第六話 お祭り騒ぎの町・再

ごおん、ごおんと鐘の音が鳴り響く。鐘の音はきっかり5回。

散らばった図面はパーツを元通りに片付け、鞄を抱えて塔を降りると、そこには市長が待ち構えていた。

「ハロルド!ゴードン親方はどうした!」

「ハルっす。あー、えっと、その、……今師匠はちょっと手が空いてなくて……」

昼と全く同じ答えを返すと、市長は眉を吊り上げて手に持った杖を打ち鳴らす。

「じゃ何だね!君が修理したというのかね!?」

「ああ、えっと……ハイ」

今更隠し立てのしようもない。正直に答えるが、この後の展開は予想ができる。

「この一大事に、重要な仕事を見習いに任せるとは何事だ!!ハロルド!ゴードンには覚悟しておくように伝えておけ!!」

「ですよねー……」

ハルの返事を待つ間もなく、市長は肩を怒らせて街へと戻っていく。

あの様子では明日にでもまた工房に突撃してくるだろう。そう思いつつ市長の背中を見送っていると、市長は急に振り返り。

「ハロルド!親方はともかく、良くやった!!」

それだけ言うと、今度こそ本当に街へと戻っていった。

「え、褒め、られた??」

市長といえば短気で気難しく、下手に扱えばすぐに沸騰するそれこそ蒸気機関のような人物だ。そんな人物が自分を認めるようなことを言った。

「はは……信じらんね」

言って、ハルもまた街へと帰る。ともかく工房に戻り、ゴードンに報告をする必要がある。

街はすでに日が落ち、ランプの明かりが煌々と街並みを彩っている。

あちこちから響き渡る蒸気機関の駆動音に勢いよく吹き上がる蒸気の音。そこかしこを元気に走り回る子供の姿に、商店から飛び交う威勢のいい声。

ハルはお祭り騒ぎのような街を踊るような足取りで工房へ急ぐ。疲れているが、いい気分だった。

職人街へ着くとブルーノをはじめ、顔見知りの職人たちがハルを迎え入れ労ってくれた。

「よくやった」

「まさか本当にお前さんだけで直しちまうなんて」

「やったな!」

口々に賞賛を投げかけてくれるのをハルは苦笑いと共に受け取った。

(でかいやらかししちまったなんて、口が裂けても言えない……)

そんな内心の言葉を飲み込んで。

そんな職人たちをかき分けて、ようやくハルは工房にたどり着いた。

すう、と大きく息を吸い込む。

「師匠ぉー!戻りましたー!!」

ごんごんと工房の扉をたたき、幾分か誇らしげに声をかけると、ハルは工房の扉を開いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クロックワーク・タウン 篠宮空穂 @lyudmilla

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ