異世界に彷徨ってみる

@sukoshizutsu

第1話 意味不明の最期

 日本人もすなるラノベというものを外人もしてみんとてするなり。


 と卑怯な保険をかけて物語を始めようとしてはいるものの、俺の頭の中にプロットもできていなければ、キャラも立てていない。ただ徒然つれづれなるままに思い浮かんだことを綴ろうと思う。


 四年も引き篭もった俺には、人との交わりは皆無、言語を忘れてしまうのではないだろうかと心配するほど、この4年間、ほとんど会話をしてこなかった。


 だから、言語を忘れないためにも、今、ここで己の内面に向き合い、物語に託けてな話をしたい。


 今更、記憶の海の奥深くに沈んでいる澱の中のものでないと、そもそも話すのも億劫なのだから、まず酒に頼って追憶に相応しい気分になっておかないとな。


 おや、酒がないではないか。仕方あるまい。出掛けて買ってくるとしよう。そう、俺は引き篭もりではあるが、食べ物と酒の買い出しのため、三日に一度外出せざるを得ないのである。情けないことだが、それが外界との唯一のささやかな繋がりなのかもしれない。


 コンビニへの途中、仄暗い街灯に照らされた月見草のいじらしい姿を見やり、目の前人波が大層低く遠く感じられ、街の光はいと淡く色褪せ、銀河の如く遠ざかっていく。


 やがて、この世のあらゆるものとの間に、決して詰めることのできない哀しい距離ができてしまった。


 動悸を感じ、息が荒くなった。その息は白く、空に浮かんでゆく。


 白く?夏なのに。そういえば、今日はこんなに寒かったっけ。街灯も、月見草も、人波も、街の灯火も、皆飛行機の尻尾に付いている煙のように、歪みながら伸びていく。

 

 焦ってそれらに追いつこうとしたが、進めども進めども、何の甲斐もなく、真黒ぬばたまの夜に、俺は染められていく。


 寒い。意識の切れ切れは、水飛沫のように跳ねては、水面に落ち、夥しい小さな細波さざなみを起こした。その一つ一つの細波に、俺の来し方のすべてが、一瞬にして映ったのである。


 これは走馬灯なのか。訳分からない。やっと自分の物語を書いて、心を開けっ広げに晒そうと決心したのに……


そもそも、俺は何のために家を出たのだろう。


 あっ、そうだ。酒、酒だ。

 

 思えば、全ては酒がいけなかった。


 それが、俺の人生の最後のセリフであった。

 

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