第8話 決断の時

レコード店の静かな空気の中、俺は深い息をついた。今までの過去の断片と、母が未来のために選んだ犠牲の意味が少しずつ繋がり始めている。けれど、まだ自分の中で答えが出ていない。俺は何を選ぶべきなのか――それが今、重くのしかかっていた。


「進む道が見えたか?」


店主の静かな声が、思考を中断させた。俺はその声にゆっくりと頷いた。


「母が俺の未来を守るために、犠牲を払ったのはわかった。でも、それだけじゃまだ何かが足りない気がするんだ。俺が選ぶべきものが、何なのかがまだはっきりしない。」


「そうだな。お前がすべての真実を知るには、最後の一歩が必要だ。」


店主は深い瞳で俺を見つめ、そっと手を伸ばして最後のレコードを差し出した。いつもと同じように、何も記されていないレコードだが、これが俺にとっての最終的な答えを導いてくれるものだと直感的に感じた。


「これが、お前にとって最後の過去だ。だが、ここから先はお前の選択次第だ。」


俺は黙ってレコードを受け取り、レコードプレーヤーにセットした。音楽が流れ出し、周りの世界がまたしても歪んでいく。目を閉じると、再び過去の世界へと引き込まれていった。


目を開けると、そこは以前と同じ母の家だった。だが、今回は違う。家の中にはかすかな音楽が流れ、窓の外には穏やかな光が差し込んでいた。何かが変わったのだ。俺はゆっくりと部屋の奥へと歩き、そこで母の姿を見つけた。


「晴、来てくれたのね。」


母は静かに微笑んでいた。彼女の表情はどこか落ち着いていて、以前とは違う穏やかな雰囲気が漂っている。


「母さん…俺、ようやくわかったよ。母さんが選んだことも、そして俺が選ばなきゃいけないことも。」


俺はそう言いながら、心の中で固まった思いを口にした。母が選んだのは、自分の時間を犠牲にして未来を守ることだった。だが、その代償を払った結果、俺は母と本当の意味で繋がることができず、彼女は早くにこの世を去った。


「あなたがここまでたどり着いたこと、私はとても嬉しいわ。」


母の言葉に、俺の胸が熱くなった。彼女が俺のために選んだ道、それは彼女自身の幸せを犠牲にして俺の未来を守ることだった。そして今、俺もまた同じように選ばなければならない。


「でも、俺は…母さんが犠牲を払わずに済む未来を選びたいんだ。俺は、母さんともっと一緒に過ごしたかった。」


母は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに優しく頷いた。


「そうね。私が選んだのは、あなただけの未来を守ることだった。でも、あなたが何を選ぶかはあなた次第よ。」


「もし俺が母さんの犠牲を避ける未来を選んだら、それでも未来は守られるのかな?」


俺の問いに、母はしばらくの間、じっと考え込んでいた。そして、静かに口を開いた。


「選ぶことには、必ず何かを失う代償があるわ。どちらを選んでも、完璧な未来は存在しないかもしれない。でも、あなたがどの道を選ぶかが大切なの。」


俺は深く息を吸い込んだ。未来を守るために母が犠牲になった道を選ぶか、それとも母との時間を取り戻すために、別の未来を選ぶか――。


「母さん、俺は…」


その瞬間、景色が揺らぎ、すべてが一瞬にして白い光に包まれた。


気がつくと、俺は再びレコード店に戻っていた。音楽は静かに止まり、店主がこちらをじっと見つめている。


「決断は、できたか?」


俺はゆっくりと頷いた。選択の結果がどうなるかはまだわからない。だが、母が選んだ道を踏まえ、自分の未来を見据えて、自分自身の決断を下した。


「俺は、母さんが犠牲を払わない未来を選んだ。未来がどうなるかはわからないけど、少なくとも母さんと一緒にいられる道を選びたいんだ。」


店主は微笑み、静かに頷いた。


「それが、お前の選んだ道だ。未来はまだ確定していない。だが、お前の選択が新しい運命を作ることになるだろう。」


俺は深く息をつき、店を後にした。今はただ、自分が選んだ未来に向かって進むだけだ。母がどのように俺を守ろうとしていたのか、その全貌を知ることはできた。そして、俺は自分の道を選んだ。それがどうなるかは、これから先の俺次第だ。


数日後、俺は父と話をしていた。これまであまり話すことがなかったが、今は少しだけ打ち解けた気がする。母が選んだ道、そして俺が選んだ道、その結果がどうなるのかはまだわからない。だが、俺は今、自分の選んだ未来を歩んでいる。


母の選択を尊重しつつも、自分の選択を信じて進む。これから先、どんな未来が待っているのか、それは自分の手で切り開いていくしかない。

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夢見るレコード店 〜過去を紡ぐメロディ〜 星野チーズ @hoshinocheese

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