第二十四話 「助けなければ」

「昨日さ、剣の緑色の柄を森で見つけたんだけど、何でか知らないけどそいつトラばさみになったのよ。んでそのまま森に放置した。だからそのトラばさみの様子見に行こうぜ! ジビエ肉食えるかもよ!」


 放課後、自分が友達になろうとしていたヤンキー三人組のうち、少し小柄な色白マッチョの小野がほかの二人を誘っていた。


 これを聞いたとき、彼らについていく理由が一つから二つに増えた。


 元々あった、理由その一。憎めない人柄で人気なヤンキー三人組を何かから守ることで、友達になるため。


 そして今できた、理由その二。面倒が起きる前に緑の柄とみられるトラばさみを回収することで、トラばさみの面倒に巻き込まれるはずだった誰かを、未然に守るため。


 教室から三人が出てきたところで、構わず自分も後ろをついてゆく。昇降口から出て、彼らがまた自分に気づくと、コソコソ何かを話し、朝のときと同様に足早に撒こうとしてきた。しかし、撒かれないように同じくらいかそれ以上の速さで歩く。


 そんなこんなのまま、自分と三人は学校の裏にある、広葉樹が多い森を進み始めた。


 普段は生物の授業の一環で近寄ったり、入ったりするときもあり、中を進もうが何も思わないはずだが、なぜだか今は、胸が躍っていた。「守ることで友達なる」と「もしもの時のために緑の柄を回収する」という目的で、自分が絶対に変われる気がしてならないからだろう。


 森の中でも、彼らは曲がりくねるように歩くことで自分を撒こうとしていた。だが「絶対に変われる」と想う心持を前に、その行動は自分の肉体にも、精神にも、意味をなさなかった。


 草を踏み始めてからどれくらい経っただろうか。何度も何度も同じところを歩いては通り過ぎるうち、日が地に近づいてきた。

 三人のうち、ハリー・ポッター丸眼鏡の楊木が後ろを振り返り、自分を見つけた。


「ねえ、親が心配するんじゃないの?」


 小野がすかさず乗ってくる。


「そうだよ。それにそろそろテストも近いし、勉強した方がいいと思うよ」


 ポンコツ高身長の呉尾もノリに気づく。


「そうだよ。それにお前、学年一位をとったら有名になれるし、親も喜ばせられるぜ!」


 急いでいる口ぶりから、これは明らかに自分を避けようとしているのだろう。それとも言葉通り、純粋に心配しているのだろうか。真偽を確かめるべく、それに乗ってみた。


「じゃあ四人で、僕の家で勉強しよ!」


 その後、三人は何も返さず、また森の中を進み始めた。だが今まで向いたことないへ、今度はくねった進み方なんてせずに、真っすぐだった。


 行先には、緑色に小さく光るものがあった。近づくたびに、だんだん大きくなってゆく。


 残り十メートルのところで、光源の正体が分かった。


 ひっくり返って地面に刺さった、浸るの光を放つ棒状のもの。


 モスグリーンの包帯が、ボロボロになって巻き付いていた。それも穴が開き、土に汚れ、もっさりとした鮮やかな黄緑のコケができてでも。


 目を凝らすと、空を差す金のプレートは「緑」と刻印されているようだった。自分が持つ赤の柄の、柄尻に付いたプレートとは形状と色が同じだ。


 明らかにこれは、緑の柄である。


 しかし、小野の話通りならトラばさみになっていたのでは?


 呉尾がそこへさらに近づいたその時。


「いったぁ! 足が! マジで足が!」


 空気が抜ける風船のように、素早くしゃがみこんでしまった。気の合う友人として、小野と楊木が彼に手を伸ばす。


 そのとき、地上に露出した木の根の間から放たれたものが、手を差し伸べる二つの腕に縛りついた。


「うわあ! いってぇ!」


「血が……上腕二頭筋から血が!」


 それは、緑色に光る茨。バラよりも長いトゲが生えており、彼らの腕や足を切り裂くほどに締め付けていた。


 まさかあの緑の柄が、地面から生やしているのだろうか?

 それなら、ヤンキー三人を助けなければ。

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