第3話 潜入ヤーさん家
「蠣崎巡査長、アレは始末したかね?」
「ハッ、確実に始末致しました」
「よろしい、では職務に戻りたまえ」
「ハッ、失礼致します」
「お疲れ様です蠣崎先輩。これ、差し入れです」
「おぉ
「少し休んだら如何ですか?そんなワーカーホリックだと恋人も出来ませんよ?」
「俺は仕事が恋人なんでな」
「末期じゃないですか。何なら私が......」
「おっと時間だ、続きはまた後で聞こう。いつも差し入れ有難う、それじゃあ!」
そう言うと蠣崎は陸奥をおいて出掛けて行ってしまった。恐らくパトロールだろう。走って行き、遂には見えなくなってしまった
「はぁッ!先輩とお話しちゃった、如何しよう!ちゃんと録音できたよね!?『いつも差し入れ有難う!』あ゙^〜生き返る^〜」
普段から感情をあまり表に出さない安東はかなり前から蠣崎に恋愛感情を抱いていた。その優しさ、強さ、性格、顔、etc......全てが完璧だった蠣崎を一目見た瞬間から惹かれ、気付くとこんな厄介オタクに成ってしまっていた
「今夜のオカズはコレだな、ぐへへ」
安東は政府公認高校を卒業後直ぐに執行官候補生として働き始めた。十八歳、執行官候補生となって数ヶ月、彼女は“彼”に出会ってしまった。そこからは前述の通りである。その時から貯めに貯めた『蠣崎ヴォイスコレクション』は今では立派な安東の安眠グッズの一つになっていた。なってしまっていた
「先輩は仕事詰めか......確か昨日も異能犯罪者を仕留めたって言ってたなぁ」
「私も、先輩と一緒に......うへへへっと危ない危ない顔が崩れちゃう。お、これかな?」
安東が『収納』の穴から取り出したのは一枚の書類、いや“カルテ”だ。書いてある名前は
「転身、空」
名前 [転身 空] 性別[女] 年齢[21]
診療日 [2310年 3月14日]
病名 [ ✖︎ ] 治療方法 [ ✖︎ ]
戸籍を調べてもなんて事も無い一般家庭の一般人の女。だが何故だろう、胸がざわつく。いったい何故?分からない
安東は何故こんなにも胸がざわつくのか分からなかった。だが、その原因は直ぐに見つかってしまった
「デッッッッッッッッッッッッッ!」
身長、体重が記載されている欄にスリーサイズが載っている。
身長[147cm]体重[49.0kg]
(※これらは全て転身が寝ている間に測られたものである。)
そこのバストサイズを見ると何と脅威の“Iカップ”。カップとはトップバスト(一番出っ張っている部分)とアンダーバスト(乳房の下)の差の事。Iカップはその差が三十センチ程もあり、何と胸だけで凡そ三千八百グラム、つまり二リットルペットボトル飲料四本分に近い重さ、果物に例えるなら小玉メロン二つを背負っている事になる。そりゃ肩凝るわ
「......。」
安東はそっと自分の胸に手を当てる。コンコンと音が鳴りそうな程ガッチリとした胸板が哀愁を誘う
「わ、私の方が装甲硬いし、別に羨ましく無いし......そもそもあんな重い物仕事邪魔になるだけだし!」
そんな風に言っているが実際には泣き出しそうな程悔しい。目から汗が出る
「はッ!私とした事が端ない、落ち着いてスゥー......ふぅスッとした」
収納から取り出したハンカチの匂いを嗅いで落ち着いた。これは昨日蠣崎が使っていたハンカチだ。偶々ポケットから落ちたそれを安東は見逃さない。ハンカチの真下に穴を生成、回収。誰も見る者はいない完全犯罪である
「さて、私も仕事しますか。今日は異能暴力団検挙......令状も収納しておこう」
そうしてお昼休みの時間が終わり安東は再び仕事場へと向かっていったのだった
______________________
「大笑さん今日はよろしくお願いします」
「wwwww-_-b」
うん分かんね!さっぱり何を言っているのか理解出来ない。辛うじてジェスチャーで“よろしく!”的な事を言っているのは分かる
今回の依頼は比較的安全な『調査依頼』だ。何を調査するのか、それは
「家庭調査ですか?」
「そうらしい。まぁ金を出されたらやるしかないな」
「そういうのって探偵の仕事じゃないですか!」
「......『会社の命令は』」
「『絶対服従』。ですよネー......はぁ、やりますよ」
「後君金返せよ、またパチンコで溶かしやがって!返せなかったら利子付けるからな」
「そんなご無体な!?」
「借りたお前が悪い」
「御慈悲を〜!」
「私に慈悲はない!分かったらさっさと行ってこい!」
「ぐェッ!」
怒木さんに蹴飛ばされて開いていた窓から勢い良く飛び出す。因みにだが会社のビルはごく普通の其処ら辺にある裏路地の奥の奥の奥、旗竿地に立地している。この極狭の土地で窓から出ると迫って来るものといえば?そう、壁である。抗いきれない慣性で壁に吸い込まれていく。か弱い私はこのままビル壁に叩きつけられてこの物語は終了、みかん大福先生の次回作にご期待下さい。なーんてそんなつまらないもの認められるはずがない
さぁさぁお立ち合い、御用とお急ぎでなかったら、ゆっくりと聞いておいで。
先ず私の異能は『変身』ではなかった。え?「前回散々「†これがッ私のッ異能!†」とか中二病拗らせてたのに?プギャーwwwwwwm9(^Д^)」だって?しょうがないじゃん異能に関して私は赤子同然、新生児なのだから。話を戻して、正確には『変身』ではなく『
変化とはつまり、他のものに変身し化かして騙す事。“騙す”←これ重要ね
ただ変身しただけじゃ癖とかで本物じゃないって見分けられるけど、私がその気になれば私が変化した物に対して違和感を抱くことはなくなる。つまりは本物と認識するようになる。私が何かに変化したとしても気にもしなければ気づきもしない
さて、説明はそろそろ終わりにして着地しようか。私は風に吹かれて飛んでいくチラシを思い出す。すると身体が段々縮んでいき、遂には薄っぺらい一枚のチラシへと変化した。これ意外にも楽しい。あれだ、勉強で出来なかった事が出来る用になるあの爽快感に似てる
「よいしょ」
掛け声と共に変化を解くと、やはり先程と同じように段々と身体が変形していき元の身体へと戻った
「今回の依頼は大笑も行くからな!」
「え〜!?聞いてないですよ!」
「言ってねぇからな!大笑は初見だと話が通じねぇから何時もは喜芳が一緒にいたんだが、今日は別の依頼がある!」
窓枠から怒木が大声で叫ぶ。何と依頼は二人で受けなければいけないらしい。初めてのペアで依頼かぁ、結構楽しみかも!問題は話ができるかどうか
「ほらさっさと行け!」
「はぁい、行ってきまーす」
この異能は移動面でもかなり便利だ。鳥に変化すれば徒歩とか車とか面倒くさい事なんかしなくていい。目的地までひとっ飛びだ
「フゥ↑気持ちいぃー!」
この気持ちよさが分からない人はなんて哀れなのだろうか。人生一度きり、やらないなんて勿体ない!一回でもやってみな、飛ぶゾ⤴︎
「次の所は......」
「おや、あんな所に野生のイケメンナイスガイが」
急いで走っているスーツ姿の男は何故か私の頭に妙に印象に残った。多分イケメンだからじゃね?
という事で到着、速いね。んで冒頭に戻る
「大笑さん今日はよろしくお願いします」
「wwwww-_-b」
「ア、ハイヨロシクデス」
「www!wwww(੭ ᐕ))?」
「アー.......日本語でおk」
「w!?」
意思の疎通ができない......いや正しくはできてるんだろうけどそれが一方通行なんだよね
「依頼場所ってここで合ってますよね?」
「wwww(・ω・)b」
肯定かな?だとしたら今すぐにでも帰りたいな。家庭調査ってこの家庭、完璧に
「こんちゃー!萬屋『アキエド』ですけどもー」
『......あァン!?どこの組のモンじゃいワレェ!』
「ア、エトい、依頼!依頼のご用件で!」
『立て込み中じゃ!失せろ!』
「ワァ......ァ......」
私の声量はデクレッシェンドの様に小さくなっていく。これがホントの門前払いってね!......どうしよ、キャンセル料金貰わなくちゃ怒木さんに叱られちゃう。それに借金も返せない!マズイ、非常にマズイ!
「......大笑さん?」
「ww(*‘ω‘ *)?」
「この門ぶち破れますか」
「www(๑•̀ㅂ•́)و✧グッ!」
“任せて!”って言ってるように感じる。多分合ってるハズ。次の瞬間、門は大笑さんのキック一発で吹き飛んだ。ドカーン!と漫画の様に飛んでいく扉を見るのは気持ちがいいなぁ、特に他人の家のは格別だ
「ありがとうございます」
「
「!? 今何か聞こえた!?」
「
なぁにこれ?私の耳がおかしくなった訳では無さそうだけど、明らかにおかしい。笑い声の中から声が聞こえる!これ大笑さんの声!?何だこの喜芳さんに負けず劣らずのイケボは!
「今の大笑さんでせうか?」
「
「うェ、二重に聞こえて耳が慣れないぃ」
「
「いや無理っす、頭おかしくなります」
「
「どこに驚いてるんですか!私はまともですよ、ま・と・も!」
「|wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww《まともだったら会社の代表に借金するわけないんだよなぁ》......」
「ウ、否定できない......」
門を蹴破り大笑さんと少々お話をしていると、音に気が付いたのか屋敷の中からサングラスをかけたどう見てもカタギじゃない人物がタバコを吸いながらが出てきた
「ふぅ......あんさんら、カチコミに来たのかい?」
「少なくともカチコミじゃないです。萬屋『アキエド』です。御依頼下さりましたのは貴方ですか?」
「今は忙しい、ウチの
「イエアノ、依頼のキャンセル料についてなんですけどぉ......」
転身が言葉を続けようとした瞬間、サングラスの人物が出てきた扉から人間がぶっ飛んできた。今度は何だと飛んできた場所を見ると其処には顔にデカい傷跡のついた老人が立っていた
「おぉ、叔父貴無事ですかい?」
「こんな若ェ
「そりゃあ良かった。危うくワイが組長になっちまうところでしたわ」
「阿呆言うな、儂が生きとる限りは儂が組背負って行かなきゃならん」
ヤーさん同士の会話怖!絶対あの人組長と若頭じゃん。今のうちに媚び売っておこうかな
「アノ、萬屋『アキエド』ですぅ。い、依頼についてなんですけど」
「あぁ、スマンな嬢ちゃん。今若ェのが儂を蹴落とそうと必死に群がっておってのう。鬱陶しいったらありゃせんわ。調査、頼むで」
頭に
「依頼って御家庭の調査だった様な気がするんですが......」
「おう、そのまんまの意味さ。家調べて叔父貴を蹴落とそうとする奴の正体、調べたってくれるかい?あんさんらにこの“
お、重い!荷が!重い!!てか竜駕組って政府の指定暴力団じゃないですかヤダ〜
「儂は竜駕組組長、
「紹介された赤刎だ。宜しくお嬢」
「ハ、ハジメマシテ。萬屋『アキエド』所属、転身空と申します、ハイ」
「
「何で其処の男は変な仮面被って笑っとるんじゃ?薬やっとるんか?」
組長の困惑の声が上がる。そりゃそうだわ、突然ガタイのいい男が笑い始めるの怖いし
「エト、彼は大笑幸といいます。私と同じアキエドの社員です」
「まぁ仕事ができるなら何でも良いがの」
良いんだ。受け入れられずお引き取りをと言われるよりはマシだね。さてと潜入の準備しなきゃ
「ヘ、変装してくるので少々お待ちを」
「手洗いは玄関の突き当たり右だ」
「ア、ありがとうございます......」
ふぅ、落ち着け落ち着け。変化すれば私は大丈夫なはず。取り敢えずさっきの野生のイケメンナイスガイの顔を借りよう
「これでよし」
声帯も変化させてっと、よし完璧だ!どうだこのどこから見てもどこにでも居る一般人は!
「お待たせしました」
「おう嬢ちゃん変装つっとったがどんなのにッ!?」
刻宗さんに声をかける。振り返った瞬間警戒態勢を取られた。こっわ!これ殺気!?
「叔父貴後ろへ!“異能殺し”、お嬢をどこへやった!」
「ア、赤刎さん私です!転身ですよ」
咄嗟に声帯を変化させ、元の声に戻す
「......? お嬢、なのかい?」
「エト、まぁはぁい」
「......ぷはぁッあ゙〜焦ったわ〜!」
「ス、スミマセンデシタ」
「いんや、ワイが見抜けなかったのが悪い、申し訳ねぇ。それにしてもすげぇな、気配まで一緒だ。叔父貴気づけたか?」
「儂も老いたな、全く分からんかった。嬢ちゃんやるのう、完璧な“異能”じゃ」
「ア、異能って気づいてたんですか」
「当たり前じゃ。儂を騙せるのは異能くらいじゃろうて」
いやあさすが組長、面構えが違う。歴戦を掻い潜ってきた猛者なだけあるなぁ(推測)。赤刎さんも口調が最初より柔らかくなった。これが素なのかな?
「じゃがそやつになるのだけはやめよ。裏の方では有名人じゃからの」
「
「何て?」
「“そんな有名何ですか”と言ってます」
「有名なんて物じゃない。知らない方が珍しいぞ」
「ヘ、へぇ〜......じゃあ別のに変化します」
「おう、そうしな」
何がいいかな。いっそのこと人じゃなくてもいいんじゃないか?ん〜潜入できて目立たなくて移動できる物......あ!
「私が赤刎さんの服になれば良いのでは?」
「物にもなれるのかい?」
「はい一応は」
「なら決まりじゃな、赤刎と大笑の二人で組内の派閥を調べろ。儂は下っ端共の後片付けでもするかの」
「あんま気ィ張るなよ、また腰やっちまうとワイらが大変なんでな」
「わぁっとるわい」
ヤーさん同士の会話最初は怖かったけど、いざ聞いてみると面白いな。そう思いながら私はジャケットに変化した
「おおピッタリだな」
袖を通されると体中に赤刎さんに染み付いたタバコの匂いが私にも移っていく。くんくん、ウッこの妙に甘ったるい香りは!?......ガラムか!ウエ〜嫌いな銘柄だ〜このバニラっぽい匂い、絶対タバコには合わない。因みに私は普段赤マルを吸っている
「アノ、赤刎さん?」
「なんだい?」
「ガラム吸ってますよね?」
「? いやワイは今も昔もブラックデビルだが」
「不味いには変わりないじゃないですか」
「ワイは甘党なんでな、不味いと言われようがワイにとっては命の次に大切なんだわ。何よりタバコがないと死ぬ」
「それはそうですね」
タバコは大事、これ結構マジで。吸わないと集中できない時とかあるし身体がニコチンを求めてゾンビの様に這ってたりする時もある
「さて行こうか」
「
「やっぱ分からんな、お嬢できれば今後も翻訳たのんます」
「了解です!」
そうして私たちは竜駕組内調査を始めたのだった
_________________________________________
異能系の小説ってなんかいいよね、趣がある
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胸がおっきくてクズでカスな娘 みかん大福 @mine0217
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