脅されていると思い込みツンデレ美少女がやたらと迫ってくるけど俺をNTR系不良先輩と勘違いしていることに気づいてない

神達万丞(かんだちばんしょう)

本編


「ごくり……」

「………………」


 清楚な女の子が制服を脱ぐ。この俺、普通の高校生、神無月雪之丞(かんなづきゆきのじょう)の前で。

 クラスメイトで名家のご令嬢竜石堂玲緒菜(りゅうせきどうれおな)。学園の人気ナンバーワン古式ゆかしいお嬢様が一枚一枚丁寧にはだけていく。


 なんでこんな事態になったんだろうか?

 あれを黙ってて欲しいと意味不明なこと提示してきていきなり脱ぎ始めた。


 まて、幾ら俺が好きな娘以外興味なくてもこれは止めなければならない。こんな現場を誰かに目撃されれば、俺の将来設計が水泡に帰す。


 しかしその前にブラに続いてとうとうくまさんパンツが天高く宙を舞う。

 呆気にとられ俺が怯んだとき——


「このヤリチンチャラ男死ねやぁぁぁ!」

「うわぁぁぁぁ!」


 ヴォーパルバニーの如く俊敏な動きにキリングされそうになるも、間一髪で鈍器の一撃を躱す。

 そのまま俺を殺そうとした武器は勢い余って空き教室の床へ叩き込まれる。


「ちっ! これを避けるとは……まいったわね。完全に奇襲だったのに」


 うさぎさんもとい竜石堂はぼりぼりとゆるふわウェーブヘアの頭をかく。マッパで。ロングヘアーとご都合主義の神のお陰で大事なところは辛うじて隠れていた。

 この女に恥じらいはないのだろうか?


「俺を殺す気か! それにヤリチンでもチャラ男でもないわ!」

「自分の姿を鏡でよく観察してから物事を述べるべし。どう言葉を濁してもNTR系不良先輩じゃないの。まー、あの現場を目撃された以上は口を封じるしかない。やるなら徹底的にがうちの家風なのよ」


 だから私の魂の平穏のために死ねと、更に攻撃をぶんぶん振り回し仕掛ける。相手が必死だから実に避けるのが難儀だ。


「それでもバットはねえだろが!」

「家出したお兄様の置き土産。別名記憶力消去装置よ」

「いやいや、物理的なのは装置ではないぞ」

「うっさい! いちいち細かいのよ」


 猫目だがライオンみたいな迫力がある。

 それにこれが学園一の清楚なお嬢様? どう見積もってもガサツなじゃじゃ馬だろ。今まで学校では猫をかぶっていたということか?

 

「大体どうして俺が命を狙われている? 全く心当たりがない」

「あんた私を覚えてないの?」

「竜石堂と接点なんてないだろ? 貧乏人と金持ち。上流階級とゴミだぞ。クラスメイトでも挨拶を交わす程度」


 じっくりと竜石堂の顔を確認。

 トップクラスな美少女のカテゴリーに入る整った顔立ち、つぶらな瞳、癖毛が強いウエーブがかかったロングヘア。鼻は高くない。ハチミツのような甘い鼻にかかった声。

 体型は幼女体型。背も低い。オブラートに包んで成長過程。なので胸は断崖絶壁だった。


「仕方ないわね。不意に記憶を呼び覚まされても面倒だし教えるわ。昨日私と夜中に会ったでしょ?」

「竜石堂にあったらゼッテー忘れねえぞ………………あ」

「脳内の検索ヒットした?」

「あー、もしかしてあの? 口外しないぞ」

「そんなデタラメ誰が信じるの? 目が泳いでいるわよ」


 確かにおもしろネタで爆笑したが……。



 一日前まで遡る。

 深夜一時。終電も終わり静まり返る東口駅前商店街。

 きらびやかな西口に比べて昭和臭漂う古き良き商店通り。


 俺は神無月雪之丞。埼玉県にある中高一貫校、私立白川桜華学園に通う、ごく普通の高等部ニ年だ。

 褐色で髪の色レモンより薄いけど普通の高校生だ。耳にはピアス一杯してバイトで微笑むと近くの女共は皆逃げ出すけどノーマルな勤労学生だ。


 今日も徹夜の父親に弁当を届ける為、うちの街名物藤棚通りの行き止まりにある警察署へ足を運んだ。

 父はこれでも刑事。とても尊敬している。万年ヒラだけど。

 俺も将来は警察官になるんだ。それが夢。


 帰り道、駅の裏通りにあるバイト先今川焼き屋前でギャルと警官が言い争っている。

 でも違和感が………。


「だから私は違うって説明しているでしょう!」

「あのー」

「信用ならない。最近ホストと不良に不穏な動きが多いから。とにかく親御さんに連絡するぞ」

「それだけはやめて!」

「あのー、どうしたんですかお巡りさん?」

「犯罪やってそうな凶悪そうなツラ。どこの組の者だ? さてはこの子の相手だな?」


 怪訝な顔つきで俺を品定めする警官。

 この人俺のこと知らないのか。困まるな。俺、人相悪いからいつも不良か犯罪者にみられるからさ。これでも勤勉な真面目少年なんだぜ。

 

 いやいやなんでそうなるんすか。俺は知らないです。ここの店の関係者なので気になってっと説明するも、「あーお巡りさん、この人が私のパパ」大きな声で書き換えられる。


「は…………? 巻き込むな!」

「貴方の名前は?」

「だから違うって………………神無月雪之丞」

「神無月? 神無月って、あああ! その鋭い眼光何処かで見たことあると思ったら君が神無月さんの息子さんかぁ、噂はかねがね」


 ろくな噂しゃねぇーなこれ。親父譲りの目つきの悪さがこんなところで役に立っても嬉しくもない。


 そして世間話やこのことは刑事にはご内密にとか話しているうち、意識を戻すとあのギャルは消えていた。

 追いかけますか? と窺うとおそらく彼女は非行に走っているというより物珍しく仮装しているだけで問題ないだろうと職業的にどうよと突っ込みたかったが、これ以上大げさにはしなかった。

 そう、彼女はギャルじゃない。ただのコスプレ。もしくはギャルの模倣。それが違和感の正体。

 

 ——で、現在。


「あの時のギャルが竜石堂だなんで誰も信じないだろうな……しかも本性はこんなに粗暴。あの礼節に長けている才媛はどこに鳴りを潜めた?」


 そう。竜石堂玲緒菜は旧家のお嬢様なのだ。礼儀作法も完璧な古式ゆかしい大和撫子。

 だが……眼前に居座っているのは紛れもなく番長。


「うるさいわね。そうよこれが本性。とにかく家にバレたら面倒なの。特に私の王子様、鳳君に知られたら生きていけないわ!」


 鳳? 確か竜石堂は許婚がいたはずだな。それが鳳飛鳥(おおとりあすか)。

 竜石堂と同じ名家で学園でもカリスマ的存在だ。

 

「で、なんでお嬢様がギャルのまねごとしていたんだ? 俺は商売柄ギャルは見飽きているから本物か偽物かの違いは分かる。あれは酷かった。厚化粧しすぎてピエロだぞ」

 

 意外と人の往来が多いバイト先なので目は肥えていた。確かにあれは好きなやつは見せられないわな……。

 

「あんたには関係ないでしょ!」

「馬鹿野郎。夜のあそこらへんは治安が悪いんだ。お前も食い物にされるぞ」

「それで私はあんたの暗殺に失敗した。もう終わりよ。この体好きにすればいいわ」

「諦めるのは早い。俺は何も目撃しなかった。それでいいだろ?」

「くっ、証拠を残さないためにあくまでも私に選択させるなんて卑劣な……私の体は奪っても心までは奪えないわよ」

「少しは俺の話を歯牙にかけろや。俺に幼児体型の趣味はねえわ!」


 なんで苦労知らずのお金持ちは考え方が一方通行なんだ?

 

「ほら風邪ひくから俺のシャツ着ろ」

「あら、ありがとう。チャラ男のくせに気が利くのね」

「とにかくだ、俺は竜石堂を脅すつまりはな——」

「ハイチーズ」


 パシャリと共にスマホに写っていたのは半裸の俺とワイシャツを羽織ったほぼ全裸の竜石堂。

 しかも写真写りが悪い俺のせいでどう見てもNTRチャラ男……彼氏君見てるー? になっている。非常にまずい。


「何しやがる!」

「保険よ。もし学園や家にチクったらこれをネットにばらまく。もちろん私はモザイクかけるけど。警察の知り合いいるみたいだしまずいんじゃないの?」

「はん。そんな脅しには乗らねぇぞ。付き合ってられない」


 そろそろ本気でこいつの相手をするのが面倒になったので俺は踵を返す。

 ついでに転がっている対の偽乳もとい二重パッドを後ろに放り投げた。大きな音を立ててダイビングキャッチしたのは言うまでもない。


 後日ロリは躊躇なくあの写真をネットに上げ炎上。なんとか生成AIだということで片付いたが、殺されるつもりも脅すつもりもない以上身が持たないので、間を取って竜石堂の下僕に落ちる。

 


 一ヶ月後。


「——で、お前はまた家まで押しかけて来たわけだ」

「やん」


 我が家の押し入れ開けると俺お手製鮭おにぎりに舌鼓を打っていたロリがいた。しかもメイド服で。

 毎夜こいつは家へ押し掛けて、犯罪ギリギリの写真を撮り既成事実を作ろうとする。それでなくても俺は写真写りが悪いので冤罪でも一発で少年院送りだ。


 このように相変わらずやたら迫ってくるので手を焼いている。俺が裏切らないように脅すネタを増やしているのだ。

 毎回毎回、いい加減にしてほしい。好きな人に軽蔑されたら俺は生きていけない。


 ——教室につくと、


「おはよう玲緒菜と神無月君、今日も仲良く登校?」

「おはようございます桃李。違いますよ、たまたま一緒になっただけです」

「お、おはよう、のがいと」


 竜石堂に同調するも緊張して赤べこみたいに振り子運動していた。


 竜石堂の親友で俺の思いびと野垣内桃李(のがいととうり)、相変わらず可愛い。ショートがよく似合うボーイッシュなメガネ女子だ。

 可憐だ。この笑顔のために俺は生きている。

 

「ふふ、相変わらず硬派だね」

「あらあら神無月君、発情しているゴリラみたいに顔が怖いですよ」

「だれがゴリラだ——いたっ!」

 

 野垣内の死角で足払いしてくるお嬢様。とても痛い。

 相変わらず俺と竜石堂の距離は縮まらず。険悪の仲だ。


「どうしたの?」

「机の角に足をぶつけたそうですよ」

「くっ……そうそう」


 苦痛に耐えながら言葉をひねり出した。人相悪い顔が歪み女子達が後退りしたのは言うまでもない。



 夜、脅されて飼い犬みたいな扱いの俺はまた竜石堂に付き合って繁華街を歩く。もう何度目だろうか。

 きっかけとなったあの夜の出会いからこいつの徘徊は続いている。

 何か目的があるようだが、俺に打ち明けることはない。

 なのに危険なところにも平気で特攻をかけるので気が気じゃなかった。


 またギャルもどきになってトラブル起こすよりいいが、そろそろバディーとしてはミッションの公表と情報を共有したい。


 それにしても扱いが劣悪だ。幾ら揺すられているからと言っても俺の立場の向上を望む。ヒールなのは面だけで中身は善人だぞ。


 そんなある日、転機が訪れる。


「——竜石堂いい加減にしろ。どうしてこんな危険な行動をしているのか理由を言え⁉」

「うるさい。あんたは私の従者なんだから黙ってロボットのように働きなさい!」

「おいおい、従っているからってといって訳を説明してくれないと、こんな意味不明なことにいつまでも付き合ってられないぞ」


 また未成年お断りの店に特攻をかける。危なく通報されるところを首根っこ掴んで逃げてきた。

 もううんざりだ。


「い・や・だ。これ以上探り入れるとあの写真ばらまくわよ。それだけじゃない桃李にあんたとのエロ動画を送りつけてやるんだからね」 

「あああ! 堪忍袋の緒が切れた。公表するなら勝手にしろ。もうかまってられない」


 謝ったら許してやる。


「え?」

「竜石堂とこれ以上関わらない。終わりだ」

「馬鹿! ふざけんじゃないわよ。あんたは私の奴隷なんだから!」

「馬鹿はお前だ。本性知ったら誰もそばに寄らなくなるぞ。野垣内も手のひら返すかもな。そうしたら学園にいられなくなるのはお前の方だ」

「うう……そんなことないもん」  


 竜石堂が泣く。

 どうやら地雷を踏んだらしい。


「なんでそんなに俺を信じないんだ? まだ俺が悪人だとでも?」

「違う。あんたが良い奴なのは分かっている。でも私は昔から本当の味方がいない。家でも孤立していた。子供の頃唯一の味方だった家政婦さんも裏切った。だから絶対に裏切らないコマが欲しかった」

「だからってな、脅迫はだめだろ?」

「うるさいな」


 そういうことか。本性晒して裏切られるの怖いから俺を力技で従わしていたのか。

 面倒なものだな普段から演じているやつは。

 

 どうしてこんなことしていたのか? 

 それは鳳に悪い噂が流れていたから。真相を知りたくて探りを入れていたらしい。それと——


「前、たまたま習い事の帰り、道鳳君を目撃したのよ」

「で、気になって後をつけたらその時、身につけていた鳳からもらったアクセサリーを紛失したと」 

「うん」 


 でもお嬢様が来る場所じゃなかった為にたまたま出会った俺を引き込んだようだ。お子様体型の自分と違いヤンキー系だから大人のお店でも活動できると踏んだらしい。

 だけど親が刑事だからいい噂を聴かない鳳のことを悟られたくなかったとか。

 詰めが甘い馬鹿だけど意外と感が良い。


「そら」

「これは……私のブローチ!」

「大事なものなんだろ?」

「ありがとう!」

「どういたしまして」


 商店街の落とし物として組合本部に保管されていた。ブローチの形状は遠足の集合写真で確認済み。

 俺はなんとなく察していたのだ。


 あのとき竜石堂が慣れないギャルに変装していたのは鳳の情報集めと落としたブローチを探す為とはいえ、治安が悪いエリアに単身で乗り込むほどまで熱の入れようだとはね。

 

「神無月、私に協力して? 鳳君が何かに巻き込まれてないか心配なの」

「あいつを信じよう。ガキの頃から大好きなんだろ?」

「でも……」

「ならさ、俺も全面的に協力してやるよ。それとお前のできるところは今までどおりにあいつに接することなんじゃね?」


 中等部のころから鳳の噂は聞いたことがある。でも持たざる者達のひがみだと一蹴してきた。

 竜石堂の不安を取り除くためにもくだらん風評被害を正したほうが良さそうだな。


「それとお前は俺のこと駒程度にしか見ていないのだろうけど、あんな脅し使わなくても俺はお前を裏切らない。約束してやる」

「嘘」

「嘘じゃねぇ」

「嘘だ」

「嘘じゃねぇって。そうだな。片想いの盟友関係なんてどうだろうか?」

「なにそれ?」


 俺達の新しい関わり方を提示。


「竜石堂と鳳」

「神無月と桃李……悪くないわね」

「だろ?」

「裏切ったら殺す」 

「おお、こわ」


 こうして俺達は奴隷と御主人から恋を成就する為に協力し合う同志となった。



 一ヶ月後


 今日は七夕の日。

 この頃になると関係も軟化。ほぼ共同生活しているのだ。呉越同舟といっていい。


「ねーねー雪之丞、どうやったら鳳君振り向いてくれるのかな?」

「色々仕掛けたけど仲が全然発展しないもんな」


 毎回毎回上がり込んだせいで秒でバレ、今や親公認になった竜石堂は堂々と家に転がりこんできた。

 今では晩御飯を共にするのは当たり前で、休みの日に至っては朝からここで怠惰を貪っている。

 今も今夜のおかず竜田揚げをほうばりご満悦。

 なんでも家ではお手伝いさんが作り置きしているのをレンジでチンするだけなのであじけないそうだ。

 俺はそっちのほうが羨ましいと思うけど、ひとりぼっちのご飯は味気ないそうな。


「おじさまは?」

「仕事。今日も帰らないってさ」

「相変わらず刑事さんはハードだよね」

「ああ。あとで弁当持っていかないとな」


 この頃になると、もう友達感覚というかお互い片思いしている同志になっていた。

 悩みを共有して色々と作戦を立てては失敗している毎日だ。

 

 最近は色仕掛けしないからチャラ男の誤解はようやく解けたんだろうか。

 しかしそれにしても距離が近い気もする。いつの間にか名前呼びだし。

 

「ねぇねぇ雪之丞、今日暑くない?」

「お前がまたベタベタくっついて離れないからだろ」

「友達なんだからいいでしょう?」

「でもなー、男女なんだからもっと節度を持ってだな、清い関係を築かないと」


 竜石堂は毛糸のパンツを編んでいる俺の背にもたれかけてゲームを興じている。なので友へ距離感がバグっていることを指摘しても上の空。


「私のパンツに対するお礼。一番の信頼と受け取りなさい相棒」

「こんなところ野垣内に見せられないな……」

「はいはい野垣内野垣内、そんなにあの子がいいのかね。胸大きいもんねぇこのエロゴリラ」


 途端に機嫌が悪くなる竜石堂。ヤキモチか? まさかな。

 外に飾ってある短冊には野垣内と恋人になれますようにと願掛けしておいた。



 今日は新たなミッション。

 鳳の誕生日にプレゼントを贈りたいということで街で一番大きい大型ショッピングモールへ来ていた。

 なのだが…………、


「こんにちは神無月君」

「野垣内。コココココンチニワっす」


 まさかの神様からサプライズで脳が硬直したのは言うまでもない。

 

「私も付き合っていい?」

「……すまん野垣内。約束があるんだ」

「ううん。いいの気にしないで。もしかして相手って玲緒菜?」

「そうだ。プレゼン——いやデートだ」

「デートか。そっかそっか、私お邪魔虫だったね。出遅れちゃった」


 そんなことないと言おうとするもその前に姿が消えていた。


「あーあ、あんた馬鹿じゃないの。せっかくのチャンスだったのに。本当の事白状すればよかったじゃん」

「そんなわけ行くか。ダチとの約束のほうが大事だ。お前を絶対に裏切らない。もちろん好きというわけじゃないぞ。勘違いするな」

「はいはい。しないしない。あんたは桃李一筋だもんね。愚直で不器用なところも好きよ。もちろん友達として」


 竜石堂は何気に顔が赤い気がする。夏風邪かな? 今夜は何か精がつくものでも作るか。


 でもよ改めて考察するとこれはデートじゃねえよな。野郎のプレゼント選んでいるだけだ。

 でも、困っているダチの手伝いできるのならこれはこれで本望だ。悔いはねぇわ。


 閉店時間まで粘りに粘ばった結果漸くプレゼントを決めた竜石堂。バスケのリストバンドだ。


「鳳君だ」

「鳳?」


 まただ。なんで良い子ちゃんの鳳がこの時間に出歩いているんだ?

 まぁ真面目なあいつのことだ、塾の帰りだろうな。余計な詮索はしない。

 そんなときもう一人顔見知りと出会う。


 後日。

 学園内で渡そうと躍起になるも、竜石堂のドジ属性のせいで大変だったがようやくプレゼント贈呈にこぎつけた。


「ありがとう、玲緒菜ちゃん」

「うん」

「大切にするよ」

「うん」


 誕生日プレゼントちゃんと渡せたようだ。良かった。

 でも気のせいだろうか、緊張も真っ赤にもならなくなったなあいつ。

 俺といる時の方が赤い。大方夕方に合うのが多いせいだろう。



 その夜中。

 竜石堂と連絡がつかない。最後にメールが来たのは夕刻頃。カレーライス指定してきたから準備して待っていたが一向にくる気配がない。

 嫌な予感がして俺は手当り次第探し回った。

 諦めかけたその矢先、運動公園で見たものは竜石堂。

 鳳に物の如く乱暴に扱かわれる少女。酔っているのだろうが一向に起きない。


「竜石堂!」

「あーあーなんだよ、せっかくのお楽しみの最中だったのに。よりにもよってお前かよ」


 竜石堂のお気に入りのワンピースが破けて肌が露出していた。同意の上なら退散するが明らかに強姦。


「鳳……おまえ何をやっているのか理解しているのか?」

「ああ、もちろんさ神無月君」


 いつもと様子がおかしい。爽やか好青年のはずがイヤらしい不敵な笑みを浮かべている。


「それがお前の本性か?」

「ああ、普段はいい子ちゃんやったほうが親や教師の受けがいいんでね」


 あいつがとてもとても一生懸命にせっかく選んだプレゼントが捨ててある。しかも踏んだあとだ。……許せねえな。これは許せねえな。


「鳳……やっていいことと悪いことがあるぜ」

「あいつは俺の女だな。昔からな。だからどう扱おうが俺の勝手だろ? 金貢がせる為に他の女同様ホストクラブで骨抜きにしようと思っていたんだが俺しか興味がないらしい。アホらしい」

「ふざけんな。ボケナスが。お前はあいつのことが好きじゃないのかよ?」

「すきなわけないだろう、こんなガキ。財産目的じゃなければ誰が近づくもんか」

「はぁー。イカレチンポ野郎がくたばれや!」

「くくくっ、悪いが俺は用心深いんだ」


 ゾロゾロと物陰から仲間が姿を現す。

 親父が最近界隈で幅を利かせている不良チームがいるときいたがこいつらのことか。

 女を食い物にしている最低野郎ども。


「このゴリラ殺したら俺のフィアンセ幾らでも好きにしていいぜ。俺がやり飽きたあとだけどな」

「頭きた」


 不良達が一斉に殴りかかるも俺は抵抗しない。もちろんマゾではないぞ。正当防衛の理由になるからだ。


 俺はすべて叩きのめした。粉々に粉砕した。竜石堂の恋も何もかも。


「ひぃ、許してくれ! なんでもする」

「鳳よ俺が許すわけ無いだろ?」


 過剰防衛にならない程度にぶちのめしてやるよ。

 よほど恐怖に感じたのか、みっともなく鳳はおもらしをした。



 後日。


「雪之丞のばかばか!」

「すまん、お前の好きなやつ傷つけてしまった」

「んなもんどうでもいい! 雪之丞の方が心配だよ!」

「冗談でも嬉しいよ。本当ならオレみたいな馬鹿見放すのだろうけど」

「冗談じゃないわよ。雪之丞が大事なの。側にいてくれないといやだ!」


 いいやつだ。でも好きなやつより友達優先したら駄目だろ。


「竜石堂気を使わなくていいぞ。俺が起こしたゴタゴタに巻き込まれる」

「鳳君が親使って訴えてきたんでしょ。卑怯よね。私は許せない。こうなったらあいつに仕返ししよう」

「なにする気だ?」

「襲われた時の動画を送りつける」


 たまたま回していたのを忘れていたらしい。


「それでいいのか? 好きだったんだろ?」

「うん。権力とエロいことしか眼中にないフィアンセなんてお断りよ。百年の恋もさめた」

「お前悪人の才能あるな……」

「お気に入りの玩具に攻撃を仕掛けるのならそれ相応の罰を与えないと気がすまない」


 ——とくくくっ笑う。

 まだ何か企んでいそうだ。

 裏切りの代償と私の大事な雪之丞に手を出した報いを受けてもらうわ……ブツブツなんか良からぬことを呟いているが聴こえなかった。


 ——その後鳳は病欠になり学校を退学したのは言うまでもない。許婚も解消されたそうな。そのあと親父の話だと最近起きている事件の主犯格として逮捕された。

 なんでもずっとマークしていたそうな。俺達の関係性も春から掌握していたらしい。刑事こえー!

 でも、鳳の親が訴えを取り下げた決定打になったのは春に撮ったあの俺と竜石堂のツーショットらしい。でもなんであんなにショックをあたえたのか俺には理解できなかった。

 それはあんたがいかにもワルっぽかったからでしょ、私のNTR系不良先輩、と竜石堂は意地悪にほくそ笑んだ。


 日常が戻り秋。


「——雪之丞、こうなった以上責任取りなさいよね」

「責任?」

「そう私の本性学園にバレちゃったじゃない、今までのようにはいかないじゃない、だから学校生活を謳歌する責任だよ」


 そういって俺が揚げた竜田揚げを豪快に一個口に放り込んだ。

 非難されて行き場をなくした俺に、未だに鳳を擁護する学園生徒へブチ切れた竜石堂が校内放送で訴えたのだ。


「それは仮面令嬢演じているのが悪くね?」

「うっさい。筋肉ゴリラ。でも寛大だからご褒美に私の名前を呼ぶ権利をあげるわ」

「いらねーわ」

「なんですと!」

「価値がインフレスパイラル起こしたお嬢様になんの喜びも湧いてこないぜ」

「そんなこという奴はこうだ!」


 竜石堂は俺の頰にキスをした。普通なら嬉しいがなぜか嬉しくない。

 何故なら唇が油まみれだから。

フローラルな香りを期待したが香ってきたのはゴマ油……香ばしかった。漢字は一緒だが意味が違う。


「本当お前は唐揚げ大好きだよな」

「好き好き大好き♡」


 満腹になったのか幸せそうに俺に身を預けてきたので肩を貸してやった。


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