第60話

 煌びやかなドレスを初めて着た。バーレーン王国で行われた宴は大いに盛り上がり、俺はその主役として多くの人に感謝を伝えられた。気付けば夜もふけて部屋に帰った時にはあまりの疲労にそのままベッドで寝ていたのだった。


「おはよ!」


 美沙の元気な声で眠りから覚めたものの、体はまだ寝たいと言っている。


 まだ寝足りないよ……


「……おはよう美沙」


 目を開けると美沙の笑顔が映った。


「ちょっと早かった? なんか早く会いたくて来ちゃった」


 てへっと笑う美沙が可愛いくて仕方がない。あまりの可愛いさにさっきまでの眠気が何処へやらいってしまった。


「嬉しいよ。俺も同じだよ」


「あ、ありがと……はるとも言うようになったわね」


 おお! 美沙が顔を赤くして嬉し恥ずかしがってるぞ! 


 俺は今まで言えなかったような言葉をさらっと言っていた事に自分の成長を感じたのだった。


「これからどうするの?」


 朝食を終えて支度を済ませた俺はそう言われて考えた。


「うーんと……本当はすぐにでも帰りたいんだけど、その前にあの子が気になって」


「それってアンデラ族の生き残りだったって人の子供?」


「うん、さっきアーシェさんから目が覚めたって聞いたんだ」


「これから行く?」


 俺は頷くとふたりで病室に向かっていった。


「アーシェさんから聞いたんだけどその子の存在は秘匿されているんだって。アンデラ族の人を追い出した事については賛否が分かれていたらしくてあまり公にしたくないんだってさ」


「確かに種族は違えど住民を追い出しちゃったんだもんね……話を聞いた限りだとその子はこの国にはいたくないよね……」


 俺もそう思った。ただでさえ闇の戦士団の奴らにそう教え込まれていたなら悪の組織に監禁されていると思っていても不思議じゃないはずだ。


「でも、行くところがないからなぁ……あ、この部屋だよ」


 あの子がいるという部屋にふたりで入って行った。


「……」


 俺達が部屋に入るとその子は窓の外をじっと見つめていた。何を考えているのだろうか、無の表情に声をかけずらい雰囲気だ。


「こんにちわ」


 そんな雰囲気にも関わらず美沙が話しかけるがその子に反応は無かった。


(恐らくこの子は生きる意志を失っているのだろう……)


 アークリーの言葉を聞いてなんて声をかけてあげたらいいのか分からず迷うと、結局何の会話をする事もなく、部屋を出て行ったのだった。


「あの子……凄く悲しんでる……」


 部屋を出ると美沙が泣きそうな顔でそう呟いていた。


「私、前の世界でずっと病院にいたからあんな顔をした子供を何人も見てきたの……だから、助けてあげたい」


 美沙は涙を拭い、俺を見るその目は強い意志を感じた。


「すぐに心を開くなんて無理かもしれないけど、そういう子達とは結構接してきたからきっと大丈夫」

  

「俺も何かできる事があれば手伝うからね」


「ありがとう。頑張ってみるね!」


 美沙の希望でしばらくここに滞在する事にした。あの子の事をこのままほっとく訳にはいかないからな。


 あれから10日が経ち、とうとうポートラへ帰る日がやってきた。帰ると聞いたアーシェさんやリィーズさんに引き留められたが、もうここに来て一カ月経ってるから今頃向こうではかなり心配していることだろう。


「やっと帰れるな……」


 少しの間住んでいた部屋だけど自分の物を片した後の殺風景な部屋を眺めているとなんだか寂しい気持ちになる。


 バン!


 そんなしみじみと部屋を眺めていた時、背後で部屋が勢いよく開く音がした。


「おはよう! セイナお姉ちゃん!」


 俺の腰に抱きついてきた小さな生き物……それは数日前まで生きる意志を無くした女の子だった。


「おはようミナ」


 前からは想像もつかないようなキラキラした目を輝かせた女の子に挨拶をした。


「フェルお姉ちゃんが呼んできてって、それで来たんだよ! えらいでしょー!」


 えへんと誇らしげに胸をはる歳相応の仕草は俺を笑顔にしてくれた。


「ありがと。偉いねミナは」


 頭を撫でてやるとミナは嬉しそうに俺の手を握って早く行こうと促してきた。


 そう、この子がこんなにも元気を取り戻したのは紛れもなく美沙のおかげだった。あれから美沙は毎日出来るだけミナとの時間を過ごした。そこで色々なアプローチをした甲斐あってミナが心を開くのに時間はかからなかった。前の世界で長い間病院で過ごしていた美沙は入院してきた幼い子供の面倒を看護婦さんから頼まれていた事が多かったらしく、子供の扱いに慣れていた。


「早く早く〜」


 幸いにも美沙と一緒にいたおかげか、それとも同じ髪の色だったのもあったかは分からないけど俺に懐いてくれたのは良かった。


 それにしてもいい子に育ってくれていて良かったな……

 

 俺の手を引いて歩くミナを見ながらあらためてそう思った。美沙が話を聞いてくれたおかげでこの子がどう生きてきたのかも分かってきていたのだ。


 どうやらこの子の母親は去年亡くなったらしく、それまではふたりで暮らしていたようだ。それを聞いていたアークリーがこう言っていた。


(恐らく母親はこの子を闇の戦士団から守るために自らを犠牲にして戦っていたのかもしれないのう……この子が恐ろしい程の魔力を持っていたのが闇の戦士団にバレて戦いに駆り立てようとしたのかもしれん)


 もしもそれが本当なら母親が闇の戦士団となんらかの交渉をしたのかもしれない……どっちにしろ真実は闇のまま、母親は亡くなってしまったのだから。 


 そして俺達がポートラに帰る話をしていたのを聞いたミナは一緒に行きたいと言ってきたのだ。

 

 もちろん俺達は大歓迎だった。むしろ一緒に連れて行きたいと考えていたから。


 かくして俺とミナは美沙とその父親であるサラレスさんと合流するとアークリーの姉妹に見送られてポートラへと帰っていった。

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難病からあの世に旅立ったと思ったら妄想していたチート設定で生まれ変わったので、たとえ性別が違っても異世界で幸せに暮らします 尚太郎 @sz9999g

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