何でオレだけ…

J・バウアー

 

 ここに来るのは、何回目だろうか。

 目の前には、閻魔大王と呼ばれる者がいる。

 こいつには何度も会っているのに、こいつはオレのことを全然覚えていない。オレだけが覚えているというのが、ホントに腹が立つ。もはや数えていないが、多分1万は越えている…はず。

「おまえ、メダカに食われて一生を終えたんだな。お疲れさん」

 そうだよ。ミジンコに生まれて、メダカに食われてここに来たんだよ。悪かったな。その前はバッタで、幼虫の内にミミズに食われてここに来たんだよ。その前はゴキブリだったかな。なぜかいつも、お前はオレを虫に転生させるんだよ。ひどいときは翌日にここに来たことがある。ずいぶん前に三葉虫だったとき、すぐ後ろにいたヤツは、どっかの異世界の神龍に転生してもらって、ずっと我が世の春を謳歌しているらしい。ふざけんなよ。何でオレはいつも虫なんだ。

「お疲れさん?いい加減にしてくれよ。こうも何回も何回もここに来るのは、精神的に堪えるんだよ。何でオレだけ、いつもいつも虫なんだよ」

 ついにキレて、神様に食って掛かってしまった。あぁ、これで地獄行き確定だなあ。食われるのって、キッツいんだよ。何万回も食われることを考えると、まだ釜茹ででもされている方がマシかも、何て考えてしまったら、やってしまった。だが、

「ワシも他に転生させた方がいいと思っていたのだが、お前が『虫がいい』と言っていたから、そうしていただけなんだが、違ったのか?」

 閻魔が予想外の答えを言ってきたので、オレは目を剥いた。オレのあわてふためく姿を見て、閻魔は空中に映像を写し出した。

 その映像には、一人の少年がいた。首をかしげる限界までかしげ、ウンウンうなるだけうなって、ようやく思い出したのが、いつだったか、どっかの国の王族に生まれた時のオレだった。この時のオレは、何かの虫の学術論文を書いていたと思う。書いたものをいろんな大人に書き換えられまくって、オレが書いた痕跡なんて微塵もなくなっていたと思う。この時たしか…

「…僕はずっと虫に生まれ変わりたい……」

 ……おい、この時のオレ。何てことを強く念じたんだよ。思わずオレは、頭を抱えてうずくまって、オンオン泣きわめき始めてしまった。

 そんなオレに、閻魔はあわれみの声をかけてきた。

「お前は地獄に落ちるよりも辛い苦行を受けてきたから、今回の無礼を大目に見るだけでなく、次どうしたいか選ばせてやる。蟲神になるか、蟲魔王になるか、どちらがいい」

 おい、やっぱりムシなのか。オレの気持ちはムシなのか。うんざりしてしまったオレが選んだのは…

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何でオレだけ… J・バウアー @hamza_woodin

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