第62話 先回り(主人公+山本先輩視点)
扉を蹴り飛ばした勢いのまま飛び出すと、遠い記憶にある水門小屋が正面に見えた。
だけどそこに聖一や山本先輩の姿は無く、ヘリコプターがすでに上昇を始めていた。
「間に合わなかったか! いや、まだジャンプで届く――」
「寄せ! 危険だ!」
高橋さんが腕を掴んで飛び上がろうとした俺を止める。
上昇を続けながら二人を乗せるために使ったと思われる縄梯子を機内に引き込み、すべてを取り込んだ後、開いていた扉が閉まった。
その時、機内にいる聖一と山本先輩が見えた。笑顔の。
「クソっ! 間に合わなかった!」
だけど止められた俺を追い抜きジャンプした影が見えた。
「レイ。大丈夫じゃ。ほれ、前鬼がヘリに取り憑きよったのじゃ。すぐに落としてくれるじゃろうて」
「は? タマさん落とすのはちょっとマズイですって! 進行方向は住宅地ですよ!」
「ぬ? それはマズイの……仕方あるまい。戻れ前鬼! 転移じゃ!」
ヘリコプターの足のところに片手で手を振りながら捕まっていた前鬼さんが、タマちゃんの転移で地上に戻ってきた。
そうだ。方向的に住宅地だ。確かに落ちると相当運が良くなければ被害者が出るだろう。
せっかく政府や自衛隊、それに御三家まで動かして追いつめるはずだった作戦がほぼ失敗に終わった。
聖一と山本先輩の社会的地位を地に落としただけだ。ヘリコプターで逃げた先でも警察に終われることになるだろうが、悔しすぎる。
謝罪会見で何人怪我させたか分からないけど、御三家の現当主が罪を認めたんだ。これで警察も動かざるを得ないだろう。
二葉の消息はまだ分かってないけど、聖一がああやって意識を取り戻しているのを見てしまうと、おそらくだけど二葉も聖一と一緒にいるはずだ。
あの二人についていくなら……いや、聖一にだな。間違いなくついていくと思う。
そんなことをもうヘリコプターも見えなくなった空を睨んで考えていると――
「おそらくですが行き先が分かりました。中部国際空港でしょう。あそこには山本家のプライベートジェットが置いてあったはずです」
「中部国際空港? もしかして国外へ行こうとしてる?」
「その可能性は高いでしょう。少なくともこのまま日本にいても先はありませんから」
「タマちゃん! 中部国際空港まで転移で――」
「聞くまでもないわ! 中部国際空港のダンジョンには何度も行ったことあるのじゃ! 任せるがよい! 転移じゃ!」
「え? タマさん待っ――」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――て! …………はぁ、誰もいなくて助かりました」
中部国際空港、セントレアダンジョン前の、シャトルバス乗り場に転移してきたようだ。
朝だってことと、中部国際空港ダンジョンは人気のあるダンジョンだ。だけどねシャトルバスが出ていった後の乗り場はガランとしてた。
だけど入口付近はいつもの名もないEランクダンジョンとは違い、人で溢れかえっている。
だから遠目だけどそんなところに突然九人もの人が現れたら驚かない方がおかしい。俺たちを指差すものがあとをたたない。
「タマさん、転移は気をつけてくださいね、お願いですから」
「ぬ? 一応転移先の気配は見ておるぞ? たまに見逃すことはあるが」
「それで何回人の上に転移してきたと思ってるんですか……まったく」
……そんなことをがあったんだ。そりゃ人ごみにいきなり転移して、そこにいた人に乗っかってしまうんだから、乗られた人はたまったもんじゃないよな。
「むう。それはそうじゃが……すまんのじゃ、次からはもっと気を付けると約束するのじゃ」
たまたまシャトルバス乗り場で、乗客が降りた後、すでにダンジョン前へ移動したあとだったから良いものの、これが少し前だったらと思うと恐ろしい。
「ですが、今回はタマさんのお陰で先回りができました。ヘリポートまで急ぎましょう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
side山本先輩
危ないところだったわ。ホバリングするヘリに、片腕で縄梯子なんて二度と登りたくはないわね。
『凛様、聖一様、お疲れ様です』
シートベルトを締めたあと、天井からぶら下がっているヘッドフォンをつけたところで声が聞こえてきた。
「ええ。お迎えありがとう。こんなことになるとは思わなかったけど、助かったわ」
『とんでもございません。聖一様の薬も足元アタッシュケースにございます』
『おっ、さんきゅー。まだ大丈夫だけど、持ってた薬は川で流してしまったからな、助かったぜ』
ふう、それなら大丈夫ね。
「それで行き先は中部国際空港よね? プライベートジェットを使うのだから」
『はい、そちらに二葉様と、聖一様の女もあわせて移送しております』
『済まねえな、起きれたのは良かったんだが、ヤらねえとはち切れちまうからよ』
『でしたら、後部座席、ドアの向こうの部屋に三人それ用の者を乗せておりますので、お使いください』
『マジか! それを早く言えよ、山本先輩は今怪我してるから遠慮してたんだよ。じゃあ俺は後ろに行くからまた後で! イヒヒヒヒヒ!』
ヘッドフォンと、シートベルトをさっさと外し、アタッシュケースを手に後ろに行ってしまった。
このヘリが大型のタンデムローターで良かったわ。後部座席は扉を挟んで部屋が別になるから見たくもないものを見なくて済むもの。
『凛様。聖一様の廃棄はどこで?』
「そうね、おそらく私の動きはバレているでしょうから、ヘリポートに捕縛のための部隊が来ると思うのよ」
『その通りです。できればヘリポートではなく、このままプライベートジェットを格納している所へ降りたいですね』
だったらそこね。
「ヘリポートに棄てちゃいましょう。どうせそうできるようにしてるんでしょ?」
『当然です。下部ハッチが開きますので。それに用意した女もうちの手の者はおりません。近いうちに聖一様が壊して廃棄予定だった者たちですから』
「ふふ。聖一くんを落としたあとはタイミングを合わせてすぐに離陸できるよう手配しなさい。もう日本に未練はないわ」
『承知いたしました。では手配が済むまでしばし観覧飛行をお楽しみください』
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