第8話 自由への渇望 神への祈り

!?

・・・ッ!!

なんで俺に向かって口を聞いてるんだ!

オラッ、オラッ、オラァッ!!


所詮、異種族の奴隷だ。

獣の耳が、四足歩行で大地を駆けずり回る動物と同じように、目の上つまり超頭部から三角形に飛び出していた。


己の性欲を保てない異常者たちが、己の欲望を人間の代替として動物によって果す習慣が、結婚もできない貧民の間で文化として密かに定着していた。

そして、長年にわたる人と獣の生殖行動によって、染色体に異常をきたし、『孕む』個体が現れることがあった。


性交渉・・・?

いや、獣姦による交尾によって生み出された、人間か、動物かも曖昧な新たに派生した亜種であった。


その見た目にも異常な生命体を、可愛いとする者も現れたが、意外にもそれは金持ちが多かった。


意思の疎通が可能なペットは、奴隷として取り扱われている。

だが、その飼い主は亜種の誕生のルーツを知っていて、あえてそれを買っているのだ。

性欲の強い遺伝子をもった亜種を、昼夜を問わず犯し、また犯させて楽しんでいる。

その子供たちが、再び亜種の形を取るか、人間の形を取るか、亜種と動物の掛け合わせで魔物 と呼ばれる生命となるかは、生まれてみなければわからなかった。

亜種は亜種同士でパートナーになることが多かった。

多産の亜種であったが、金持ちに買われた亜種と人間の子供を見かけることはなかった。

そのことで、世間体を気にする人間によって、殺処分がなされていたことが分かる。

人間という種族を保存する意味で、我が子でもある亜種と人間の間の生命を殺す行為は、正義であるとされていた。


しかし、亜種と動物の子は、森の奥で自然と産み落とされ、知らぬ間に世代を重ね、様々な形の知能を持った魔物へと変貌していった。

そんな魔物の種のような亜人を、通常の人間は可愛いとは思わない。

蔑む対象として、重労働に従事させ、己の欲望の開け口として叩き罵り、時に姦していた。


そんな下等な生物が、俺たちと一緒の馬車に乗ってもいいか? と問いかけてきたのだ。

こいつは俺の奴隷ではないが、この異様な姿をした生物と話していることが、世間に見られるのも嫌であったし、ましてや同じ車に乗り同じ空気を共有しているなどと思われるのは耐えられなかった。


問いかけてきたのは、肉感的でスラリとしなやかに伸びた手足を、魅惑的に動かすメスの亜人であった。

能動的な山猫の要素を持った美しい顔の亜人であった。

亜人はサカリのついた野良猫のように、無意識にあたりに強烈な色香を撒き散らしているようであった。

俺も仲間の股間も、こいつを見るだけで独りでに固くそそり立ってきていた。

馬車の中に引きずり込んで、思う様に皆でいたぶりたい。

乳房も八つもあるのだ。

皆で、子供のように戯れ、生命の生まれ落ちる部位に、己の肉体と生命の源を逆流させてやりたかった。


しかし、こんな街中で話しかけられ、同じ馬車に乗るのは、世間体を重んじる人間として恥でしかない。

俺は、馬車のドアを開けて、問いかけた亜人の顔面を蹴り飛ばした。


「ギャッ!」と叫び声を上げて、亜人の猫女が地面に転がっていた。


「あはははは〜っ」

「薄汚い亜人は、泥まみれがお似合いなんだよ! 」


「これは私の従者だ! 乱暴は許さんぞ!! 」

傍らにいた主人が、俺に向かって叫んだ。


「あぁ? 夜な夜なこいつを抱いている変態か? 」

「フンッ! 気色の悪いおっさんだな。」

「人間の女に相手にされなかったのか?」

俺は下げずむように吐き捨てて、親指で荷台を指さした。


「おい!じいさん。 お前も気持ちが悪いから同罪だ。」

「 馬車には乗せられないが、荷台なら乗せてやってもいいぞ!」

公共の馬車を我が物のように扱い、二人を無理やり雨の降る荷台に乗せた。


他の乗客はいなかった。

もしいたとしても、難癖をつけて絶対に乗せるつもりはなかった。

隣国との境にある、砦のついた城塞都市へと向かう長い旅路だった。

山を越え、谷をくぐり、鬱蒼とした森を抜ける。

荷台には冷たい雨に濡れる従者と男が、普段からそうしているように、お互いの身体を寄せ合い温め合っている。

もはや、夫婦とも言えるようなお互いへの信頼と愛情が見て取れた。


俺たちは、周到に御者に金を掴ませておく。

すでに前例があるのか、御者は俺たちの目論見を、すべて把握しているようであった。

実に手慣れたものであった。

森と谷の入り組んだ、道から少し外れた場所に入って御者は馬車を停めた。

岩陰にはくぼみがあり、雨はすでに止んでいたが、風雨が防げるような地形だった。


今夜はここで野営を行うのかもしれないと思わせるように、馬車はゆっくりと停まった。

俺を含めた四人の男たちが、馬車の中からバラバラと降り荷台の二人を引きずり下ろした。


「男は殺せ!」

「亜人は裸に剥いてしまえ!」


「ぎゃはははは〜っ」

男の腕が女の衣類を引き千切っていた。


「お前ら亜人は淫乱だからな!?」

「こんなおっさんよりも、俺たちがもっと気持ちよくさせてやるよ〜ぅ!」


愛する妻を必死で守ろうとしていた中年の男の血飛沫が、亜人のメスの体毛の無い顔と、身体にパッと飛び散り、じんわりと皮膚の全体に広がっていく。


「ぎゃぁあッ!!」

まるで自分が殺されたかのように、叫んだ大きく開いた口の中に、顔面にかかった夫の血飛沫が集まり、頬を滴りながらその中に入っていく。


「はっはは〜!! いいなぁ!」

「こういう感じが興奮するんだよなぁ!!」


「あ〜っ、 締まる!!」


亜人のフェロモンは、自身では加減ができないのか、俺たちは果てても果てても飽きることなく、亜人の穴という穴の中を人間の体液で満たしていった。


明け方に、さすがにぐったりとした俺たちと、もはや身動きもとれず、何の抵抗もできない程にビクビクと全身を痙攣させている亜人のメスが狂乱の末に岩場に倒れ込んでいた。

そんな俺達の、強引な遊興を見かねた御者が、大人の作法を教え込むかのように、ねっとりと、へたり込んだ亜人を数度犯した。


朝日が昇り、馬車に乗り込んだ俺たちは、主人の死骸を抱きしめる女を見て、たまらずにもう一度犯した。


完全に満足した俺たちは、亜人の顔面を無造作に殴り飛ばした。


「お前みたいな化け物は、森の中の方がお似合いなんだよ!!」

そう言い放って、全員で殴り、蹴った。

俺達は、殴り疲れて馬車に乗り込んだ。


「さぁ、行こうぜ!」

朝日に向かって進んでいく馬車を、手足を折られた亜人のメスが、恨めしそうに見つめていた。


夫の死肉を喰らい、亜人は、より人間に近い形状の亜種を産み落とした。

猫のように多産であった。

知能は母よりも高かったが、亜人の欲望のタガは外れたままであった。

オスは手近な動物を犯し、メスは強力なフェロモンを撒き散らし、森の強者を求めていく。

すでに骨の折れた母親は、全く動かない死体へと変わっていたが、子どもの知能へと人間への憎しみを覚え込ませていた。


子は子を生み、動物は亜種を生む。

血が混じり合い、憎しみは、濃く強く思念として残っていく。


この森の中には、そのような群れがいくつも存在していた。

群れはお互いに集まり、また、離れては群れあって、お互いの情報を遺伝子の中に組み込んでいった。

森の中の小さな群れは集落を作り、それを支配するより強い亜人、いや、魔物が集落を合わせて村を作り町を作っていく。


城塞都市を含めた王国は、人間にとっては一つの国であったが、その中の森に、亜人の小国が出来上がっていた。


魔物の森。

そう恐れられる森は、通行するのに屈強な兵士が護衛していたとしても、通過することが徐々に難しくなっていった。

そして、城塞都市が魔物によって落とされた。


深い森は、月日と共にさらに深くなり、もはや人間を寄せ付けない。

砦に住み着いた魔物は、新たな魔物と混じり合い、より強くなっていった。


『 竜王 』

いつからか、そう呼ばれる魔物の王の姿に、我々は怯え恐怖している。


バサバサッ!!

なんでもない鳥の羽音にさえ、我々は怯えて暮らさねばならなかった。

そんな抑圧された街の中で、魔物への憂さを晴らすように、オスの亜人は殺され、メスの亜人は虐げられ、犯されていく。

交配が進み、多産でいくらでも孕むメスの亜人は、昔と違いより人間に近い姿の亜人を生み出していた。

亜人の痕跡の、耳や尻尾の無い個体さえも生まれてきていた。

そんな、同族のような姿をした亜人を殺処分できずに、城の外へと逃がす事例も頻発していた。

より高い知能が、城外で魔物と混じり合い、その姿を亜人へと戻し、さらに魔物へと変えていく。

ますます賢さを得た魔物が、新たな『 竜王 』となった。



今、世界に平和をもたらすために、脈々と遺伝子に色濃く刻まれた人間への不信と憎悪が、激しく王国の空を暗く覆い尽くしていた。

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