第2話

私は〇〇。


「どこかに飯はねえかなあ・・・。」


まともな食事を3日はとっていない。

食事がそんな感じだから、風呂だって満足に入れない。


「まあ、風呂は小さい時から嫌いだったから別にいいか。」


見た目も悪く、辛気臭いとか、不吉だと罵られてきた。

眼がぎょろっとしているから、誰も目を合わせてくれない。


何度も人生に絶望したこともあった。なぜ俺は生まれたのだろうと。


しかしそれでも生きている。


それには理由がある。


家族がいるからだ。


こんな俺でも愛してくれる妻がいる。

家を守ってくれている。


子どもも生まれた。双子だった。


妻の実家は大家族で、妻はなんと四つ子で生まれてきた。


生活が苦しいから内心、双子で安心したが、妻は少し残念そうだった。


そんな妻と生まれたばかりの双子を養うために俺は飯を探す。


一度は大工をやってみた。

仲間の家を協力して作ったこともあった。


しかし、生活はみんな、よくはなかった。


裕福なやつらが都市を広げ、貧しい俺たちを追いやっていった。


仕事はどんどんなくなっていった。


だから飯を探して生きていくしかない。



俺は○○だ。


「親が生きていればなあ。もう少し楽だったかもしれないのに。」


俺は物心ついたときには、親父と2人で生活していた。


母は流行り病で俺を生んですぐに死んでしまったらしい。


俺にも兄弟がいたそうだが、同じく病で死んでしまったそうだ。


親父はいつも口数が少なかった。物静かだった。

まともな教育もしてくれなかった。


唯一、俺に教えてくれたのは、困ったら公園で水が飲めるということだった。


そんなことしか教えてくれなかった親父は、ある日、飯を探してくると言ったきり、帰ってこなかった。


後で知ったが、俺たちの世界ではよくあることらしい。

飯を探しにいって、仲間同士で取り合いになったり、別のやつらと喧嘩してけがをしたりする。


貧しいから病院なんていけない。傷が原因で死ぬことも多い。


親父がどうなったかは分からない。しかし、戻ってこなかったのは事実だ。


それから俺は一人で生きてきた。



俺は○○だ。


飯を探して途方にくれていると、遠くから声が聞こえてきた。


「おーい!飯があるぞ!!」

一瞬で分かる。俺たちの仲間にだけ伝わる言葉だ。


俺たち以外にも飯を探しているやつはいる。そいつらに分からないように話す暗号みたいな言葉だ。


「俺も仲間に入れてもらえるといいけどなあ。」


みんな貧しい。飯を見つけても足りないことの方が多い。

そういう時はよく喧嘩が起こる。


喧嘩でケガをしたら死ぬかもしれない。


そんなことは腹を空かせて待っている妻と子どもたちのためにも避けなければならない。


「とりあえず遠くから見てみるか」

声のする方へ近づいていった。


「コラー!!何してんじゃあ!!!」

「くそっ!もう少しだったのに!!」


裕福なやつらに追い回されている仲間たちがいた。

確かに飯がたくさんある。肉もあった。


「美味そう・・・。」


肉なんてめったに見られない

あの肉を持って帰れば妻はなんて喜ぶか。

子どもたちはどんな表情になってくれるのか。

俺は仲間たちと裕福なやつらの動きを眺めていた。


チャンスはないだろうか。

仲間の一人が裕福なやつらに向けてフンを落とした。


裕福なやつらはさらに叫んで怒っている。



そう。私はカラスだ。

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私は〇〇。 @takashi1224

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