ミミック生活始めました。

アスパラガッソ

第1話 ~ミミック生活始めます~

「あと10分か……」


 僕は新しく発売されるゲーム『Survivor of the Ruins』(通称SR)というゲームのダウンロード版を、事前にこのフルダイブ機器にインストールして、サービスが開始される午前12時を待っていた。


 やっぱり長くとも待ち遠しいこの時間が一番ワクワクするし好きだなぁ……


「あ、飲み物」


 僕はVRゲーマーとして欠かせない自己の体調管理を万全とする為、長時間のプレイに耐える為にエナジードリンクを冷蔵庫から取り出して飲み干す。

 ※真似しないでください!


「さて、おっ!よしよし」


 丁度10分経ったのか、スマホでゲームやフレンドの状況を確認する為のアプリに『サービスが開始されました。』という通知が来ているのを確認して、ゲームをする為ベッドに仰向けで寝た。


「ふー……さて、行きますか!」


 そうして準備が完了した僕は、VRゴーグルの横のボタンを押した。


 次にホーム画面にあるSRのパッケージをタッチすると、キーンという機械的な音と共にゲームが起動、次の瞬間には僕は白い世界に立っていた。


『Survivor of the Ruinsへようこそ!』


 そう書いてあるウィンドウをタッチすると、後ろから声を掛けられた。


「ハロー!私はAIアシスタントのコアです!アナタの名前を教えてくれる?」


 振り向くとそこには、空中に浮く1つの丸い物体がいて、僕の名前を聞いてくる。


「なるほど、君は草浪くさなみって言うんだね!よろしく!」


 僕はゲームをする時のニックネームは『草浪』という名前に決めていて、これは僕の名前の『草田波流くさだ はる』を縮めて漢字を変えただけだけど、案外気に入っている。


「では、次に種族を教えてね!」


 コアがそういうと、目の前に種族という項目のウィンドウが出てきて、下にスクロールしながら選んで行く。


 種族に関しては迷う余地もない、なぜならこのゲームを始める前から決めていたモノがあったから、それはミミックという種族である。


 ご存知の通りミミックとは、ダンジョンに生息していて宝箱に擬態化し、それを開けに来た冒険者や近付く魔物を捕食する魔物であり、ダンジョンモノだとよく出てくるアイツである。


「草浪はミミックさんだったんだ!教えてくれてありがとう。あ、もう行かなくちゃ……またお話ししようね!」


『これからフィールドに転送します。』


 どうやら選択するモノは名前と種族のみで、最近では珍しくキャラクリは無しなのか、それともミミックに外見は求められていないのかわからないけど、それらを選んだらゲームが始まった。


『この世界は魔王と人類が対立していて――』


 僕はそんな画面をスキップして、フィールドに降り立った。


 プロローグは好きだけどパッケージでもう読んだしね。


 えーと、ここはまずどこだ?ダンジョンっぽい?

 とりあえずマップは、ないか……ってミミックって移動できないの?


 どうやら今の段階?では移動できないらしく、視点は動かせるがそれ以外は操作不可能と出ている。

 僕がリスポーンした場所は周りの石造りの壁を見る限り多分ダンジョンの一室であり、僕はミミックとして部屋の中央に鎮座して、木の扉の方を向くように設置されている。


 もしかしてミミックらしくその一室から動くなということだろうか?


 一応噛み付きモーションもあるけど、一体誰に噛み付けば良いって言うんだ?

 とりあえずステータスを見てみるか……えぇとステータスは、あった。


 >ステータス

 ・プレイヤー名『草浪』

 ・種族『ミミック』

 ・LV:1

 ・HP:20/20

 ・MP:10/10

 ・攻撃力:5

 ・操作性:1

 ・敏捷性:0

 ・知力:4

 ・運:5


 ステータスウィンドウを開くと、自分のステータスが乗っていた。


 当たり前だけど、最初期のステータスはもうほんとゴミみたいなもので、AGIは0だろうと思ってたけれど、マジで0にするやつあるか?

 多分レベル上げてけばいろいろとやれる幅は増えるだろうけど、そもそもどうやってレベルを上げ――


『擬態ボーナス(経験値10)』


『レベルが1→2に上がりました』


 擬態ボーナス?とりあえず検索してみるか


 僕はこの単語をゲーム内の検索サイトで打ち込み調べた。

 どうやらミミックや擬態するモンスター専用の経験値ボーナスだそうで、ゲーム内時間で30分(現実での5分)擬態状態で過ごすと得られる経験値と書いてあった。


 なるほど、これなら獲物が来なくても勝手にレベルが上がってくな……でもそれってゲームとしてどうなんだ?最近はほのぼの育成を謳ってるゲームでさえアクションがあるというのに、流石に一歩も動けないのはなぁ……それに部屋の中だから景色すら楽しめないこの状況……事前に知っていたら誰も選ばないだろうな。


 と言っても僕は変えるつもりはない、ゲームを始める前に決めた種族からは絶対に変えないと決めてしまったから……正直今すぐにでも変えたい!


 だが、やはりどの業界にも最初が苦痛なことが多いので、もう少し……もう少しだけミミックとして生活してみて変更の是非を考えることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミミック生活始めました。 アスパラガッソ @nyannkomofumofukimotiiina

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ