第2話 駐在さん、女子高生と神楽原資料館の調査をする
■
休日の神楽原戦史資料館はまばらに人が来ている。
駐車場も空いているので、僕は車を止めて資料館にれいなちゃんと共に向かった。
「ふぅーん、初めてきたけど人があんまりいないのね」
「はははは、田舎の資料館というのはこんなものだと思うけど、他の街はどうなんだろう?」
「名古屋市博物館とかすごい混んでいるわよ~」
「れいなちゃんは名古屋から来たんだ」
「違うわよ、こっちに何もないから名古屋へ遊びにいくだけー」
「何もない……は否定しきれないなぁ……」
僕らが資料館に入るとじいちゃんである館長がやってくる。
「宗一郎、とめさんには……おお、もしかして、れいなちゃんか? 大きく美人になったのぉ」
「館長さん、お久しぶりです。祖母がお世話になってます」
ペコリとお辞儀をして、丁寧に対応するれいなに僕はちょっと驚く。
「じいちゃん、詳しい事件というか起きたことについてちゃんと話しを聞かせてもらえる?」
「ここじゃあ、なんだから館長室ででもな」
じいちゃんに案内された僕らは館長室に向かった。
館長室には古い文献等があり、やや埃っぽい。
パイプ椅子に腰かけた僕らはじいちゃんに出されたお茶にを口付けながら話を聞く。
「二日ほどまえじゃったんだが、閉館時間になると人がいないのに誰かに見られている気がしてのう」
「たしかに、強い霊気が充満していますね……原因になるようなことは何か思いあたりません?」
「ふぅむ、これと言って思い当たる節はないのぅ」
「近くを通る住民からは、甲冑が動く音みたいなのを聞いたって人もいるし、鎧武者の幽霊を見たって人もいるね」
れいなちゃんの問いかけに僕は聞き込みをしたメモを開いて伝えた。
今日、れいなちゃんに会う前付近の住民から話を聞いてはいる。
全てを信じることはできないけれど、最初から証言を否定しては捜査があらぬ方向に行くものだ。
「目撃時間が夕方から夜なら、出直した方がよさそうですね。今はまだ昼間ですし……」
「それじゃあ、せっかくだから資料館を見ていっておくれ。若い子には歴史を知ってもらいたいからねぇ」
「えーっと、はい……わかり、ました」
れいなちゃんは本当はどこかで暇をつぶしたいと思ったのだろうが、じいちゃんに笑顔で進められては断られずに頷くしかない。
「僕は一旦、駐在所へ戻って緊急の用事がないか確認してくるよ」
「あ! お兄さん、これ持って行って……あと、連絡先の交換も」
僕が席を立って離れようとしたとき、れいなちゃんはブランドバックから、お札と同じように似合わない人型の紙人形を渡してくれた。
連絡先を交換している間に僕は紙人形について尋ねる。
「この紙人形って、もしかして良くある身代わりみたいなやつかな?」
「そゆこと。事故やトラブルに合わないためのお守りとして持っててよ」
「うん、わかった。ありがとう、れいなちゃん」
僕は笑顔でれいなちゃんにお礼をいって、館長室を後にした。
◇ ◇ ◇
書類を片付けたりしてから、車に乗り込む。
既に日は沈んでいて、あたりは暗かった。
車の時計を見ると、夜19時になっていた。
「かなり遅くなっちゃったな。休みといっても駐在所勤務だと雑務がたまりやすいのはネックだよね」
落とし物を届けに来てもらっても、そこに僕はいないので連絡先を書いてもらって僕の方から連絡したりなどもやったりする。
こうなると、恋人やお嫁さんを貰って駐在所の仕事を手伝ってもらうというのがいいんだけど、あいにく生まれてこの方、そんなご縁はなかった。
あれ、おかしいな……目の前が曇ってきたや……。
涙をぬぐって、車を走らせて資料館に向かう。
駐在所から資料館までは10分くらいの距離なのですぐにいけるはずだ。
「お腹すかしているだろうから、調査が終わったら今日のお礼代わりにコモダ珈琲でご飯を奢ろうかな」
車を走らせながら、僕は呟く。
れいなちゃんは今日あったばかりの女子高生ではあるものの、話せるいい子だとわかったので気が楽だった。
仕事中にご飯を奢ると問題はあるけど、今日は非番だからいいだろう。
そんな風に思っていたら、大通りから資料館に向かう横道へ右折して入ると、目の前に青白い火の玉の列が見えた。
まるで飛行機の誘導灯のように伸びるその列へ吸い込まれるかのように僕はハンドルを切って車を走らせる。
そこには僕の意思はほぼなかった。
霊に取り憑かれやすい駐在さんは、町の平和のために手段を選ばない 橘まさと @masato_tachibana
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