第2話 一日目②
昼食を食べてから少しして、ピンポーンという何とも言えない電子音で家のインターホンが鳴った。
今日誰か来るっけと思いながらインターホンの画面を見るとよく見知った顔だった。
「はーい」
と大きめに声を出しながらドアを開く。
「きたよー、翔兄。おじゃましまーす」
「はぁ…めんどくさい妹が来たなぁ」
「それ本人の前で言わないでよ!!」
12月の25日というクリスマス真っ只中にやって来たのは3歳下の同じ母親の妹である
兄弟で言うと上から4番目の次女にあたる。
一応年齢は17歳なので、現役の高校生だ。
「翔おにーちゃーん、冷蔵庫の自家製プリンもらうよー!」
「食べたきゃどーぞ」
相変わらずの我が家の手作りプリンには目がないことで……。
まあ、一つ物申したいことがあるとするならば、そのプリン作ったの自分なんですが!?
家に来た時にそのプリンがないと彩花は暴走を始めるから仕方なく作ってるけど!
「そろそろ彩花が襲来する頃だと思ってプリン常備しておいて良かったぁ…」
「私としてはプリンアラモードにしてくれても良かったんだけど?」
「だるいからやだ」
「ケチー」
ケチーじゃないよ。
そこそこ金かかるし襲来時期が不定期過ぎて作れんわ!!
「彩花は高校の終業式終わった感じか?」
「そーそー、年末も寮で過ごしても良かったけどお父さんからの連絡があったからね。
「あー、例の9時からのやつね」
「それそれ」
9時まではあと6時間もある。
何をするか考えていると、プリンを食べ終わった彩花から話しかけてきた。
「プリンご馳走様」
「お粗末様でした」
「ところで翔お兄ちゃんは20歳になったはずだけど彼女の1人ぐらい作ってないの?」
「え」
………か…の…じょ……?
知らない単語ですね。
「クリスマスに家に1人でいることからもどうせいないだろうことは予想できたけどね」
「正直うちの親見てるとねぇ、何か彼女とかいてもそんなに父親みたいに相手のことをたくさん愛せる気がしないんだよ」
「…それはわかる。あんなにハーレム築いといて全員のことをあれだけしっかり愛してるのはちょっと私にも無理かなぁって」
なんやかんや彩花も彼氏さん作ってないのかなと思いつつも、それを口に出すのは良くないかと思う。
地雷を踏みそうだからだ。
彩花と談笑しつつゴロゴロしていること1時間、またしてもインターホンが鳴った。
「翔兄、誰か今日来る予定でも会った?」
「いや、無いはずだけど…」
来る予定のない彩花が来てるんだがなぁとは言わない。
インターホンを見ると、またしてもよく見る顔がそこにはあった。
「誰だった?」
「彩花でも知ってる人」
「その言い方だと私が無知みたいになるんだけど!?」
おかしなことを言っている彩花を無視してドアを開ける
「お久しぶりです、兄上」
「しょうおにちゃ、ひさしぶり」
「お久しぶりね、翔お義兄さん」
弟家族3名追加でーす。
「おー、拓郎お兄ちゃん一家じゃん」
「あやかねえちゃもひさしぶり」
「
彩花の言う通り、箔根家兄弟2番目で腹違いの次男の拓郎達一家が来た。
達というのも、拓郎は今19歳なのに対して妻子がいる。
まあ、一言で表すなら学生結婚だ。
18歳になった時に拓郎の奥さん――
入籍時点でもう美鈴さんは大地くんを出産していたから大地くん現在2歳児である。
ちなみに、この美鈴さんアラサーである。
もう一度言おう、アラサーで(以下略
26歳だそうな。
年の差7歳。
拓郎の見た目がショタであるから周りから見ればおねショタだ。
「久しぶり、とりあえず上がろうか」
「おじゃーまします!!」
「美鈴さんは気を付けて」
「ありがとうございます、お義兄さん」
自分より年上にお義兄さんと呼ばれるのは少しむず痒いが仕方のないことだろう。
ちなみに、美鈴さんだけ気を付けてと言ったのは美鈴さん、妊娠中だからである。
見ればわかるが、妊娠7ヶ月ぐらいだろうか。
家に上がらせた後、座椅子を用意して、美鈴さんにそこに座らせた。
「あら、ありがとう。妊婦に優しいのね」
「いえ、うちの親が親なので慣れてるんです」
「あー、お義兄さんの兄弟多いものね」
親の兄弟出産に10回は立ち会ってるんだからこのぐらい余裕だ。
というか気遣わなければ母親達からバッシングを受けた。
「で、拓郎はなぜ家へ?そっちには寮住まいの彩花と違って一軒家あるでしょ」
うちに来る用事など無いはずなのだが。
そもそもここから近いからまだ実家帰りの時期でもないはずなんだけど。
「お父上からの命で兄上と一緒にいるよう言われたのです」
「なのです!!」
「あ、大地くんかわいい。彩花お姉ちゃんのところへおいで〜」
正確には叔母さんだが年齢が年齢だし、お姉さんでもいいか、などとくだらないことを考えながら、拓郎の話を聞く。
「へー、ところで会社の方はどうなの?順調?」
拓郎は高校卒業後、大学に入学しつつも会社を立ち上げた。
どんな会社かは知らないが、天才の拓郎のことだからどうせとんでもない業績でも積んでいるんだろう。
しらんけど。
「僕の会社ですか?聞いても面白くないと思うのですが、聞きます?兄上」
「あー、やっぱ…「しょうおにちゃ、てれびみたい」……いいよ、大地くん」
話を遮られたけど子供だから許そう。
「リモコンどこー?翔兄?」
「ソファー横テーブルの上」
相変わらず畳の上で寝そべっている彩花を動かさせる。
ちなみに、ソファーの置いてある洋室は襖を挟んで隣の部屋なので、ほんの少し手間がかかる。
ササッとリモコンを取ってきた彩花はテレビを付けた。
「大地くん何見たい〜?」
「まほうしょうじょの〜」
お、おう。
もっと低年齢用のものを見るかと思ってた。
2歳児だから、お母さんと〜とかと予想してたけど違ったか。
「ま◯か・ま◯か」
???
「い、今の時間帯はやってないかなぁ……あはは」
彩花、ドン引き中。
というか誰でもドン引きするわ。
2歳児がま◯マギ見るとか。
これは兄として一応弟に聞いておかねば。
「ちょいちょい、拓郎。大地に何見せてんの?」
内容的に2歳児が見るもんじゃないぞ。
「いや、現在会社で作ってる玩具がちょうどこのアニメだったのでアイディアを得るために視聴していたら大地もハマってしまって…」
「ちょっと鬱描写あるからやめさせようと思ってるのだけれどね。なんとかしたいのよ」
弟夫婦はあんまり見せたくない模様。
そらそうよね。
子供の頃の経験は大人になっても響くし。
みんなでワイワイしているうちに時間は過ぎ去って行き、時刻は6時を回った。
クリボッチ回避やったぜとだけ記しておく。
晩ごはんとして拓郎が出前で寿司を頼んでくれた。
料金は拓郎持ちで。
聞きそびれたが、そこそこ大きな黒字になってるらしいから、羽振りがいい。
「さっすが我が弟、32人兄弟で(多分)一番の天才!」
「いよっ!拓郎お兄ちゃんサイコー!」
「兄上と彩花は何をやってるのですか…」
「「何をと言われても弟(拓郎お兄ちゃん)を持て囃しているだけですが?」」
「似たもの兄妹だなぁ…というか兄上はお酒でだいぶ酔ってますよね」
いつもより口数が増えてると言いたげな拓郎の視線を感じるが、無視無視。
こっちは二十歳だから問題ない。
うーん、このマグロの大トロウマウマ。
家にあったよくわからない醤油とあうねぇ。
ちなみに、山葵は家の裏の山産です。
ここで家の奥の蔵にしまってあった推定日本酒を飲む。
うーんこれは。
ウッウッーウマウマですわ。
でもこの酒何かアルコール強い気がするな。
もとから酒に弱いってのもあるけど。
いつもよりも酔ってる。
そろそろ酒はやめないととは思ってもやっぱりうまいものは飲んでしまう。
「…あれぇ?」
「どうしました?兄上?」
「一升瓶あったはずなのにもう無いよ…?」
そんな飲んだ気はしないのになぁ。
「普通に兄上がすべて飲んだのでしょう?」
「そうかも」
あ、ちょっと眠いかも。
「ちょっと横になるわ」
………頭痛い。
くらくらする―――。
◯ ◯ ◯
☆拓郎視点
「兄上〜、何寝てるんですかー」
兄上は多分酔い過ぎましたね。
おそらく酒の影響でしょうが。
そもそもあの酒って神酒でしょうよ。
常人が飲んでしまえば大抵の場合穢れを落とすどころか、”人間”ごと溶かしきってしまいますからね。
それでも溶けないのはやはり我が一族の血筋だということなのでしょうね。
「あー、やっぱ翔兄寝ちゃったかぁ。だってあれだいぶ希釈したとしても、仮にもソーマ10%だからねぇ私達と違って生身の翔兄にはきつかったかぁ」
まるで私達が生身でないような言い方ですが、実際に生身では無いので何も言えませんね。
人であるのかすら微妙ですし。
そもそも一升瓶も飲んだら常人は普通に昏睡するでしょうが、と言いたいです。
「そうですね。彩花。美鈴と大地はもうお眠りになりましたか?」
「うん。もう眠そうだったよ。というか、例の神酒のちょっと飛んだアルコール成分で美鈴さんはダメそうだったし。大地は満腹のまま寝ちゃったよ」
「そうですか。では、私達兄妹で兄上以外に伝わる儀式だけ済ませてしまいますか」
「おっけー翔兄が寝てる間には終わらせようか」
兄上にだけ伝わっていないのは、兄上は覚醒前だということと、お父上の方針ですね。
我が一族は敵が多いもので、覚醒してしまうと自然と敵に狙われてしまうのです。
せめて兄上だけでも平穏な日常を、とでも考えているのでしょうね。
さて、時刻は8時半。
「30分以内に終わらせますよ。……ふぅ―――では、始めましょう」
「「神魂御霊回帰せよ」」
その言葉を発した瞬間、僕達の見た目が変わります。
僕達兄妹の魂は実はこの世界には存在せず、別世界―――世界αとでも置きましょうか―――にあるのです。
世界αにある魂の一部をこの世界に引っ張ってくるのが先程の文言ですね。
制限時間はあるのですが仕方がないでしょう。
本来はこの世界に無いものなのですから。
そんな魂を引っ張ってくるものだからか実はこれ、回帰中は少しだけ見た目も変わってしまうのです。
魂は肉体に関するデータも持ち合わせているので、そちらが本来の姿とでも言うべきなのかもしれませんが。
僕の場合は髪の色が黒から翡翠の色に変色し、目も同様に変化します。
彩花は髪や目の色は変化しませんが、猫耳と尻尾が生えてきます。
我が妹ながら可愛いものです。
「「
まずは周囲への影響を無効化し。
「「
世界へのこれから9時に何が起きてもいいように対策します。
これでおそらくは大丈夫でしょうか。
危険なことは回避できるはずです。
「ふぅ……、疲れました。彩花は大丈夫ですか?」
「うんちょっと寝るー」
「わかりました。僕は起きて9時に何が起こるか確認します」
「おっけー―――ぐー…」
…寝るの早いですね。
まあ良いことですけど。
回帰が終わったので見た目はもとに戻ります。
少しの間の回帰でしたが、やはり疲れますね。
”世界防御機関”という大層な名前をしていますが、そんな大きなものではなく、ここを中心に半径1キロメートルの防御結界を張っているだけです。
世界と名前がついている割に結界の効果範囲が狭いのはこの結界が世界中に点々と主要都市にあるからですね。
結界の強度はあまり分かってないです。
実践で用いたことがないので。
ですが、理論上は核弾頭が来ても耐えることができます。
あくまで理論上なので、実際には弾頭ミサイル程度までしか防ぐことはできないと思いますが。
そもそも結界は効果範囲が広がるとその効果は弱まっていくという特性なので、「もっとも小さな結界で」の場合ならば核弾頭も弾けるでしょう。
その場合は人間1人入れるかどうかの大きさですが。
さて、8時59分です。
鬼が出るか蛇が出るか。
何とも言えませんが、これだけは言えます。
かなりの力の持った存在が来ます。
アナログ時計の針がカチッカチッと鳴らす音のみがリビングに響きます。
………。
「―――9時」
始まります。
◯ ◯ ◯
☆三人称視点
日本時間9時、それは即ち本初子午線―――イギリスの旧グリニッジ天文台を通る経度0度の経線―――においてちょうど正午を示す時間である。
ちょうどそのタイミングで世界に「声」が響き渡る。
「やっほー。神でーす」
そのふざけたような軽い声に世界中の人は呆気にとられた。
===
紹介文の文言は次回です。
(多分)次回で1日目は終了します。
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