百物語 第三話 ただいま母ちゃん
「ただいまー」
5年ぶりに実家に帰った。親父は俺が10歳の時に死んじまった。事故死だったって言ってた。死んだ後、顔も合わせてもらえず、火葬を見送ることすら出来なかった。そんな中、1番辛いはずの母ちゃんは、嫌な顔せず、女手一つで育ててくれた。そんな俺は喧嘩しちゃったんだ。ほんの些細なことで。そのまま俺は家を飛び出して、一人で暮らし始めたんだよな。
1人で暮らし始めて5年、会いに行ってみようって思ったんだ。玄関に入ると、すごく胸が締め付けられた。
「、、硫黄くせぇ」
母ちゃん、体悪いのかな。
居間に入ると、懐かしい背中があった。
「母ちゃん」
呼ぶと、すごく驚いた顔で、泣きそうな顔で、嬉しそうな顔で見合った。
「ケンちゃん、、」
抱きしめたその体は冷たかった。でもとても心が温かくなった。
「あんた、急に出てくもんだから、今日驚いたよ」
「そうだよな。母ちゃん、俺、おれ、ごめん、なんも言わずに出てって、」
「いいんだよ。帰ってきてくれたじゃないか。あまり気にしいだとろくに彼女もいないんじゃないのかい?」
「そうだよ、悪いかよ、」
「ああ、悪いさ。あたしは孫が見たかったのにね。」
「そうだな、、」
涙が溢れてきた。緊張が解けたんだろう。涙が止まらない。
「なんか食べるかい?」
「うん、腹減った」
ご飯と、味噌汁と、煮物と、漬物。前までもっとジャンキーだった気がするんだけど。でも、お袋の味はいつでも美味い。懐かしい母ちゃんの味だった。
「ご飯食べたんなら手伝いな。トイレの電球替えて、ついでにトイレ洗うのも頼むよ。」
「はいはい、わかったよ」
「お風呂もお願いね〜」
そう言ってトイレ、風呂洗い、電球交換を全て済ませたと同時に母ちゃんも帰ってきた
「おかえり」
「ただいま」
「母ちゃん、今日は外に食べに行くか」
「あら、どこに連れてってくれるのかしら」
「ファミレスでいいだろ?行くよ」
母ちゃんを車に乗せて、近くのファミレスに行く。
「ご注文お伺いします」
「ハンバーグセット2つと赤ワイン2つお願いします」
「ハンバーグセット2つ、と、赤ワイン2つでよろしかったでしょうか」
「はい。お願いします」
しばらくしてハンバーグセットとワインが運ばれた。しかし、両方俺の目の前に置かれ、少し困惑してしまった。
「母ちゃんは食わないと思われたのかな」
「なんでもいいさ。運ばれてきたんだし、食べましょ」
さっさと食って会計を済ませて家に帰った。
「顔も見れたし、帰るよ。1人で大丈夫?また来月愛に来るからね」
「もう、会いに来なくてもいいよ。」
その言葉を聞いた瞬間、何かがふっと消えた。「わかった。じゃあね母ちゃん」
何かが消えた感覚は家を出るまで続いた。
「会いに来てくれてありがとう」
その言葉を聞いた瞬間はっと我に帰り、家の方へ振り返った。家は廃れ、外壁もボロボロ、扉も付いてはいなかった。何があったか分からず、唖然としていると、家が崩れてぺしゃんこに潰れてしまった。
「母ちゃん!!」
慌てて崩れた家の瓦礫をかき分け、母ちゃんを探した。
人骨があった。
母ちゃんの髪飾り
母ちゃんの服
テレビに体を向け、座っていたであろう遺体が
ずっと俺の事を待っていたんだろうな。硫黄の匂いもきっと体が腐敗してたんだろう。ごめんな、母ちゃん。待っててくれてありがとう。
俺は母ちゃんの髪飾りを持って、家に帰った。
短編集 百物語 空想自世界 @hinshi
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