第11話 地獄に帰ってきました。
そうは言ってみたものの、どうやればいいのかなんて、まったく思いつきません。
寮の食堂で、深いため息を漏らしていました。
「あぁ~ぁ、どうしようかな・・・」
口から出るのは、ため息ばかりです。
「聞いたわよ、なぎさちゃん。ダンテを説得するんだって?」
「そうなのよ。どうしたらいいと思う、花子さん」
「そんなの私にわかるわけないじゃない。なぎさちゃんなら、出来るわよ」
「そうかなぁ・・・」
私の愚痴に花子さんが反応しました。
「なぎさ、思い切ってぶつかって行けばいいんじゃ。むしろ、何も考えるな」
そういうのは、千手婆さんです。
「なぎさちゃん、がんばれ。俺たちが付いてるからな」
「ありがとう」
紫鬼や妖の皆さんたちが、いろいろと励ましてくれました。
そうは言っても、顔も見たことがない大魔王になんて言ったらいいのか、さっぱりわからない。寝ても覚めても、そのことばかりが頭に思い浮かんで、夜も寝られません。
そして、その日は、突然やってきました。
いつものように出勤して、社長室に行くと、いきなり言われたのです。
「なぎさちゃん、ダンテが来るから頼むよ」
「今日ですか?」
「もう、来てる。地獄界で暴れとるんじゃ。鬼どもじゃ太刀打ちできん。なぎさちゃん、この通り頼むよ」
いよいよ、私の出番が来ました。緊張と不安で一杯だけど、精一杯がんばろうと思います。そして、文字通り地獄の扉を開けるときがやってきました。
いつものように、地獄のパトロールに向かいます。ドアを開けると、そこは、いつも以上に地獄絵図でした。
逃げ惑う死者と亡者たち。鬼や番人たちもいつもと全く違う様子でした。
「赤鬼さん、大魔王は、どこですか?」
私は、勇気を振り絞って聞いてみました。
「なぎさちゃん、アソコだ。アソコにいるのが、ダンテ様だ」
そう言われてみると、そこにいたのは、小さなおじさんでした。
てっきり、巨大な姿をした、世にも恐ろしい大魔王かと想像していただけに拍子抜けでした。
「あの、ダンテさんですか?」
私は、普通に聞くと、大魔王は私を見上げて言いました。
「それがどうした?」
「あの、地獄を乗っ取るのは、やめてもらえませんか?」
「なんだって?」
「だから、これ以上、地獄を荒らすのは、辞めてもらえませんか?」
私は、大声で言いました。すると、大魔王は、私を見ながら言ったのです。
「いいよ」
「えっ?」
「聞こえなかった? 別に俺は、地獄を何とかしに来たわけじゃないから」
なんだか、話がものすごくややこしいことになりそうです。
それじゃ、なにしに来たのでしょうか?
すると、ダンテおじさんは、両手を後ろに組んで、右に左にうろうろ歩きながら話を始めました。
「俺はさ、この世界を作った、実は、すごい人なのよ。わかる? 人間にはわかんないだろうけどさ、実は、俺って、すごい人なのよ」
なんだか、すごく人なれして、しゃべり方が人間のようで、私はすんなり聞くことができました。
「それがさ、ずぅ~っと昔に、神と閻魔が天国と地獄を作ろうとしたのよね。俺からしたら、ふざけんなって話なのよ」
話がものすごく昔過ぎて、私にはピンとこない。
「それにさ、俺が可愛がってた、ゼノンのガキが、寝返りやがってさ、寝首をかかれたわけさ。いくら俺でも、三対一じゃ、勝ち目がないもんな。それで、俺のことを闇の世界に封印したってわけ」
「それで、復習に来たってことですか?」
「まぁね。どういうわけか、闇の世界のバランスが崩れて、隙間ができたんだよ。だからさ、それを利用して地獄に戻ってきたってわけ」
話が壮大すぎて、ついて行けないけど、私は、黙って聞きました。
「それで、地獄を侵略しに来たんですね」
「そういうこと。でもさ、来てみてビックリだよ。そりゃ、アレから何万年も経ってるから、地獄だって変わっても不思議はないよ。でもさ、いくらなんでも、変わり過ぎだろって」
ダンテおじさんは、相変わらず歩きながら話を続けます。
「俺が知ってる地獄じゃなかったんだよね。それに、ガッカリしたわけ。だいたい、闇の世界に隙間ができることがあり得ない話だからさ、俺にとっては、もっけの幸いだったんだけど、来てみてその理由がわかったわけ」
「理由って、何なんですか?」
「血界が緩んでるのよ。一口に言えば、人手不足なんだよ。死者も亡者も少ない。鬼や番人たちも少ない。俺がいた頃は、もっとすごかったよ。毎日、鬼どもが死者を食い物にして、今よりもっと酷かった。それがどうだい。この様は。鬼どももおとなしくなったし、地獄が平和になってるし、何だこりゃって」
確かに、言われてみれば、地獄は平和だ。私のような人間から見れば、ここは地獄だし、毎日、地獄絵図のような光景を見ているけど、昔は、もっと酷かったんだなと思うと、ゾッとする。
「だからさ、最初は、昔に戻そうとして、地獄を俺が支配して、変えてやろうと思ったんだよ。早い話が、改革だな」
まさか、大魔王の口から、改革なんてセリフが聞けるとは思わなかった。
「鬼どもはもちろん、神や閻魔が俺に立ち向かってくると思ったんだよ。あの頃は、生きるか死ぬかの最終戦争だったからな。今度も、そうなるだろうと、俺は、期待してたんだよ。ところが、どうだい。自分たちは出てこないで、アンタみたいな
ただの人間をよこすなんて、期待外れもいいとこだよ」
そう言うと、ダンテおじさんは、肩を落として寂しそうな顔をした。
「それで、あなたは、どうしたいんですか?」
「そりゃ、俺を封じ込めたやつらは、許さないよ。恨みもあるよ。奴らに復讐しようとしたさ。でもよ、この現状を見て、そんな気は、なくなったね。大昔の恨みなんてきれいさっぱりなくなったよ。今更、復讐したところで、どうにもなんないからね」
どうやら、ダンテおじさんは、話がわかる人のようで、少し安心しました。
「でもな、だからと言って、また、闇の中に封印されるのは、まっぴらなんだよ。
アンタ、わかるかい?たった一人で、真っ暗闇の世界にいるのを・・・ 寂しいぞ。すごく退屈だぞ。想像できないだろ」
私は、黙って、頷きました。そんなの精神衛生上よくない。私だったらストレスで気が狂ってしまう。
「だからよ、復讐するのはやめた。アンタの言うとおりにするよ」
「ありがとうございます」
話がわかる人で、ホッとしました。これで、私の役目も終わりそうです。
「でも、アンタに会って、話を聞いて、気が変わった」
「ハイ?」
「やめろというならやめてやる。帰れというなら、帰ってやる。その代わり、俺にも条件がある」
「条件て?」
「それはね、アンタ、俺といっしょに来ること」
「えっ!」
「アンタのこと、気にいったよ。ただの人間の女が、一人でのこのこ俺を説得しに来るなんて、見上げた根性だよ。人間にしておくには、もったいない。アンタみたいな人間がいるなんて、思わなかったからな。だから、アンタが俺といっしょに来るなら、言うことを聞いてやる」
「それって、私も闇の世界に行くってことですか?」
「そういうこと」
そんな・・・ それは、無理でしょ。いっしょに闇の中に行くんですよ。しかも、たった二人で。それって、結婚するとか、奥さんになるとか、そういうことでもあるわけですよ。結婚するにしても、相手が大魔王では、できない相談です。
まして、好きでもない相手です。
「どうする、なぎさちゃん。俺についてくる? ついて来る気がある?」
「行かないと言ったらどうするんですか?」
「もちろん、地獄を侵略して、俺の世界にしてやるさ。閻魔も神も悪魔も、一人残らず殺してやる。それくらいの力はあるんだぜ」
「でも、三対一じゃ、あなたに勝ち目はないですよ」
「あるさ。アンタを人質に取ればいいんだから」
「私を人質に・・・」
「どうやら、アンタは、神にも閻魔にも信用があるらしい。一人で俺を説得させるなんて、そんな真似はよっぽど信用がない奴に任せたりしないもんな。それだけ、信頼されてるってことだろ」
「そんなこと・・・」
「ないっての? 確かに、ただの人間が俺を説得なんて無理に決まってる。場合によっちゃ、俺に殺されるもんな。奴らにとっちゃ、アンタみたいな人間の一人くらい、死んだところでどうってことはないだろう。でもよ、アンタは、俺の前に一人で出てきたんだぜ。俺は、アンタのその度胸に負けたよ」
褒められているのか、貶されているのか、よくわからない。
確かに、私は、社長たちの生贄にされたのかもしれません。でも、私を信用してのことだと思うと、ここは、一歩も引けません。地獄の平和のために、私はがんばると決めたんだから。
「わかりました。あなたと行きます。あなたと闇の世界に堕ちます」
「ホントに?」
「ハイ」
すると、今までうろうろしていたダンテおじさんは、足を止めて私を凝視しました。そして、しばらく黙って何かを考えると、そう言いました。
「わかった。それじゃ、今から、俺と闇の世界に行くぞ」
「今からですか?」
「善は急げというだろ。行くと決めたら、気が変わらないうちに行くんだよ」
「ちょっと待ってください。社長とか、お世話になって皆さんたちに挨拶くらい・・・」
「ダメダメ、そんなことしたら、気持ちが変わるかもしれないでしょ」
そう言われると、私は、返事ができませんでした。
「それで、どうする?」
「わかりました。行きましょう。今すぐに」
「よし、それで決まりだ」
私は、もう決めました。私を信じてくれた社長や専務たちのために、ダンテおじさんと闇の世界に堕ちます。
「そういうことだから、赤鬼さん、みんなによろしくね」
「なぎさちゃん、行っちゃダメだ」
「大丈夫よ。別に死ぬわけじゃないんだから、もしかしたら、また、いつか会えるかもしれないし」
「でも・・・」
「社長や専務、子供たちにもよろしくね。それと、短い間だったけど、楽しかったわ。ありがとう」
「なぎさちゃん、行くな。行かないでくれ」
赤鬼さんが止めてくれました。そして、私は、赤鬼さんに言いました。
「さよなら・・・」
それが最後でした。突然意識がなくなり、目の前が真っ暗になりました。
そのまま、私は、大魔王と闇の世界に堕ちていったのです。
「いけない、寝坊した」
私は、ベッドから飛び起きて、急いで出掛ける準備をしました。
今日も会社面接の日です。今日は、三社を回る予定なので、朝から忙しい。
朝ご飯なんて食べている時間がないので、コーヒーを飲んだだけで、面接用のスーツに着替えて家を出ました。
でも、この日も、やっぱり上手くいかなくて、ガッカリしながら大学の就職課によって、募集の掲示板を見に行きました。
まもなく大学の卒業式です。大学は、無事に卒業したけど、就職先が決まっていない哀れな女子大生の私は、崖っぷちにいました。就職課の掲示板で、次の面接の会社を探していると、部屋から先生が出てきました。
「おや、早乙女くん、きょうは面接じゃなかったかな?」
「行ってきました。その帰りです」
「それは、ご苦労様。それで、どうでしたか?」
そう言われても、私には、返す言葉がありません。
そんな顔を見て、先生は、優しく肩を叩きながら言いました。
「気を落とさないで、次をがんばればいいよ」
「ハイ・・・」
そうは言っても、今日で何社目だろうか・・・ もう、数える気にもならない。
そんな私に同情したのか、就職課の本郷先生は、こんなことを言いました。
「そうだ、キミに、いい会社を紹介しよう」
そう言うと、部屋からメモを持ってきて見せてくれました。
「もし、行く気になったら、ここに行ってみるといいよ。キミの気持ち次第だから、よければってことだから好きにしていいよ」
「ありがとうございます」
崖っぷち女子の私は、それをありがたくいただきました。
もちろん、行くに決まってます。もはや選べる立場ではない私にとって、就職できるならどこでもいい。
それくらいの気持ちでした。私は、本郷先生にお礼を言って、頭を下げました。
でも、顔を上げた瞬間、先生の姿が違う人に見えました。
おかしいなと思って、目を擦りました。目の錯覚かなと思いました。
先生の姿が人間には見えなかったのです。目が大きく、七色に光り、顔が歪んで、灰色の布をまとったバケモノか妖怪の姿に見えるのです。
「どうしたの?」
「いえ、何度もありません」
そう言ったものの、目の前にいる本郷先生が、人の姿に見えないのです。
それでも私は、何度もお礼を言いながらも、首を傾げながら、メモを持って、そのまま会社に行ってみました。
住所を頼りに電車を乗り継いで行ってみると、そこは、廃墟のような雑居ビルでした。壊れかけた外観は、もはやお化け屋敷のようにも見えました。
「ここなの?」
怖がりな私は、入るかどうしようか悩みながら、ビルの前をうろうろしていました。すると、壊れかけたドアが開いて、とてもきれいな女性が顔を出しました。
「あら、あなた・・・」
声をかけられた私は、ビックリして、足が止まりました。
「なにしに来たのかしら?」
「あの、会社の面接に・・・」
「フゥ~ン、また、来たんだ。記憶を消したはずなのにね」
その女性は、訳がわからないことを言いながら、ドアを開けて私を招き入れてくれました。
「あの、あなたは?」
「あたしは・・・ そんなの誰でもいいじゃない。てゆーか、あたしのこと、忘れたんだ」
私は、その女性の顔を見ました。私の記憶の中では、この女性とは会ったことはない。でも、なぜか、頭の中でモヤモヤした霧がかかったような感じが湧いてきました。
「まぁ、いいわ、入って」
そう言われて、中に足を踏み入れました。中は閑散としていて何も書いてないドアばかりが並んでいました。
でも、一歩、足を踏み出した途端、頭の中の霧が少しずつ晴れていくというか、体に稲妻のような電撃が落ちました。
なんだろう、この感覚。以前、一度来たことがある。この女性も見覚えがある。
私は、そんなことを思いながら、彼女の後をついて行きました。
「ここよ。このドアを開けたら、地獄だからね」
「地獄?」
「そうよ。覚悟は、いい?」
「ちょ、ちょっと待ってください。私は、会社に面接に来ただけで、地獄に来たわけじゃないんですけど」
そう言いながらも、自分の中で、なにか違和感を感じていました。
「そうよ。面接よ」
「あの、ちょっと待ってください。私、何か、思い出したことがあるんです」
「あら、思い出しちゃったの? 困ったわね。記憶を消したはずなのに・・・ ちょっと、あなた、そのペンダント?」
私の首にかかっている赤いペンダントを見て、彼女は驚いていました。でも、私は、こんなペンダントは知りません。
自分で買った覚えもないし、誰かにもらった記憶もありません。
「これって・・・」
私は、それを手にすると、頭の中で何かが閃きました。
そうよ。これは、あの人にもらったんだ。確かお守りとか何とか言って・・・
でも、誰だったのか、名前と顔が思い出せない。誰なのだろう?
「もしかして、思い出しちゃった? やっぱり、それのせいなのね」
意味深なことを言う彼女の話を聞きながら、後について行くと、一つのドアを開けました。
そこには、下に通じる長い階段が見えました。私は、なにかに誘われるように、階段を下りていきました。
すると、不思議なことに、一段ずつ降りていく度に、少しずつ記憶が蘇ってきました。
「あなた、もしかして、広報課のろくろ首さんじゃないですか?」
自然と口に出ていました。自分でも信じられません。妖怪に知り合いなんていません。
「あら、ホントに思い出しちゃったようね。そうよ、あたしは、ろくろ首よ」
そう言うと、前を歩く彼女の首が、ビョ~ンと伸びて私の体に巻き付いてきたのです。なのに、私は、驚くわけでもなく、目の前にある彼女の顔だけを見て微笑んでいました。
「思い出した?」
「ハイ」
そう言ったそばから、記憶がどんどん湧き水のように湧いてきて、いろんなことが思い出されました。
階段を下りる度に、記憶がどんどん蘇ってきたのです。
赤鬼さん、青鬼さん、五感王様、雪姫様、魔王ゼノン、神様、法の番人とそのお弟子さん、赤鬼くんと雪子ちゃん、
河童の赤ちゃんのカパコちゃん、ドクロくん、専務のエンマくん、そして、社長の大王様。
「思い出した。ねぇ、ろくろ首さん、どうして、私がここにいるの? どうして、生きているの? 私は、大魔王のダンテさんと闇の世界に行ったはずよ」
「あらぁ・・・ ホントに全部、思い出しちゃったのね」
ろくろ首さんは、困ったような顔をしながらも、うれしそうでした。
「教えて、どうして、私は、ここにいるの?」
「それは、大王様に聞いてみたら。それより、ホントにいいの? ここは、地獄の一丁目よ。戻るなら、今のウチよ」
「いいえ、戻りません。ここは、私の大事な職場だもん。私の大切な居場所です。また、戻ってこられるなんて思ってなかったから、うれしいんです」
そう言うと、ろくろ首さんは、優しい笑顔で何度も頷きました。
そして、私たちは、確かに見覚えがあるドアの前に着きました。ろくろ首さんがノックをすると、ドアを開けて言いました。
「大王様、やっぱり、戻ってきちゃいました。入れてもよろしいですか?」
「うん、いいよ」
私は、静かに部屋の中に入りました。そこにいたのは、懐かしい皆さんたちでした。
私は、一人一人の顔を見ていると、なぜか知らないけど、涙が頬を伝っていました、
どうして泣いているんだろう? 悲しいわけではないのに、何で涙が溢れてくるんだろう?
「やっぱり、戻ってきたのか。まぁ、無事でよかったけどな。なぎさ、俺を覚えているか?」
「専務・・・ ペンダント、ありがとうございました」
「だから、言ってるだろ。エンマでいいって・・・」
目の前にいる、イケメンの青年は、まぎれもなく、次期大王の専務のエンマくんです。
「あの、どうして、私は、ここにいるんですか?」
私の疑問を口にすると、社長に変わって、雪姫様が言いました。
「あの後、ダンテ様は、あなたを現世に返したのよ。その代わり、地獄にいたときの記憶はすべて消した。消したはずだったと言った方がいいかしらね」
「それじゃ、ダンテ様は?」
「大王様とも仲直りしたわよ。今は、魔界で悪魔王のゼノンとうまくやってるみたいよ」
「どうして、そんなことを?」
「さぁね。でも、ダンテ様は、言ってたわ。人間も、まだまだ捨てたもんじゃないって。地獄を救おうとしたあなたの覚悟に負けたって言ってたわ。なぎさ、あなたは、いいことをしたのよ」
そう言うと、私を優しく抱きしめてくれました。
「みんなが待ってるわよ」
雪姫様が言うと、社長室のドアが勢い良く開いて、子供たちがたくさん入ってきました。
「なぎさ!」
「なぎさ先生」
「なぎさちゃん」
それは、託児所の子供たちでした。鬼やバケモノ、妖の子供たちでした。
「みんな・・・」
私は、跪いて子供たちを抱きしめました。懐かしい子供たちでした。
みんな無事でよかった。
「お父様、なぎさが戻ってきてくれてうれしいわ」
「そうだな」
雪子ちゃんは、専務にそう言って、抱き付いてきました。
「雪子ちゃん、今なんて言ったの? 専務のこと、お父さまって・・・」
「だって、あたしのパパだもん」
今度こそ、腰が抜けるかと思いました。てことは、雪子ちゃんは、雪姫様と専務のエンマくんの娘ってことになる。
それじゃ、専務と雪姫様は、夫婦ということです。ビッグカップルじゃないか。
しかも、すでに娘がいるって・・・
私は、目が点になったまま固まってしまいました。
「まったく、なぎさは、えらい事をしてくれたもんだ」
仏頂面で言いながら、私を温かい目で見ているのは、五感王様でした。
私は、気を取り直して、改めて社長の前に進み出ました。
「お帰り、なぎさちゃん」
優しい笑顔で迎えてくれた社長に、私は、元気よく言いました。
「早乙女なぎさ、ただいま、戻りました」
終わり
私の上司は、エンマ大王。 山本田口 @cmllaaa
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