遥かなる空の彼方へ

平木明日香



世界にサイコロはたった一つしかない。


天才科学者、アイリス・ブラックは、そう言った。


サイコロがたった一つしかないように、現実には「壁」があると。


その壁は永遠に打ち破られることはなく、「過去」と「未来」は交錯しない。


——つまり、現実はたった一つしかないということを、彼女は告げていた。


たった一つの、ある“方法”を除いて。



彼女が開発したタイムマシンは、広大な時空の果てに確かなメッセージを届けていた。



過去と未来。


未来と、過去。



タイムマシンは人を運ぶことはできなかったが、代わりに「言葉」を届けることができた。


届いた先の世界では、戦争があったり、平和なひと時があったり、人類のいない世界があったり、はるかに高度な未来の世界があったり…


タイムマシンが作動してから、世界は少しずつその形を変え始めた。


最初は微々たる変化であったが、徐々にその変化の幅が取り返しのつかないほど巨きくなっていった。


やがて世界は、科学では説明のしようがない気象変動に見舞われることになった。


西暦3000年を迎える頃だった。


吹き荒れる風や、枯れ果てていく大地が、人々の生活を脅かしつつあったのは。


地球は、かつての空や「青」を失いつつあった。


異なる時空から運ばれてきた言葉は、少しずつ世界の形を変えてしまうだけの力があった。



それからさらに数千年後、人類は地球を飛び立ち、空の向こうへと行くことを決意した。


スカイネットワークと呼ばれる、一本の塔を地上に残して。


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