第4話 魔王城

——さらに半月後、遂に魔王城に到達した。


 瘴気漂う薄暗い森の奥地に、魔王城はあった。

 魔王城らしくおどろおどろしい雰囲気の城だ。瘴気で暗く澱んだ空には、稲光まで走っている。


 王都を出立してから一ヶ月半——歴代最速で魔王城に到達したことになる。


 まぁ、今回の魔王討伐メンバーは全員が男で、体力があったからな。


 それに、エトムントの元のスペックが高すぎた——元々、完璧主義で高スペックなキャラクターだということも関係してるが……


 本来の女子高生ヒロインの聖女であれば、回復役に徹するだけだったが、エトムントは違った。

 この世界の男子として、一通り剣術は習っていたこともあり、戦えたのだ。——そして完璧スペックゆえに、勇者パーティーにとっても重要な火力になった。



「遂に、魔王城だな」


 ディーターが、険しい崖の上の魔王城を見上げて言った。


「ようやくここまで来れたな」


 クリストフが、今までの辛い旅を思い返すように渋い表情を浮かべた。


「いよいよだな」


 ベルンハルトが、ごくりと喉を鳴らした。武者震いするように、拳が震えている。


「ああ。魔王を倒して、平和を取り戻そう」


 アクセルが胸の前でグッと拳を握り、覚悟を決めた。


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▷「ふっはっは。よく来たな勇者どもよ。吾輩が魔王だ(大嘘)」

 「ええ! 私たちの力を魔王に見せつけてやるぴょん!」

 「あ。自分ちょっとお腹痛いんで帰ってもいいですか?」

 「もし言い伝えが本当ならこの笛で……ピュー(口笛)」

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……ふざっっっけるなっ!!! ここに来てなんちゅう選択肢だっ!!! 罰ゲームかっ!!?


「え゛ぇ……わたしたちのちからを魔王にみせつけてやる……ぴょん……」


 俺は実質一つしか選べない選択肢を選んだ。思わず棒読みになったのは仕方がないだろう。


 むしろこんなもん、口にしただけでも褒めて欲しいわっ!!


 俺の発言に、全員が驚愕の表情でこっちを振り向いた。全員が「今それ言うか?」って顔をしていた。


——くそぅ!! ゲームの強制力めぇえええぇぇっ!!!


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 クリストフの好感度が十あがった。

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 お前はここで好感度が上がるのかよっ!!?



 全員の好感度はほぼほぼMAXなので、全員攻略ルートには無事に進めたと思う——ある意味、俺に選択肢は無かったが。


 そして、モップ犬な聖獣は……巨大なモップになっていた。チワワが軽トラになったようなサイズ感だ。


 聖獣はどのルートでも必ず現れるが、全員攻略ルートでだけ、好感度を上げれば上げる程、大きく成長した。


 そして特別ボーナスとして、大きく成長した聖獣は、俺たち勇者パーティーを背中に乗せて、魔王がいる玉座の間まで連れてってくれるのだ!


 聖獣、なんて便利な子!!



「行け! モップ!」

「いや、ロシナンテ!」

「ハイヨー! シルバー!」

「出発だ! ゴーイング・ケルベロス号!」


「バフッ!」


 聖獣は、何と呼んでもとりあえず元気よく返事をした。だから、みんな思い思いの名前で呼んでいる。ちなみに俺は適当に「シロ」と呼んでいる。


 俺たち四人が聖獣シロの背中にしがみつくと、そのままシロは猛然と魔王城下の崖に向かって駆け出した。

 器用に崖の岩に飛び乗り、ジャンプし、壁を垂直に走って魔王城へと駆け上っていく。


「ぐわぁああぁあっ!!」

「しっかり掴まえれ! 振り落とされたら、死ぬぞ!!」

「Gがっ! 遠心力が!」

「…………」

「クリストフの意識が飛んでないか!!?」

「起きろ、クリストフ! 寝たら死ぬぞ!! マジで!!!」


 俺たちは、命綱も無い乗り心地最悪のジェットコースターのような聖獣に必死にしがみついて、魔王がいる玉座の間上部にあるステンドグラスを突き破って中に侵入した。


 勇者たちってこんな風に聖獣で玉座の間に行ってたのか!?

 ゲームだとロード待ちするだけだったけど、ロード中にこんな酷い目に遭ってたのかよ!!


 ガッシャーーーーンッ!!!


 色とりどりのガラスの破片が飛び散り、大きな玉座に座るイケメンが口をあんぐり開けて、俺たちを見上げているのが見えた。


——あっ! この顔! 魔王は攻略対象者だ!!


 走馬灯のように前世の記憶が駆け巡り、俺はただただそれだけを思った。



「侵入者か!?」


 魔王が俺たちの前に立ち塞がった。バサリと漆黒のマントが翻る。


 魔王は漆黒のストレートの長髪に、赤く鋭い瞳の俺様系のイケメンだ。頭からは、魔族らしい二本の立派な巻き角が生えている。


「我々は王国の戦士……」


 ヨロヨロと、ベルンハルトが剣を杖にして立ち上がった。


「……勇者アクセルとその一行……」


 ヨロヨロと、ディーターも膝をつきながら苦しげに立ち上がった。


「……覚悟せよ、魔王よ……」


 ヨロヨロと、アクセルも気合いで立ち上がった。


「…………」


 クリストフは気絶したままだ。


「おいっ。起きろ、クリストフ。見せ場だ。寝てる場合じゃない」


 俺はクリストフの頬をペチペチ叩くと、状態異常回復魔法をかけて叩き起こした。


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 ベルンハルトの好感度が三あがった。

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 どういうことだっ!?


「……悪の魔王を倒しに来た……」


 クリストフがヨロヨロとかろうじて上半身を起こして、決め台詞を吐いた。


「満身創痍じゃねぇか!!」


 魔王が腕を組みつつ、スパッとツッコミを入れた。


——その時、突然シロが甘えるような声を出して、魔王に近づいて行った。


「キュウ〜ン、クゥ〜ン……」


「あっ! 待て、シロ!」


 俺は慌てて呼び止めようとした。


「シロリアン! よくぞ無事で!!」


 魔王が涙目になって、シロに抱きついた。わしゃわしゃとモップ毛を撫でくりかえしている。


「「「「へっ?」」」」


 俺たち四人の声が重なった。


「キュキュ〜ン、ク〜ン……」

「うん、うん。そうか。……お前、うちのシロリアンを救ってくれたようだな。コイツは迷子になっていたんだ。それを、魔王城うちまで届けてくれたのか。しかも、洗濯までしてくれたようだな。飼い主として礼を言おう。ありがとう」


 シロをモフっていた魔王は、急にくるりと俺の方に振り返ると、お礼を言い出した。


「は、はぁ……どういたしまして……」


 俺は急な魔王の態度の変化に、呆気に取られてとりあえず返事だけした。


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 魔王の好感度が五百あがった。

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……嘘だろっ!? おいっ!!?


「あの〜。俺がモップを見つけて来たんですが……」


 ディーターが少し言いづらそうに、横から口を挟んだ。


「ああ、お前か。シロリアンは、お前の抱っこの仕方が悪かったと貶してるぞ」

「けなっ…………」


 魔王の一言に、ディーターは言葉を失った。


 ディーターが固まっている間に、シロは魔王のマントを咥えると、クイッと引っ張った。


「キュ〜ン!」

「何? 何か一つ願いを叶えてやれだと?」

「キュン!」


 シロに何やらキュンキュン言われ、魔王が鋭い視線を俺に向けてきた。


「お前は我に何を望む?」


 魔王が重々しく問うてきた。こちらから膝を折りたくなってしまうような圧倒的な威圧も放っている。


「それなら、この世界の平和を。王国や他国への侵略をやめて下さい。私は平和を望みます」


 俺は威圧になんか負けずに、真っ直ぐに魔王の目を見つめて言った。

 彼の鋭い赤い瞳が、一瞬だけ丸く見開いた。


「フッ。それならこの魔族の国の平和も入れてもおう。お前達人間は、勝手に我らの国にやって来て、勝手に荒らして帰って行く。それを止めるというのなら、侵略とやらを止めてやろう。元はと言えば、そちらから始めたことだ」


 俺がチラリとアクセルの方を見ると、彼も深く頷いた。


「それならば、互いに不可侵の和平条約を結びましょう。我が国が責任を持って他国にも呼びかけます」


 今度はアクセルが魔王の前に出た。胸に手を当て、真摯に言葉を重ねる。


「ハッ。今度の奴らは話が分かりそうだな。俺たちは静かに暮らせればそれでいいんだ。何もしてないのに毎回攻め込んで来やがって」


 魔王が皮肉げに言い放った。だが、その表情はやけに晴々としていた。


「ええ。これからは敵対ではなく、友好を築いていきましょう」

「いいだろう。それからステンドグラス代は弁償しろよな」


 アクセルと魔王は、ガシッと力強く握手をした。


——こうして、人間の国と魔族の国に平和が訪れた。



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