望むものが手に入らない

白川津 中々

◾️

望むものが手に入らない苦しみというのは慣れないものだ。


そういう星の下に生まれたのか、とにかく、ほしいものが巡ってこない。どれだけ近付いてもあと一歩で離れていく。霧散した機会に何度悔やんだか知れないし、今でも胸の奥が晴れる事はない。




「君とは友達でいたいかな」




先日、酒の席で「俺とどうだろう」と尋ねると彼女はそう言った。




「嫌いってわけじゃないの。でも、男と女ってそれだけじゃないでしょう」




俺は「そうだね」と笑ってみせたが内心少しも理解できなかった。それだけじゃないとはなんだ。友情と愛情の間にどれほど差があるのか教えてくれと聞きたかったが、そんな野暮を口にすれば鼻で笑われるだろう。俺は口惜しさを呑み込み、酒を煽った。


彼女と別れた後、俺は女を買ったがやはり満たされる事はなかった。白く、肥満気味の肢体が転がっているのを見て吐き気がした。それとまぐわう自分にも唾棄を催したが、劣情の火は盛るばかりで、彼女への当てつけのように俺は陰鬱としたものを商売女にぶつけた。




「あなたって、なんだかかわいそうね」




事が終わると、女はそう言った。




「なにがかわいそうなんだい」


「だって、気持ちのいいことをしてもちっとも楽しそうじゃないんだもの」


「……」


「ねぇ、今度、二人で合わない。もちろんお金なんていらないわ。一緒に楽しみましょうよ」


「……あぁ、分かった」




女とは頻繁に顔を合わせるようになった。そして都度、夜の時間を過ごしている。その分、彼女と会う時間は減った。


望むものは手に入らないのに、いらないものだけ増えていく。胸の奥は、ずっと晴れない。

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