第2話 虫の知らせ
「こいつとご飯とか一緒に行ったってくれへん?」
知り合いが主催しているサークル活動の帰り道、その主催者の後輩であるタイチさんとご飯に行くことを勧められた。今日初めてサークル活動に参加したタイチさんは一人でいることが多かったので私も気にして度々声をかけていた。
「はい、いいですよ。行きましょ!」
好意を持ってもらえたりご飯に行きたいと思ってもらえたりすることはとても嬉しい。
当日、駅で待っていると警察のマークみたいなロゴが真ん中に大きくプリントされたTシャツを着たタイチさんが現れた。
―警察の
タイチさんは警察の偽物の格好をしながら予約をしておいてくれたお店に案内してくれた。すぐに席に案内されて対面で座るとタイチさんは緊張していたのか用意されたお冷をガブガブと飲んだ。私は彼の緊張を解そうと共通の知り合いの話題を持ち出したりサークルの話を持ち出したりしたが不発に終わった。そういう話をしたいんじゃないらしい。
「どんなタイプの男が好きなの?」とか「何フェチ?」とか、私のそういう話を聞きたいらしい。なるほど。彼から次々と出てくる質問に答えていると途中で彼の指の爪がかなりの深爪であることに気づいた。どうしても気になってしまう。
「ねぇねぇ、ごめんね。ちょっと話それるけどさ爪どうしたん?めっちゃ深爪…痛そう。」
「あぁ、これね。俺潔癖でさ、仕事柄子どもたちと関わるんやけど子どもってやっぱり汚いからさ、石鹸で手洗うだけじゃ菌は取れんから毎日爪切ってたらこんなかんじになった。」
―なるほど…。ちょっと怖い理由だな。
少し会話に間が空いた。その時、ちっちゃい虫が私の周りをぐるりと一周飛んで私の指に止まった。かわいい。かわいいけどさ、今はタイミング的にあんまりよろしくないな。あ、彼もめっちゃ見てる…。私は指に乗ったちっちゃい虫を箸袋の上に移してテーブルの上にそおっと置いた。するとちっちゃい虫はちっちゃい足をちょこちょこと動かしてテーブルの上を歩き出した。
「そういえば潔癖なんだよね?料理おんなじお箸でとっちゃってたけど嫌やったかな?」
「本来はね…でも大丈夫。シェアする人にもよるけど。」
そんな会話をしているうちにちっちゃい虫は彼の近くに移動していた。
「あ、ちっちゃい虫そっちまで移動してる!かわい…」
次の瞬間、彼は手のひらでちっちゃい虫を殺していた。
「潰した。」
彼は冷たい顔でそう言うとおしぼりで手のひらを拭った。まさか殺されるなんて…。私の中で警告が鳴った。この人といると良くないことが起きるぞと。
このことを周りに話すと大抵「そいつ悪くなくない?」って言われる。「おかしいのはあんたの方やで。」と。いや、そうなんだけどそうじゃない。紹介してくれた知り合いには悪いが今後彼と2人でご飯に行くことはないとちっちゃい虫に誓った。
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