幕間

「あれ、またこの高校負けちゃったよ。毎年出てんのに、毎年負けてるよ。しかも全部一回戦」

 ソファに寝そべった男が言った。

 五〇インチの大型テレビジョンには、必死になって汗を流す高校球児が映っていた。涙を流しているチームは、監督を含め全員が丸坊主だった。顔面をぐしゃぐしゃにしながら、地面の土をかき集めている。

 反対に、笑顔で喜びあっている球児たちは全員がおしゃれに髪型を楽しんでいるようだった。今は、気合いや根性という練習スタイルよりも、野球というものを心から楽しんだ方が強いのかもしれない。

「でも毎年甲子園に出てるなら、それだけで凄いことなんじゃないの。大変なんでしょ、甲子園に出場するのって」

 洗い物を終えた女が、手を拭きながら言った。

「そりゃそうだけどさ。でもせっかく出たのにすぐ負けちゃうのはもったいないだろ」

「しょうがないじゃない。勝負ってそういうものなんだから。勝つときもあれば負けるときもある。それがスポーツでしょ」

「そんなものかね」

 男は楕円形の薄いテーブルの上にある、ガラスコップを手に取った。中には麦茶が入っていて、飲み干すと、底にいくらが数十粒沈んでいた。

「なんで、いくらなの?」コップの底を覗きながら男が言った。

「麦茶だけじゃ、塩分が足りないでしょ」

「塩分だったら他にもあるよね。いくらじゃなくちゃだめだったの」

 女は答えず、終わったはずの洗い物を始めた。

 窓の外を見ると、無数の星が見えた。数え切れないこの星のうち、生命体が存在しているのはどれくらいなのだろう。

 そんなことを考えながら、男はコップに入ったいくらを数粒食べた。

「醤油無い?」男が言った。

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大山奥村大騒動 中野半袖 @ikuze

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