しい。


「ねぇねぇ、サユリちゃん。男の人はな虫の大群でこんなに笑えへんねんで。」

「え、そうなん!」

「そうやで。私に虫の大群めっちゃおるー!って言ってみて。私男の人役するから。」

「虫の大群めっちゃおるー!」

「あ、うん。…こんな感じでまたしょーもないこと言ってる、みたいな呆れた顔されるだけやねん。」

「それは嫌やなぁ。」

「だからサユリちゃんとおる方が楽しいかもしれん。」

「ほんまやな。」


サユリちゃんは私の方を見て微笑んでいる。丁度私は彼氏との関係がうまくいっておらず別れを告げるかどうかを悩んでいた。いや、答えは決まっていたのに踏ん切りがつかないでいただけだ。でももう決めた。


 2人で電車に乗ると向い合せになる席が空いていたので私たちはそこに座った。その時にサユリちゃんの頭にちっちゃい虫が乗っているのを発見した。


「あ、サユリちゃんの頭にさっきのちっちゃい虫乗ってる。」

「え!とってぇ。」

「うん、ちょっと待ってな。……とれた!」


ちっちゃい虫はまだ元気だった。指に乗せると登って来ようと足をちょこちょこする。ちっちゃすぎて殆ど足を動かされている感覚もない。「かわいー。な!」とサユリちゃんの方を見ると「虫はかわいくないけどな。」と辛辣なことを言いながらも菩薩のような顔で笑っている。


ずっと指に乗せておくわけにもいかないので電車の窓枠のところにちっちゃい虫を乗せて私たちは暫くその様子を見ていた。


次に停車した駅でおばあさんが入ってきた。そして私たちの向かいの席に腰を降ろそうとしてふらつき、窓枠に手をついた。


―あ。


おばあさんは席に座ると目を瞑ってしまった。窓枠の方にはちっちゃい虫がいない。サユリちゃんの方を見るとなんとも言えない顔をしていた。お悔やみ申し上げますの顔にも見えるし笑うのをこらえている顔にも見えた。

 

おばあさんの手がどうなっているのか気になったがサユリちゃんも私も何も言えないまま私が降りる駅に着いた。私はサユリちゃんをそこに残すことを申し訳ないと思いながらも「バイバイ」と手を振るとサユリちゃんはやはりお悔やみ申し上げますの顔にも見えるし笑うのをこらえている顔にも見える顔で「バイバイ」と言った。












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ちっちゃい虫と私 ぬっこ @kaerunotamago

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