エッセイを語るエッセイ

犀川 よう

エッセイを語るエッセイ

一、はじめましてまたは日ごろお世話になっております。


 はじめましてまたは日ごろお世話になっております。犀川ようです。初対面な方に軽く自己紹介をいたしますと、二児の母で専業主婦(最近はアルバイト的に仕事請け負ったりしてます)です。大学で電子工学なんかを学んで就職し結婚みたいな平凡な人生の中であってもいろいろと人とは違ったことをやってきました。ちょっとやんちゃタイプです。

 作家歴としましては二十台半ばから二次創作の同人ゴロをやったり、その延長線上のご縁でゴリゴリの純文学系の商業作家の道を歩いたりと、ヘンテコな作家人生を送ってきましたが作家と仕事が両立できなくなり絶筆。去年カクヨムを始めることで十五年ぶりくらいにまた文章を書き始めましたブランク明け素人作家でございます。

 今回の自主企画「エッセイを書きましょう2024」の主催者をしておりまして、このエッセイともいえないエッセイを書かせていただいている次第です。役に立つのかはわかりませんがご笑納いただければ幸いです。


二、そもそもエッセイって何を書けばいいの?


 エッセイを書いたことがない方に軽く説明しますと、ぶっちゃけてしまえば「自分語り」です。自分が何かについてどんな事を思ったかをつらつらと書けばそれはもう立派なエッセイです。日記に近いかもしれませんが、読者にむけて書いているところが違うという感じでしょうか。

 このように、エッセイなんてご大層な名前ですが、とても気軽に書けるものです。「今日の朝食の目玉焼きは自分の好みドンピシャでした!」みたいなネタでも読者が読んで面白い(あるいは楽しい)と思えばOKなのです。


三、随筆とは。


 随筆は実在する人や出来事・体験について自分がどう思っているのかを書くことです。エッセイと違うとところは、必ず「事実である」ことです。ちょっと盛ったネタでもまあ構わないのですが、基本的には事実や現実をどう考えているのかを伝えるのが随筆であるわけです。


四、エッセイと随筆は何が違うのか。


 エッセイは語る対象が現実でなくとも良いです。自分自身の想像や脳内世界の事を書いても構いません。ただし小説のように完全に架空の話はダメです。あくまでも「自分が考えた事に対する想像の自由」であって、客観的な事実は曲げてはいけません。随筆はあくまでも本当にあった出来事について自分の考えを思うがままに書くので、書きたい内容があくまでもリアルなことに対してのみです。

 いずれにせよ、「何について」は違えども、「自分がどう思うか」についてはエッセイも随筆も変わりません。この点が小説と違う点ですね。


五、でも「エッセイ」を書くんですよね?


 そうなんですが、随筆もエッセイのうちといいますが、広義には両方含めてエッセイでよいとわたしは思っております。というのは、少なくともカクヨムの中では厳密にエッセイである作品はそんなに多くなく、随筆もエッセイもまざったり、そもそもエッセイではないものもエッセイになっております。このあたりに整合性や正当性を求めるよりも、「こまけえことはいいんだよ」精神で思ったことを書いてみればいいと思います。ちなみにこのエッセイもまったくエッセイの体をなしていません(笑)。

 まずは気軽に「こんなことがあってわたしはこう思ったんだよね」という感じのおしゃべり感覚で書いてみると面白いのではないかと思います。


六、たとえば……。


 面白くはないの我慢していただいて、「エッセイ的」なエッセイと、「随筆的」なエッセイの例として拙作を出させていただきます。(そもそもわたしがどういうエッセイを書いてきたかのご参考までに)。


「エッセイ的」なエッセイ=ある「対象」について自分がどう思うか。

絶望の書

https://kakuyomu.jp/works/16818093078272658565


「随筆的」なエッセイ=ある「体験」について自分がどう思うか。

カミーユ・モネの残像

https://kakuyomu.jp/works/16818093076412256117

台南のドミトリー

https://kakuyomu.jp/works/16818023214066637930

クレープシュゼットをもう一度

https://kakuyomu.jp/works/16818093075380761414


 結局のところ、エッセイというのは「評論」「エピソード」といったものに近いかもしれません。実際にカクヨムでエッセイに掲載されているものはこれらにかなり類似しているものが多いです。


七、結局「自分語り」でいいのです。


 わたしたちがエッセイと思っているはどちらかというと随筆に近い方です。わたしが例にしているように「今日こんなことがあってね……」みたいなストーリー系の文章は随筆の成分が多いです。ですのでこれをエッセイといっても差し支えないと思います。

 それに対してエッセイというものに厳密さを求めるとしたら、たとえば「お酒について」「今の日本の政治について」というタイトルで自分はこう考えるというのを論理的に展開した文書になります。これが本来のエッセイなのですが、ぶっちゃけわたしみたいな理屈っぽい人間以外、つまんないですよね。

 ということで、とりあえずエッセイは「自分語り」だと思って書いてみてください。ここまでがエッセイ初級者編になります。


八、ところがどっこい?


 さて、「エッセイってまあこんなもなのか」となんとなくわかっていただけたと思いますし、普通にエッセイを書いてカクヨムに掲載するのであれば、今までの説明どおりの作品で全然オッケーなのですが、前回のカクヨム9と同時開催であった「カクヨムWeb小説短編賞2023」のエッセイ・ノンフィクションの受賞作を見ると、そのままの考え方でエッセイを書いてカクヨムWeb小説短編賞に参加しても、ダメみたいなんですね。

 というのも、角川が求めているのはどうも「エッセイ」ではなく、「エピソード」あるいは「ストーリー」なんですね。もっとぶっちゃけてしまえば、「事実に基づいた小説」みたいなんですよ。

 それはなぜかといいますと、エッセイの短編賞を受賞すると、「コミカライズの検討」が入るからなのです。つまり、そもそもコミカライズできるエッセイを求めているわけですね。ですので、最初の方に出した「今日の朝食の目玉焼きは自分の好みドンピシャでした!」みたいなエッセイはコミカライズできないので、賞に対しては対象外になってしまうみたいなのです。


九、どういうことなんだ?


 暗黙の要求に対してそれを満たすものを書かないと賞は取れないわけで、参加者の大半が書いていた「わたしはこういう経験や体験をしました」というのエッセイは受賞には至りませんでした。わたしから見て「これは賞に値するような素敵な体験型エッセイだな」と思った数作があったのですが、すべてダメでした。

 さらに、「人生とはこうあるべきだ」とか「現在の経済についてこのように考察した」という本来のエッセイというべき形式の作品もダメでした。たぶん、コミカライズの台本としては不適なのだと推察しています。


十、どういうエッセイならいいのか。


 短編賞・短編特別賞の計8作を見て、わたしが思ったことから書いていきたいと思います。この形式で書いたのがよかったのではという推論です。


Ⅰ 王道ストーリー系エッセイ

 王道ストーリーとは「Aを(しようとする/した)とき、Bという障害や問題がおきるが、Cという出来事やアイデアによって、Dというハッピーな結果になる」というストーリーです。あれですよ。「悪役令嬢が~」とか「転生したら無双~」みたいな一連の流れがきっちりとしたタイプのものです。読者が結末を理解あるいは想像できるので安心して途中の展開にドキドキできる作品ですね。

 事実、前回のカクヨム8のコミカライズもこのようなタイプでした。今回のカクヨム9については、竹月さんの「スローライフは、延々と。」、南さんの「いつかの花嫁さん達に特別なウエディングドレスを」、朝吹さんの「病院のふりかけ」がこれに該当します。きわめてオーソドックスであり角川が求めているものに一番近いタイプになります。

 じゃあ、「このタイプでエッセイ書けばいいではないですか!」と思うでしょうが、残念ながらこの主のエッセイを書くには、しっかりとした構成力と文章力を持った人しか良いエッセイが書けないんですね。しかも大半の方は近いものも含め、このタイプで書かれているので競争率がとても高いのです。


Ⅱ 特殊技能/環境系エッセイ

 なかなか体験やその境遇になれない話を主としているエッセイです。薮坂さんの「実録警察24時! 〜ポンコツ警官危機一髪〜」やはるこむぎさんの「結婚相談所で働いてみたら……」がこれになります。

 特徴的なので興味を持って読まれやすい傾向にありますが、作者自身がその渦中にいるあるいはいたことがなければ書くことができませんので、狙って書けるものではありません。また、「いかに専門的な話しを面白く読んでもらえるか」という書き方や説明力を求められますので、これはこれでなかなか難儀なのです。


Ⅲ ペット等、誰もが感情を揺さぶられる題材系エッセイ

 ペットや赤ちゃんなど、誰が読んでも心が動かされるエッセイです。ロンズさんの「うちのわんこの話をさせてください。」がこれにあたります。

 ではウチのワンちゃんも! 猫ちゃんも! と思うかもしれませんが、これもまたIと同じく参入障壁が低い分、競争率の高い分野になり、上手かつ心のこもった文章を書かないと賞まで生き残れません。


Ⅳ トンデモ系エッセイ

 「エッセイなんてウケりゃあ何でもいいんでしょ!」というまったくもって邪道かつ外道な思想で「そんな体験だれがするねん」的な圧倒的ユニーク体験をエッセイにしたものです。えっと、わたしがこれですね(笑)。「(復刻版)今は専業主婦だけど、週末はホームレスをしていた話」というのを書いたのですが、まあカクヨムやっている人でこんなことした経験があるのはわたしだけですよねって話です。「これってネタなんじゃないか?」と疑われるくらいのパンチ力が必要なので、そもそも正常な生活をされてきた方には書くのが困難な分野です。


 分析すると上記のⅠ~Ⅳのいずれかが受賞できるエッセイ形式のようです。次回がこれに当てはまるかはわかりませんがご参考までに。


十一、不遇になったエッセイ


 以下の3タイプは内容が面白かったり文章が上手でも選ばれなかった分野です。カクヨムコン締め切り時点で☆総数で上位8位くらいまでが下記のタイプでした。


Ⅴ 一般的な体験型エッセイ

 普通に「こういう体験をして良かった/辛かった」というのは残れませんでした。誰が読んでもものすごく良いエッセイでも、やはりコミカライズするストーリーにするには難しいのだと思いました。売れる売れないの要素も考えての事でしょう。


Ⅵ 笑いを取りに言ったエッセイ

 めっちゃ面白いエッセイがたくさんありましたがⅤと同じ理由でダメだったのだと思います。


Ⅶ 小ネタ集のエッセイ

 また、一発ネタといいますか面白い話を小ネタ的に複数話書いた人も軒並みダメでした。これは全タイプを通して言えることなのですが、「一貫したストーリー仕立て」でないと賞は難しいということのようです。


十一、カクヨムWeb小説短編賞のエッセイ対策まとめ


 以上のように角川の意向に(結果的にせよ)マッチしたエッセイが残った感じです。

 しかしながら、賞を目指して書くだけが目的ではありませんし、自分なりのエッセイで角川に認めさせるのもアリなわけです。まずはみなさんがどんなエッセイを書きたいかを定めるのが大事だと思います。

 また、複数作応募できますので、どうやっても賞を目指したい方はⅠからⅦまでを使い分けて出すのもアリかもしれません。受賞できる作品は全体の0.45%。「カクヨムWeb小説短編賞2024」のエッセイ・ノンフィクション部門に参加される方は今回と前回の受賞エッセイを読んで自分なりに傾向と対策をしてみるといいと思います。


十二、エッセイを舐めてはいけない


 いきなり話は変わりますが、小説を書いている人にとってエッセイは一段下のものであると思われている節があります。他の小説短編賞の扱いにしか思っていないのかもしれません。

 しかしながら、その考えは今日をもって改めて頂きたく思います。

 まず、エッセイというのは何度も申している通り「自分語り」なのですが、そもそもこれを誤解しています。女性ならイメージつくと思いますが、自分をよく見せようと「俺、すごいんだぜアピール」してくる男性っているじゃないですか(笑)。あれをエッセイだと思っている人が少なからずいるんですね。

 そうではありません。エッセイには、いかに自分の考えを論理的に展開しながらも読者に面白く読んでもらうかの技術が必要なのです。これは小説みたいにウソ物語をキャラ立てて展開させていく力とはまったく別物の能力を要求されるのです。先程の男性のたとえに習えば「いかに女性を惹きこめるトークができるか」みたいなものが必要ということでしょうか。

 それには、①題材の選定。②エッセイの全体構成。③論理的展開。④読者に面白いと思ってもらえる小話やボケという文章を書く。などの総合的な力がいるのです。そして物事の整理能力やコミニュケーション能力もないと、言いっぱなしのエッセイになりがちです。

 たかがエッセイ、されどエッセイです。上手で魅力的なエッセイを書く人は小説においても筋の通った物語を書かれます。逆にいえば何も考えずに小説を書いている人には良質なエッセイを書くのは難しく感じると思われます。話としては面白くとも、それを適切かつ的確に表現する力は小説の何倍も必要なのです。しかも難しい言葉ではなく、簡明な言葉で表現しなくてはなりません。今回受賞者の作品を読んでみると、高い文章力や対話スキルありきだということがよくわかると思います。

 

十三、全体のまとめ


 エッセイは誰でも書けますが、奥深いジャンルでもあります。しかもインテリジェンス的な意味での頭の良し悪しが文章にダイレクトに出てしまうという怖さもあります。

 ですが、エッセイは小説と違い、読者により近く触れ合う機会を作ることができます。わたしも前回のカクヨムコン9のエッセイを書くことで新たな作家さんや読者さんと交流を持つことができ、その人たちの作家としてだけではなく人間性にも触れることで多くの学びがありました。

 みなさんにもエッセイを通してそういった小説では得られないものを体験してほしいなと思う次第です。まずはこの企画で一緒に練習をしていきましょう!


 おしまい


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