食べ物+〇〇の短編集

わきゅう

第1話 『イワシが空を飛ぶ夜の、捌いたなめろう食う時に』

 ポン、ポン、ポン……。

 古びた蒸気のお船は往くよ。

 広くて静かで、暗ぁい海を。

 ポン、ポン、ポン……。


 タン、タン、タン……。

 お船のじぃじはイワシをたたくよ。

 おネギに生姜、お味噌も混ぜて。

 タン、タン、タン……。


「じぃじ、じぃじ。お空、お空見て。雲が無くなっとるよ」


 可愛い孫の呼ぶ声に。

 じぃじはお空を見上げたよ。

 キラ、キラ、キラ……。


「じぃじ、イワシがお空を飛んどるよ」


 キラ、キラと。

 夜のお空に光が走るよ。

 いっぱい、いっぱい。たくさん走るよ。


「おー。もう星降りの時期じゃなー」


「じぃじ、ほしふりってなんじゃ。イワシのことか?」


 タン、タン、タン……。

 ギラギラ包丁、なめろうたたくよ。

 タン、タン、タン……。


「ありゃあ、イワシじゃねぇ。星だ」


「ほし? ほしってお空でキラキラしとるお星様か? なんで、あんなに降ってくるんじゃ?」


 タン、タン、タン……。

 じぃじはなんにも答えないよ。

 タン、タン、タンッ。


「ほれ、できたぞ。腹ぁ減ったろ、早く食おう」


「わーい!」


 むかぁし、むかし。

 この星に、ヒトという虫が居たころに。

 色んなものを壊して、壊して。

 自分の住む星も、近くの星も。たくさんたくさん、何もかも。


 そうして、最後に残ったものは。


 広くて静かで、暗い海。

 イワシという名の、奇形の魚。

 星を覆う、濁った雲。

 そして。


 むかぁし、むかしに星だった

 ぐちゃぐちゃになった生命の源。


 ポン、ポン、ポン……。

 古びた蒸気のお船は往くよ。

 じぃじと孫を、背中に乗せて。

 どこまでも続く、暗ぁい海を。

 ポン、ポン、ポン……。

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