私は〇〇。

@takashi1224

第1話

私は〇〇。


「最近の若いやつらの態度がムカつくぜ。先輩たちへの礼儀がなってねえ。」

「ああ。でも、若いやつらはよく働くからなあ。」

「何言ってんだ。よく働くからって、俺たちがこの業界を引っ張ってきたんだろ?俺たちあっての若いやつらだ。」

「でもよう、この業界、5年もすると古いと言われる。そろそろ転職も考えるべきかもな。」


転職。近頃はそこまで敷居の高いものではなくなった。

様々な転職サイトなどがあふれ、大卒3年以内に3割以上の人が転職する時代だ。


特に俺たちの業界では、最近では3年以内で転職することが一般的になってきた。

その理由の一つは労働環境の変化だ。


仕事の量は増加する一方で、1週間一度も休まないことも多い。

オーナーの要望に合わせて、俺たちの労働時間は変化する。


さらに空調の効いている職場だけではない。

真夏であっても、外回りをさせられる。わずかな木陰でも、熱くなった体は冷えない。


この夏は、暑さで倒れたやつを何人も見てきた。


「こんな労働環境になったのも、若いやつらがオーナーの言うこと何でも聞いてしまうからだ!」

「オーナーも俺たちみたいな古参の融通が利かないやつより、何でもすぐやる若手優先になっているよな。」


俺たちが採用されたころは一度採用されたらオーナーもずっと雇ってくれる業界風土だった。

だから俺たちも体がボロボロになっても働き続けた。これがずっと続くと思っていた。


それが最近では、オーナーの方も新人採用を強化して、俺たちは少しずつ窓際に追いやられている。


「俺なんて、採用されたころはめちゃくちゃ使えるやつだ!!ってオーナーに喜ばれたのに。忙しかったが、やりがいもあった。必要とされていた。それがすべて若いやつらに持っていかれた!」


俺と同期のこいつは確かに能力が高かった。

採用当時ではエリートだったし、計算スピード、電話対応も業界でトップクラスだった。


何より、それまでの業界にいたやつより見た目がスマートだった。

かっこよかった。


どうしてこんなに変わってしまったのか。

俺たちが悪いのか。

新人たちが悪いのか。


業界や世の中が悪いのか。



俺たちは○○だ。


熱くなってきた同期は少し冷静になって話し始めた。

「でも俺たちの転職先なんてあるのか?どこにいっても新人が優先されるだけだぜ?」


もう業界では必要とされない。

それを運命と思って残りの人生を細々と生きていくしかないのだろうか。


「でも待てよ?チャンスはあるかもしれないな。」

この同期は熱くなることもあるが、やはり入社当時のスマートさはまだまだ欠けていない。

冷静になるといいアイデアがたくさん出てくる。


こいつのアイデアのおかげで、俺たちは活躍できた。


たとえば、メールを担当する部署と電話を担当する部署がバラバラという、今思うと謎としか思えない業務を統合した。


そんな些細な改革から始まり、業界で名声を高めていった。


俺たちの活躍を聞きつけた様々な会社が製品を提供してきた。

俺たちはその製品を導入し、さらにオーナーの期待に応えた。


オーナーが望めば、適切な製品を取り寄せて、健康管理も面白い映画もためになる教育だってアドバイスしてきた。

買い物だってアドバイスできるようになった。オーナーからはとても感謝された。


俺たちの存在で、オーナーが喜び、製品を提供する会社も盛り上がった。

かっこよくいうと、俺たちは世の中を変えたんだ。


そんな歴史に残るような功績を持つ同期が冷静に話し始めた。


「若いやつらは毎年少しずつ変わってきていて、オーナーも関心が高い。しかしよく見れば大した変化はない。俺たちの業界でほんとに大切な力は変わっていないんだ。」


確かに。俺たちの業界で求められていることはいつでも働けて、オーナーが知りたいことをアドバイスすればいいだけだ。


業界の歴史を見ると、俺たちの世代の前は、電話対応ができればよかった。

メールができたら感動されるような時代もあったという。


それが今ではオーナーのためにアドバイスをし、電話やメールをこなすようになった。


でも考えれば、それが最低限の業務だ。


新人たちは、多少計算スピードが速くなったくらいで俺たちと結局は変わりはない。

高性能のカメラを持ち歩く新人を見て、「何、洒落ていやがる。」と鼻で笑って見過ごすくらいだ。


俺たちが持つカメラでも十分すぎる。


「多少安い給料になるかもしれないが、やりがいのある職場に転職もありだな。」

最初の怒りはどこにいったか、同機は冷静に業界を分析し、俺の提案を自分のものにし始めた。


「そうだな。動きだすか。」


転職先で幸せになれるとは限らない。

業界の変化も著しい。


若手も日々レベルアップしてくる。


自分の強みを見つけて、生き残る道を模索し続けよう。

本当にボロボロになって、電源が入らなくなるその日まで。



そう。私はスマホだ。

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