無責任男、二股結婚する?

 協会の扉を開けると、幻想的な景色が目に飛び込んできた。


 眼下には、ステンドグラスから溢れ出す神々しい光が広がっている。床に映る女神のような光のシルエットが神秘的で、ただその光景を目にするだけで、本当に神が存在するかのような錯覚に陥りそうだった。


 自然と膝をついて祈りたくなるような荘厳さに、思わず息を呑む。


 俺がそんな感情を抱いている間、両手の中に収まる小さな女の子の顔は、感動に包まれて赤く染まっていた。

 彼女は瞳を大きく見開き、ステンドグラスの光を全身で浴びるよう少しばかし口を開けている。その小さな手が無意識に俺の袖を掴み、力強く握りしめていた。


 その感動の深さが、彼女の表情から痛いほど伝わってくる。


「……すごいね、こんなの見たことない……」

 イーリヤの震える声が、光の中で儚く響いた。それでいて、その言葉には不思議な真実味があった。


「本当にすごいな。こんな場所があるなんて知らなかった」

 俺も同じように息を呑む。


 目の前の光景はあまりに現実離れしていて、夢の中にいるような感覚さえ覚えた。だが、俺たちには目的がある。感動に浸りすぎて目的を忘れそうになったが、現実に引き戻されるように周囲を見渡す。


「お、いたいた」

 視界の隅に、目的のシスターの姿を見つけた。


 しかし、椅子に座って爪を弄るその姿は、やる気の欠片も感じられない。

 20代くらいの若々しい女性の見た目だが、時折垣間見える目からは凄まじい負のオーラが漂っている。


「話しかけたくねえな……」

 そんな思いが脳裏をよぎるが、俺は覚悟を決めた。


「すいません、今大丈夫ですか?」


「見りゃ、わかんだろー。今取り込み中なんだよね」


「そうですか……」


「そうそう、一時間後に来たら対応してあげるわ」


 嘘だろ。どうせ「私以外の真面目なシスターが対応するけどな」って思ってるに違いない。そもそも目も合わさないこの態度で、時間を変えたところでまともに対応するとは思えない。


 典型的な『やる気ゼロだけど能力は高いから在籍を許されている』タイプだ。


 面白い。こういうタイプは興味を引くのは簡単だ。


「それは失礼しました。あまりに可愛らしい女性だったもので、つい話しかけてしまいました。では、一時間後にまた伺いますね」


 俺の社交辞令めいた言葉に、予想通り彼女は反応を示した。


「え、あたしのこと言ってるんだよね? あなた見る目あるわね!……って、おっそい!!やっと来たわね、って超イケメンじゃん! 筋肉もやばっ! 私、ルシアって言うの! あたしと結婚したいって言ってたよね? おっけー、私が養ってあげる!」


「それは嬉しい提案ですね。ところで、今大丈夫ですか?」


「うんうん、いいわよー!」

 

 ルシアは、すっかり気分を良くしたようで、体を前のめりにして俺を見つめている。その視線が、俺の隣にいるイーリヤには全く向いていないのが妙に面白い。


 とはいえ、この女、かなり危険だ。面食いで、選り好みしすぎて婚期を逃したタイプだろう。

 やばい、女に目を付けられたかと内心ツッコミながら持ち前の爽やかスマイルで対応する。


「ありがとう。この子と結婚したいんだけど、可能かな?」

 俺は堂々とした態度で目的の言葉を投げかけた。


「えっ! やっぱり浮気するの?」


 ルシアの問いかけにはどこか冗談めいた響きがあるものの、その裏に見え隠れする狩人のような感情が俺をヒヤリとさせた。

 その感覚の先に目を向けるとイーリヤが、呆れた表情を浮かべて俺を見ている。その口パクは明らかだ。


『このたらし男』

 

「ルシア、俺の結婚相手はこの子だ」


 俺はきっぱりと告げた。腕に抱えたイーリヤが驚いて顔を上げ、その瞳が揺れる。そして、顔を真っ赤にして俯いた。


「ふーん、やっぱりそっちを選ぶんだ」


 ルシアの声が少し残念そうに響いたが、続く言葉は予想外だった。


「でもまあ、私も結婚してあげる。男の浮気くらい私は寛大だし許すわよ、それにイケメンなあなたも凄く可愛い私と一緒にいた方が今後得よ?」


 俺は思わず天を仰いだ。こんな展開、想像の斜め上だ。

 

 心の中で苦笑しながら、目の前のルシアを見つめた。確かに彼女は凄く美人で魅力的だ。だが、その裏に隠れた危険な要素を感じるのは俺だけではないだろう。まあ結婚したところでこの街から去ればなんとかなるから正直いいのだが。


「ルシア、冗談だとしても、俺はそんなことには付き合えないよ」

 だが俺は、イーリアの好感度を維持するため、パフォーマンスとして発言した。

 その言葉に、ルシアは肩をすくめる。心を見透かされているような錯覚を覚える彼女の視線に俺は少しだけ不快感を感じた。


「私にはわかるわ。あなた、そういうところも素敵よ」


 その時、隣のイーリヤが顔をしかめながらも、少し戸惑って俺を見ていた。彼女の小さな手は、俺の袖を握りしめていた。


「……あの、ちょっとだけいいですか?」


 イーリヤの声が小さく、どこか不安そうだった。彼女のその姿に、俺は優しく微笑みながらうなずいた。


「もちろん、何か気になることがあったら言ってくれ」


 イーリヤは少し考え込み、そして言った。


「ルシアさん、いい人そうだし一緒にセイジお兄さんと結婚しちゃってもいいと思う」


「あら、イーリヤはやはり素敵な女性ですね、さすが私の選んだ男の女ね!」

 

「ということでセイジお兄さん、お姉ちゃんとルシアさんと私のことよろしくお願いしますね」


「よろしく~」


「ああ……」


 俺は一瞬困惑しながらも、軽く頷いた。イーリヤの手を握りしめ、微笑みながら言った。

 最近俺の思い通りになっていない気がするけど、今後大丈夫なのだろうか……。

 漠然とした不安の中、俺とイーリヤはルシアについていくのであった。


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無責任最低クズ転移者 〜異世界で美女達を好き勝手惚れさせて捨てた結果、逃げきれません!日本に逃げても無駄なので大人しくハーレム婚してください〜 ポパペパ @popHDKK

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