色の柄の誕生
第十三話 「剣色」
翌日の放課後。改めて土地神様に挨拶するべく、色生神社へ急いで向かった。
非常にまずい。今日は先生から学校生活のことで呼び出されたばかりに、昨日青海さんとした約束に遅れてしまいそうだ。
そしてついに着く、と思ったところで新たな壁が立ちふさがる。
境内に行くまでの長く急な階段だ。
夕日に照らされ、橙色に染まるそれ。
ここは赤の柄の力に頼り「駆蓮奈行」で高速移動したいが、
なんだか土地神様への冒涜になる気がしたので、一段ずつ踏み込んで駆け上がる。
登り切った。息は上がり、顔は真っ赤だがなんとか時間に間に合った。
息を落ち着かせる意味合いも込めて、お辞儀して赤い鳥居をくぐる。そこにいたのは、真っ白な白衣に朱色の緋袴を着た、青海さんだった。
青海さんは今、巫女さんとして緋い袴を着ているのに対し、僕のネクタイは昨日と変わって青色だ。
昨日の戦いにて、あの黒の柄で生まれた男の「執刻」によって赤ネクタイが切れてしまったからだ。
そこで、新しく購入することにした。だが、親にバレていろいろ面倒が起こらないように、ネットの注文ページにて、不本意ながらも自分の口座で支払って注文した。
しかし、制服を購入してから納品されるまで時間がかかるようで、しばらくは青ネクタイになりそうだ。
ちなみにその時はワイシャツも切られたが、ワイシャツはまだ他に二着あるので買い足す必要はなかった。
さて、巫女さんの青海さんはお手伝いでなのか、参道脇の砂利に落ちる枯葉をほうきで掃除しているようだ。
「青海さん、こんにちは」
今までできなかった挨拶。決して受け身にならないこと。昨日の激闘の末にちょっと変わることができた。
青海さんが手を止めて、こちらに気づく。
「あ、昨日の赤の柄の、名前は赤山…」
「赤山 盾です。青海さんの下の名前は確か、つるぎですよね」
「会ったばかりなのによく覚えてるね」
「それは共に戦った仲ですから。ところで、今日同じ学年の教室で見なかったのって…?」
「あたしは2年だけど、あんたは?」
「1年の3組です」
「同じ3組かあ。たまたまだね。じゃあ約束通り来てもらったし、昨日できなかった報告、一緒にしよっか」
「はい!ありがとうございます」
相手の目を見て話す。これも変われたことの一つだ。
相手の目を見て話すのはすこし緊張するが、いろいろ分かることもあった。
それは、青海さんは青への執着が強いこと。
話している間中、青海さんはちらっ、ちらっと、僕の青ネクタイに視線を何回もずらしていた。
昨日の服装といい、そんなにも青いものが好きなのか、青海さん。
そんなにみられるとちょっと恥ずかしい。
そんなこんながありつつ、青海さんが一旦事務所に行くと、巫女姿から昨日と同じセーラー服姿になって出てきた。だが彼女のスカーフも激闘で斬られたためか、ブルーできるはなく赤だった。
そして改めて二人で鳥居をくぐり、共に境内へ行く。
二礼二拍手。
土地神様、昨日は赤の柄を使わせていただきました。そのご縁を経て、まずは、受け身だった自分から変わることができました。本当にありがとうございます。
それと、僕に夢ができたんです。
「想像を、幸せを実感するために使う」
という夢です。変な夢かもしれませんが、これは、僕が変わりたい、そして将来も変えたい、と思った矢先、赤い柄を掴み、青海さんなどいろんな人と出会ううちに生まれた考えなので、夢です。
それに、幸せを実感するために想像を使えないまま、消えてしまった者がいるから。
この夢は、僕が「変わりたい」と思ったとしても、土地神様がもたらした「赤の柄」を掴まず、そこからいろんな人との出会いがなければ見つかりませんでした。。
剣の色を通して、いろんな人に出会ったことでできた夢。
言うなれば「剣色の夢」です。
ここに、赤の柄を使うこと、剣色の夢ができたことを報告します。
一礼。
ふと頭を上げ、境内の後ろを見る。
川のしぶきが、僕の夢を応援している気がした。
さて、報告は終わった。青海さんにまた挨拶して、家に帰ろうとした矢先。
さっき青海さんが掃除した参道脇の方を振り返ると、いかにも熱血で、大柄なおじさんが立っており、僕と目が合ってしまった。
「つるぎ、その方は誰だい?」
人生の苦楽を経験した男性特有の、優しく、緩やかな低い声が、僕の背中と耳を撫でた。
白い白衣に紺の袴の装束。スポーツ刈りで、青海さんと同じく紺に近い黒髪。まさしくこの神社の神主さん、青海さんのお父さんだ。大体185cmの背丈で、彼にとって僕は、彼の首までの高さだ。
三白眼で、がっちりとしつつ、目鼻立ちの整った顔つき。そして目力がすさまじく、口元はふんわりと口角を上げている。気のせいか、装束がぴっちりとしており、筋肉も凄まじそうだ。
「もしかして、君が赤山くんか」
親しみやすい問いかけだった。
初めて会ったときの青海さんとは対照的に、こんなにも暖かく、優しい人だ。なんだかこっちまで心が温かくなる。そのため僕はこう答えた。
「はい。そうです!」
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