夜の色生神社での戦い
第八話 「色生神社」
危機的な状況を打開したから気づいたが、先ほども今も、妙に冷静な自分がいる。
普通、自分の周りで砂嵐を起こされては殴られ、頭が蛇の危ないロボが出す電気で感電したかと思えば、自身が全身火だるまになるだなんて、普通なら冷静じゃいられない。むしろパニックに陥るだろう。
だがどんなときでも、逃げず、焦らず、意識も飛ばず、気をしっかり保っていられた。
これは、才能ともいえるのだろうか。
一方青海さんは青の柄を拾い上げると、目尻と眉間を下げ、申し訳ない表情をした。
「赤山。今日、散々な目に合わせて、本当に、うっ、ごめんなさい」
「いいよべつに。 本当に僕、赤の柄に出会って変われた気がするし。 それに、思い出に対して、青海さんが言いたいことを言うことができて、幸せを実感できたんじゃない?」
「たしかに。 特急に、あの時の感謝や思っていたことを伝えられてよかった。 それに、あんたに出会ってなかったら、この先も柄の使い方を間違えていた」
「柄の使い方を間違える、というのは?」
「ああ。 柄は、掴んだ者の想像を具現化させるもの。本来はこの色生市に生きる人たちを守り、喜ばせ、幸せにするために、ここの土地神様が作ったとされているの。 だからあんたが言うように、幸せを実感するために想像を使い、柄を使った方が、土地神様が喜ぶ。 けどあたしは、あんたを傷つけて、自分勝手に現実から逃げるために使ってしまった」
「それはそれ。今は今からだよ青海さん。 言ったでしょ。想像は、幸せを実感するためのもの」
ん、そういえば。あなたが言うように想像や柄を使うと、土地神様が喜ぶって、どういうことだ?
つまりはそういうことか?
「ところで、土地神様が喜ぶってことは、この柄、僕が持ってていいの?」
「ええ。 あたしが回収するって言っても、悪い使い方をする人からだけ。 あんたみたいに、想像を正しいことに使う人からは回収しないわ。 想像の暴走の心配がないし、あんたに使われたいって、柄も、土地神様も思うだろうから」
「なら、ありがとう」
僕は、ついに今から、変われる。
今、希望にも思える確証を抱くことができたのだ。ありがとう土地神様。
そんな風に喜びをかみしめていると、青海さんがこんな提案をしてきた。
「そうだ、あんたが赤の柄の持ち主になるなら、土地神様に報告しないと」
そうして土地神様に報告するため、青海さんに連れられ、公園から歩いて到着したのが、通学路でよく通る「色生神社」。この神社こそ、土地神様を祭っている。そしてこの裏の川で、小学校の頃によく遊んでいたのだ。
夕日は日没しかけているが、それに急かされるように、境内までの急な階段を駆け足で登ってゆく。ところで、なぜ青海さんは、柄を探して、時に回収するのだろうか。
「ねえ青海さん、なぜ、柄を探しているの?」
「あたしの父がここの神主だからよ。 なんていうか、一族のつとめみたいなもの」
なるほど。神社の事ともなるから、責任が重そうなつとめだ。なら、初対面の時に必死に赤の柄を取り戻そうとしたのは合点がいく。
境内までの階段を登りきり、鳥居をくぐる。
ふと後ろを見ると、夕日はもうすぐ沈み、最後の光が地平線に抗っていた。空に橙色は残っておらず、ほとんど紫色や、暗い青色などの暗い色に染まっていた。町の家やビルもそれとともに綺麗に一望できる。
手を清め境内へ向かう。
「じゃあ、一緒に報告するわよ」
左にいる青海さんがそう言い、お互い、甲高く二礼二拍手して目を閉じる。
報告するといっても、心で何を念じるのか、よくわからない。
「赤の柄を使うのを報告します」などだろうか。
そして、相変わらず変なにおい。川から湿った藻の空気が漂う。
少し失礼なことを思ってしまったが、一礼して目を開けると、何か変だった。
何かが足りないような。それとも夕日が沈み切って、周りの神社の電灯が点いたからだろうか。いや違う。何か、変に左側が開放的すぎるような。
左側。
左側には、青海さんがいたはず。
しかしそこに、青海さんはいなかった。
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