第5話 勇者の帰還

 魔王城からの帰り道、不意にアクセルに声をかけられた。


「エトムント。私のものにならないか?」


 えぇええっ!? 俺、男ですけど!? 可愛い婚約者もいますが!!?


——ってか、それは正ヒロインの女子高生に言うべきセリフ……


「…………」


 俺がびっくりしすぎて何も言えないでいると、


「……いや、言葉選びが悪かったな。国に戻っても、側近として私を支えて欲しい、ということだ。今回の遠征で、互いの命を、背中を預け合った仲だ。これから王位を継いで政をしていくには、信頼できる仲間というのは重要だ……どうだろうか?」


 アクセルが一番最初に見せてくれたような、はにかんだ笑顔を見せてくれた。

 彼が素の時に見せてくれる純粋な笑顔だ。


「ああ。俺でよければ、アクセルの役に立とう」


 俺が笑顔で快諾すると、アクセルは一瞬目を瞠って少し頬を赤らめたかと思うと、「ああ、よろしく頼む、エトムント!」とくしゃりとした笑顔で返してくれた。


 周りのみんなも、俺たちのそんなやり取りを微笑ましげに眺めていた。


「さぁ、王都へ帰ろう! 皆が待っているぞ!」

「「「「おう!」」」」


 アクセルの掛け声に、俺たちは笑顔で答えた。


——最初の顔合わせの時はどうなることやらと思ったけど、最後はみんなと仲良くなれて良かったよ。



***



「さすが! 私の最推しのエトムント様! 全スチル、コンプリートよ!! しかもまさか、魔王様まで味方にしちゃうだなんて!」


 女神は、神界の女神の部屋に飾られた、攻略対象者たちの美麗スチルをニヤニヤと……いや、満面の笑みで眺めていた。


「これで魔族の国とも仲良くしてくれるなら、もう聖女を召喚する必要もないし……!」


 女神はチラリとプラ◯ドポテトの方を見た。まだ全種類は味見していないのだ。

 じゅるりと期待のよだれを飲み込む。


「世界は平和だし、他のポテチも召喚できるし、万々歳よ!!」


 女神がはしゃいでバフンッと真っ白な雲にダイブすると、ふわふわっとちぎれ雲が舞い上がった。


「あら? これはボーナスかしら?」


 キラキラしいエフェクト音と共に、神界の女神の部屋に現れたのは、額縁に入った勇者パーティーメンバーと魔王が仲良く肩を組む美麗スチルだった。



***



 王都に戻ると、町中の人たちが盛大に祝ってくれた。

 王宮側で用意してもらった凱旋のお披露目用の馬車に乗せられた。王都の大通りを通って王宮まで戻るパレードだ。

 俺たちは、喜び歓声を上げる民衆に、笑顔で手を振った。



「ただいま、シビラ」

「お帰りなさい、エトムント!」


 王城に到着すると、俺の胸にシビラが飛び込んできた。ほんのりと甘く爽やかな鈴蘭の香りがした。

 急に飛び込んで来られたから、よく顔は確認できなかったけど、少し涙声じゃなかったか?


「……あなたが無事に帰って来てくれて良かったわ。もう、それだけでありがとう……」

「うん、心配かけてごめんね。待っててくれてありがとう」


 しばらく会っていなかったということもあるけど、小さく震える細い肩を抱くと、余計にシビラを愛おしく感じた。

 クスン、クスン……という涙を押し殺すような音も胸元から聞こえてくる。


 紳士として、しばらくはこのままかな? 

 まだもうしばらくは、このままシビラのぬくもりを感じていたいっていう本音は秘密だ。


 アクセル達は、やれやれ、とか「帰って早々、お熱いな」と苦笑い半分に、微笑ましく俺たちを見守ってくれていた。


 シビラにはあとで、「俺がアクセル殿下の側近になるんだ」って言って驚かせよう。

 魔族の国と和平条約も結ばなきゃだし、これからは忙しくなるな——



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聖女♂でございます。 拝詩ルルー @rulue001

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