最終話 ダヴィのダンジョン冒険譚

 スカーレットが願い事をしてから半年の月日が流れた。ダヴィは草原の広がる場へと訪れていた。風が穏やかに吹く中、歩き続けていると大きな木の下にあるスカーレットの墓石前に姿を現す。


ダヴィ 「やぁ。スカーレット。あれから色々な事があったよ」


 幽体となったスカーレットはダヴィの姿を見た途端、顔先まで両腕を広げ走る。


スカーレット 「ダヴィ~~!きてくれて嬉しい~~!」


 身体が透き通ったスカーレットはダヴィに抱き着き顔を見上げる。ダヴィの頬に手を当て顔をじっくり眺めていると次第に笑みが零れていく。


 「ダヴィさーん!」

 「ダヴィ様~~~!」

 「ダヴィ」


 声が聞こえダヴィは振り返る。


ダヴィ 「エトナ、フィーネ、ジョージ」


 黒いドラゴンを共に倒した仲間達が現れ、3人はダヴィの元へ駆け寄る。


フィーネ 「その墓石はダヴィ様の奥様の…?」


ダヴィ 「あぁ。俺の妻が眠っている墓だ」


 突如、若い女性のフィーネが現れスカーレットは目が釘付けになる。可憐な表情だった彼女は一変し目付きが鋭くなる。


スカーレット 「だ、だ、だ、だ、誰だ!!この小娘!!ダヴィを落とそうとしたってそう簡単にさせるものか!!」


ダヴィ 「スカーレット。仲間のエトナ、フィーネ、ジョージだ」


 墓石前でダヴィは名前を口にし仲間を紹介している間にスカーレットはフィーネの元まで鬼の形相で走ると耳に口を寄せる。


スカーレット 「呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪」


 フィーネの耳元でスカーレットは呪いの言葉を連呼する。


フィーネ 「そういえば…。ダヴィ様とスカーレット様の間にお子さんはいらっしゃらないのですか?」


スカーレット 「や、やっぱりこの子!ダヴィを狙っている!おい小娘!良い度胸してんなぁ!?殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」


 スカーレットは再びフィーネの耳元で物騒な言葉を連呼する。


ダヴィ 「あぁ。俺達に子供はいないよ」


 ジョージはダヴィの肩に手を置く。


ジョージ 「そりゃ災難だったなダヴィ。あんな綺麗な奥さんをもらったのに、男のみが持てる伝説の武器が夜に発揮出来ないとは…。病気持ちなんだろ?」


 ダヴィの顔は一気に真っ赤になり、肩に置かれたジョージの手を振り払う。


ダヴィ 「ち、ち、ち、ちげーよ!」


ジョージ 「病気なんか気にするな!伝説の武器が発揮出来なくてもお前は剣術を最大限に発揮してドラゴン2体も倒した立派な男だ!もっと胸を誇れ!」


 ジョージは活を入れるようダヴィの背中を力強く叩く。


ダヴィ 「一丁前に上手いこと言うな!違うって!」


 ジョージの話しにエトナとフィーネは顔を赤くし横目で互いに見合う。


 顔を赤くしたダヴィは咳払いをする。


ダヴィ 「スカーレット。願いを叶えてから大きく変わったよ。エトナは結局、斧使いなんだがフィーネは新しい魔法、回復魔法に目覚めたんだ!そしてジョージは魔法を矢に造形して弓で放つ器用な戦い方をしてるよ」


エトナ 「僕は魔法を創造する才能が無いみたいなので結局、斧ですね」


フィーネ 「回復魔法は皆さんの傷の手当が出来るので効率よくダンジョンを攻略しています!」


ジョージ 「俺は効率重視だから雷の矢でまとめて始末してる」


 フィーネはスカーレットが眠る墓石の前まで歩くと跪き手を合わせる。


フィーナ (どうか安からかにお眠り下さい。わ、わ、わ、私もいつかスカーレット様のような素敵なエトナの奥さんになりますっ!)


 幽体のスカーレットはエトナを見つめる。跪き祈りをするフィーネの姿をエトナは横目でチラチラと見続け立ち上がると目を逸らす。


スカーレット 「そっかぁ。そういう事ね」


 スカーレットは2人の気持ちを汲むとやんわりと微笑む。


エトナ 「あ!フィーネ!そろそろ行こう!」


フィーネ 「う、うん」


 フィーネは頬を赤らめながら頷くとエトナの元へゆっくり駆け寄る。


ジョージ 「何だ?2人してデートでもいくのか?」


 肩を並べ立つ2人にジョージは問うとエトナは頬を指でポリポリと掻く。


エトナ 「えっと…。ちょっとフィーネの家に…」


ジョージ 「家?」


フィーネ 「挨拶しにくるんです…」


 エトナとフィーネは顔を合わせ微笑む。


ジョージ 「そうかぁ。ついにか!無事に終わったら冒険者ギルドで宴すっか。なぁ、ダヴィ」


ダヴィ 「あぁ。勿論」


エトナ 「ありがとうございます!じゃあ、行こうか。フィーネ」


フィーネ 「うん!ダヴィ様、ジョージ様!また!」


 2人は手を振り去っていく。


ジョージ 「エトナは嬢ちゃんとの身分を気にしてたんだがな」


ダヴィ 「今のエトナなら大丈夫だ」


 小さくなったエトナとフィーネの後ろ姿を見つめながらダヴィは微笑む。


ジョージ 「俺はドラゴンを倒してから変な女に好かれてもうゴリゴリだ。ダヴィと冒険者ギルドの改革に専念する。んじゃ、また明日な相棒」


 ジョージは背中を見せると歩きだす。


ダヴィ 「ジョージ!色々とありがとうな!」


 ダヴィが叫ぶとジョージは答えるように手を大きく振る。


 仲間達が去っていくとダヴィは墓石を見つめる。


ダヴィ 「そうだ。あれから———」


 ダヴィは墓石の前で座り込むと本を手に取り広げ読み上げる。


 全員、魔法が使えるようになり色々な事が大きく変わった。


 願い事をしてから翌日早々にダヴィ達は王に呼ばれ王宮内へと出向く。王の謁見の間では国家魔術師、家臣、王の側近が並び王の姿は黒く透けたカーテン越しで見えない。


 ダヴィ達は跪くとカーテンが開き王が姿を現す。その場にいた全員が王の瞳に驚愕しどよめく。


 王の瞳は青色だった。話によれば魔法の血筋は薄くなる一方で現在は庶民と同じく魔法が使えない只の人間だった。


 初代王が残した書物を読み、魔法を使うようにして欲しいという願いの代償として魔法が使えなくなりドラゴンの血で作った薬品で呪いは解かれると思っていたと話す。


 しかし、ダヴィが赤いドラゴンを倒し錬金術師に薬品を作らせ飲んでも魔法を使う事は出来なかったと王は泣きながら話す。


 ダヴィ達のお陰で魔法が使えるようになり、感謝の言葉を述べると王は王政を廃止すると言い放つ。しかし、従者の忠誠心は強く王政は続く事となった。


 王は貴族制の廃止は急に難しいと判断し、折り合いをつけ国家魔術師団と国家兵団を新たに設立すると決断する。力がある者は身分関係無しに誰でも入団可能とした。


 国が管理していた冒険者ギルドはダヴィが新たに国が認める管理者となりジョージは副管理者、エトナとフィーネは管理補佐となった。


 第2王子は初代国王が書いたダンジョンの書物に興味津々でダヴィに対し冒険者になりたいと夢を語り、ダヴィは16歳に夢を語った自分と重ね了承した。


 冒険者ギルドでは未だに錬金術師の権力が強いが第2王子の介入によって錬金術師と鍛冶師の連携が始まった。


 最初は敵対心丸出しだったが時が経てばお互いに認め合うモノづくり同士になっていった。


 そして、魔法が全員使えるようになり新たな魔法が発見した。負傷した人の傷を癒す回復魔法だった。


 そして黒いドラゴンを倒したダヴィ達の戦法が主流となりダンジョン攻略では近接攻撃、遠隔攻撃、魔法攻撃が得意な者と攻略するのが定着した。


ダヴィ 「今日はこんな感じかな」


 ダヴィは本を閉じるとスカーレットの墓石を見つめる。


ダヴィ 「なぁ。スカーレット。俺と結婚して幸せだったか?」


 風がサァっと吹くと木にある緑の葉が舞い散る。


ダヴィ 「俺も天国にいったらいくらでも聞けるか。じゃあ、また明日くるよ」


 ダヴィは立ち上がるとスカーレットの墓石ににっこり笑い背中を見せ歩き出す。


スカーレット 「そんなの幸せにきまってんだろ~~~!幸せ過ぎて最高の人生だったぞばっかやろーーーー!!」


 背中を見せ歩くダヴィに向いスカーレットは大粒の涙を流し大声で叫ぶ。大きな木にある緑色の葉が複数枚落ちるとスカーレットの叫び声と共に舞い散る。


 願いをしてから100年の時が経った。とある少年は本を開き夢を膨らませながら読み上げる。


 「俺も"ダヴィのダンジョン冒険譚"みたいにダンジョンを攻略するんだ!」


 ダヴィが書いたダンジョン冒険譚は来世まで受け継がれていったのだった。



========★☆★========

本当はもっと語りたい所ですがこれにて完結です!

最後まで読んで頂き本当にありがとうございました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結】ダヴィのダンジョン冒険譚 虹凛ラノレア @lully0813

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ