@niwatori_chicken

烈風吠え狂い苛烈極まる所を知らず、粉塵舞えば忽ち全ての方位に於いて人間の視界は無くなる。しかしその只中を、この武士は長く直立不動のようである。彼の右にある巨岩さえこの風圧に震え、既に数寸は動いたものと見える。眼前の広大な荒野は今、その上を暴風が覆い尽くし、強靭な力を振るっていた。だがその只中を、彼は微動だにしなかった。只管風を受けながら、彼の全身は自然の猛威を静かに受け取っていたのである。


重い空気は冷ややかに鋭い刃の如く彼の肌を掠める。彼の着る布は大きくうなり、彼の髪もまた暴れていたが、彼の心中は冷静沈着、嵐に対する恐れは微塵も見いだせぬ、まさに平静の境地であった。


彼は少しずつ足を前方へ進めた。地面へ食い入るように足を確実に踏みしめて、強烈な風に抗うことのできる存在は今ここにあった。空中を席巻する砂粒が彼の視界を奪い、突風が度々彼の全身を激しく打つ程に、また彼の集中力は研ぎ澄まされていった。恰も風一つ一つの所在を探るが如く、彼の身体全体は今風と一体となる。風各々の詳細な動きが手に取るように分かる。そして彼は発見した。その波動は実の所数種類のリズムのみで構成されていたのである。


やがて、彼は剣を静かに抜いた。濃い粉塵の中、銀に光る刃から一筋の光が走った。その一挙一動には一切の無駄も見出せない。


「今。」


彼は刹那に見抜いた隙を捉え、素早く剣を振り抜いた。すると鋭い一閃が空間を切り裂き、風そのものが切断された。周囲の空気は暫し動揺した。次の瞬間、風の流れが一変し、嵐が突如として静止した。剣が再び鞘に収められた時、空中にあった砂塵は重力に従って降り注いだ。既にただ一つの風さえ、空間からその姿を消していたのである。

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