エピローグ

 その日の夜は、星々が瞬く、静かで穏やかな夜だった。

 髪を拭きながら階段を上ったユウトは、廊下の窓にもたれて耳を澄ましているユウヤを見つける。

「……何か聞こえるか?」

「おれたちのピアノの音が聞こえる」

「え?」

 ユウヤは耳につけているイヤホンを指さした。

「へへ、これ、聞いてたんだ」

「ああ……」

 ユウヤがいつも持ち歩いている、古いICレコーダー。この世界には電池がないから、時々にしか再生せずにいるはずのそれを、今聞いていたらしい。

「ユウトも聞く?」

 と片方だけ外して差し出してくるユウヤの隣に並んで、ユウトはそれを受け取った。

 耳に差し込むと、少し籠った、懐かしいピアノの音色が流れてくる。

 いつか二人で連弾した、幼くて拙い音色。

「……大丈夫か?」

 ユウトはユウヤと同じように窓枠に腕を載せた。

「うん……」

 空は晴れていて、星空の中に弓のような月が浮かんでいる。もうすぐ新月だ。また月が巡ろうとしている。

 ユウヤはしばらくして、ねぇ、と呟いた。

「……あのさ。あの二人、もしかしたらおれたちに、――ううん、昔のおれたちに、ちょっとだけ……似てたよね」

「……ああ、そうだな」

 ユウトは静かに頷いた。

「今の、おれだったらどうするかな、ってちょっと……ちょっとだけ、考えちゃった」

 ユウトはちらりとユウヤの顔を覗き込んだ。

「……な、なに?」

「俺たちが……ずっと一緒にいられるかは分からない。けど……」

 ユウトはそれから、月を仰いだ。

「どこにいても関係ない。おれたちは双子で……俺はお前の弟だ」

「……うん、そうだね、そうだよね」

 ユウヤは少し涙ぐんだまま、頷いて笑った。

 欠けた月が煌々と照らす下で、二人の間にはいつまでも懐かしい旋律が流れていた。

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『双星のラメント』_フラグメント 浅霞よる @yoru_fragment

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