後日談
私は君の後ろ姿を見送ってから、足を進めた。あの場所に。その間、私は感情を殺すためにいっぱい考え事をした。
最初、彼に会った時私は驚きより疑問が勝った。「どうしてこの人は私が見えるんだろう?」と。
私は去年、妹を守って車にひかれて死んでいる。当たり所がわるかったのだろう。即死だった。だから私は見る事になった。自分の遺体を。どうしてこうやって今も現世にいるのかはイマイチわからない。
「未練なんかないんだけどな。」
お母さんは私に苦労をかけたとお葬式で嘆いたけれど、私はそんな気はなかった。だからきっと私がこうして現世にいる理由はお母さんの未練なのかなと、その時はテキトーに予想した。
それから幽霊生活を始めてわかったことがある。
まず、当たり前だが私が見える人はいなかった。特例をのぞいて。
「最初はいろんな人に声かけたっけ…。友達、先生、ちょっと気になってたあの男の子。お母さんにお父さんにも…何日も…」
そして次に私は生きていないものになら触れられることに気付いた。お母さん特性の大好きな花の刺繍入りのハンカチを無意識に持とうとしたときに気付いた。
また、そのハンカチだったら生きているものを触れることにも気づいた。これに気付いた私はそれはもういたずらしたものだ。孤独である心は埋まらなかったが。
「いたずらは、気づかれてやりかえされなきゃ…つまんない」
で、特例について私は調べた。どうやら妹にはうっすら私が見えているようだったのだ。事故の後はなんとなく自宅にいたのだが何度か妹と目が合っては妹が逃げていく事があり、「こいつ見えてるな」と気づいた。
「多分、神社で傷をつけていた時、逃げて行ったのも私を見たからなんだろうな。」
まぁ見られることはそんなに問題はなかった。妹はお化けとしか思ってないようだったから。…いや、そのせいで私は神社に入り浸るようになったのか。困ってないからよし!
問題はどうして見えるのかである。
それを検証するため、私は家からでた。
「家を出た理由は…ほかにもあるけど。」
それからいろんな人に会った。すると、何度か私に気付いたのだ。
その時は確か…
ーーーーー
「ねぇねぇ」
「はい…?何さんだっけ…おんなじ学校だったよね。」
「え!?う、うん。私は羽崎エマ…」
「え…!?どこ…に行ったの?あれ…私疲れてるのかな…」
「おーい!ひとりで何してるのー?」
「あ、ごめん。今行くよ。」
「…」
ーーーーー
名前を言った瞬間、私の姿がみえなくなったようだった。そんなことが何回かあって、私は、私が見える条件がなんとなくわかった。
それは『私の存在を知っている上で、認知してない』こと。
私という存在を一度は見かけたけど、私の事をほとんど何も知らない人が、私を見ることができた。私を見れた人はみんな、私も知らない学校の人だった。
「一瞬でもいいから、少しでもいいから、私を知っている人と話したかったな」
妹が私を見れる理由はわからない。幼い子供の記憶は曖昧だからかもしれない。きっと物心ついたら私が見えなくなる。
だからこそ、彼が私を見ることができた理由は最初わからなかった。
だけど、あの時わかった。彼と、私のお母さんと妹に接点があることに。
彼は妹の胸についている名札を記憶にはなくても見ていたんだろう。
『羽崎 みよ』と書かれた名札を。
それで私の存在にほんの少し触れたんだ。
だからその時、もう一つの事に気付いた。
「名前全部伝えてたら…もっと楽だったかな。」
彼には名前しか伝えなかった。彼は疑問に思っただろう。私も思った。なんで私は言わなかったんだろう。言えばきっと私の姿は見えなくなっていた。別に話してみたかったわけではない。だって知らない人だから。どうして私は…
「わかってるくせに」
…自分が嫌いになる。そう、わかってた。強がっていたが。結局一人であることは怖かった。誰でもよかった。今思えば。彼でよかった。
彼に出会うまでの毎日は、本当につまらなかった。
歩いていたら、あの駄菓子屋に着いた。せっかくだし少しおかし買っていこうかな。
中に入ろうとすると、駄菓子屋のおばあさんが起きていた。子供たちと話している。
「…それじゃ、買えない。」
怖くなった。もう居場所なんてないんだって。
…わかってた。彼との時間が永遠ではないことを。だって私はもう死んでいる。この世にはいないのだ。幸せな時間が終わることは、時間の問題だった。
なのに私は、そんな不安定な居場所から離れられなかった。
私は、あの場所に、最後の私の居場所へと走った。誰もいないあの場所に。
「はぁ…はぁ…」
なんでっ…幽霊でも疲れるんだ。汗がとまんない。
額から。頬から。…目から。
そうして私の居場所に、神社に着いた。
その時、私の動きは止まった。首も、顔も、目も。止まった。
大げさすぎるかもしれないが、こんなに驚いたのは久しぶりだったから。
神社のお賽銭箱の前、石の階段のところに座っていた男の子に目を奪われた。
暑そうにかき分ける黒い髪。ラムネ瓶を傾けて、隣の袋から出した。駄菓子をかじっている。このあたりじゃ見ない、私の事しか見なかった、なんてノスタルジーになってしまうような、かっこいい男の子がいた。
「…?」
「え…」
こっちを…見た?
「…エマ…か?」
彼はラムネ瓶を置いてこっちに来る。
なんでわかるの。見えてないでしょ。
やめてよ、近づいてこないで。
そんな私の思考を無視して、彼は近づいてきた。
…彼はハンカチを取り出した。オキナグサの刺繍が入ったハンカチを。
そして彼はハンカチを手のひらに置き彼の腕は、私の頭を…
頭の横を、通り過ぎた。
「…気のせい、か」
…惜しい、よ。正君。
「もうエマは…いないよな。」
彼は駄菓子のごみをまとめ、ラムネを飲み干し、私の横を去っていった。
私のハンカチを握りしめて。彼の眼の周りは赤かった。
「…それ、私のだから。」
私は彼から……ハンカチをひったくった。
「…!」
彼の驚いた顔は、偶然か、必然か。私の目を、見ていた。
あの夏の君に @kame0530
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